エメラルド・ジンジャーエール・王の帰還①
目覚めたのは、いつもの部屋だった。軽く力を抜く。悪寒は既に去り、微かに温いシーツが敏明を包んでいる。いつもの天井。
いつものにしては、微かに愛着が芽生えている。新鮮味も何もないただの壁に、安心感を覚えていることに気付く。美菜といた部屋。美菜といる部屋。
隣には、美菜がいた。
また飲んでいた。
もはや見慣れた光景。ぼんやりと見ていると、美菜も敏明が起きているのに気付いた。おはよう、も。気付いた? も言わず、言われたのはこんな言葉だった。
「敏明さん! 私と一緒にウジャムンガ神の力を見せるのよ!」
寝ぼける敏明に構わず、美菜はいきなり切り出した。敏明が寝ている間に飲んだのか、薬酒の缶が二つ転がっている。
「……人斬りは、どうなった」
「私の巫女パンチで逃げていったわ! ウジャムンガ様の御力ね!」
「……あいつは、ただの人斬りじゃない。俺を狙っていた」
「きっと、私の事情がどこからか漏れたんだよ! 逃げた巫女を匿う一般人! をムッ殺すためにー……なんだかあの人の服装、下層の人たちじゃないみたいだった」
「お前を、か……」
であれば、美菜を狙うはずだ。いくら謎パンチが強くても、あの気配遮断能力を持つ者であれば勝てるだろう。なのに、美菜が加勢した途端、奴は逃走した。
(……俺を……)
嫌な予感がして、顔を顰める。
「だから、ウジャムンガ神を降臨させましょお兄さん! そうすれば、あんな人斬りにだって勝てるわ! 下層の過酷な状況で生きていくんだもの、これくらいはしないと!」
「お前、創世教の神にぶっころされかけたんじゃなかったのか」
いくらウジャムンガとやらが良い神であろうと、数日後で降臨しようという図太さは。衝撃は。倫理は。美菜には……。
「なさそうだな……」
「失礼な想像してない? 創世神みたいな派手なものじゃないわ。お兄さんを守護してもらう程度の力だから、町が混沌になるくらいで済むわ」
(それは壮大すぎるのでは?)
ともあれ。下層がこれ以上混沌になるくらいであれば問題ない。既にカオスすぎる町なのだ。今更ちょっとくらいおかしな神が増えても、何も変わらないはずだ。
変われないはずだ。
「まずは、何か偉大なことをして、みんなに認められるの! そうすれば、ウジャムンガ神は再び王に戻ることができるわ!」
「……王に」
微かなイメージ。
人類の王。生贄。創造物の王。
古い歌に記された、太陽のように輝く力強い星。
力が湧く。本当に久し振りに、久し振りに、はっきりと他人の顔を見た。美菜の茶色の瞳を見た。
「……やるか。王に」
「やたーっ! としあっきー大好きっ! 今度焼き肉奢るわ、食べたこと無いでしょ!?」
デコピンを食らわせた。
「いたぁい……て、女の子を放置してどこへ!?」
「外へ」




