花は辿る道を見抜く
王都安宿に泊まったエリーと騎士団は、翌朝、身支度をし、王城へ向かう支度を整えていた。
「今から行くのね…お城へ」
エリーは、持ってきたバスケットから自分の服や装飾品を取り出して身につけ、治りかけの腕の傷に包帯を巻きなおしたばかりだった。
貴重品が入れられた袋の中で目に留まったのは、ミーフェがくれた護身用の小剣だった。
ミーフェ、あなたは自分がもしいなくなったときに私が死なないように用意してくれたのね。
自分が居なくなることも、分かっていたの…?
エリーは、自分のドレスの肌触りのよい裏地の隙間に、あのサファイアブルーの頭巾でくるんだ小剣を忍び込ませた。
「何かあるかもしれないし、バースさんに迷惑ばかりもかけてられないわ。自分のことは自分で何とかしましょう!」
エリーは不安を消しきれない表情で決意した。
そして、個室から廊下へ続く扉の物音に気付いた。
「トントン…エリーさん、準備は宜しいかい」
扉の向こうの声はバースだった。エリーは声を張り上げて返事した。
「ええ、丁度終わりました。今行きます」
そして、荷造りを終えた大きなバスケットを宿屋の亭主に預けると、貴重品を愛用のハンドバッグに放り込み、宿を後にした。
王城を真正面から見上げると、この大理石の階段は、ミーフェも歩いたのだろうと、思えた。
正面に佇む巨大な鉄製の扉は、昔の戦歴を物語るかのように、あちこちに傷が浮かんでいて、親しみを感じることは出来ない様だった。
「………」
エリーは、無言のまま入城届を済ませ、王城外で待機しているバースを除く騎士団員にちらりと目線を移して、バースと共に遂に王宮へ足を踏み入れた。
「エリー様、無事に行けたかしら。カルビナ帝国って、とても恐ろしい国だと聞いていますわ」
ヴィアナ王国王宮内に仕える侍女の1人が、声を低くして他の侍女に目くばせした。
「昔はここら周辺を全て従えていた大国だと聞いたことがあります。無事にたどり着ければいいのですけれど…結婚式にも間に合うかどうか、あと五日なのですよ。結婚式は」
「そうですわね…エリー様も少し無謀と言えますわ。いくら専属騎士を助ける為とはいえ、結婚式のことも考えずお探しになるなんて」
「そういえば、私疑問に思っていることがあるのだけれど…どうしてエリー様のお付の侍女ともあろうセト様が、エリー様が出発することに反対しなかったのかしら。」
ある一人の言葉で、侍女たちが使う部屋はたちまちその話題で盛り上がった。
「セト様は、もとはエリー様の前の令嬢に仕えていたとか、いないとか。」
「あの人、まだお若いのに、どうして侍女長を務めさせてもらえてるのかしら。私たちと同じ年代に見えますわ。」
「…ねえ、気づきまして?今はお昼休みなのに、セト様はお帰りになっていないわ…」
その言葉に、侍女達は不安を覚え、エリーが療養していた塔や王宮中を探して回った。
だが、エリーが消えたのと同じように、セトが見つかることは遂に無かった。
「女王陛下、客人が参られました。お通ししましょうか?」
衛兵の声がサラの元へ届くと、すぐに答えが返ってきた。
「いいわ、通して。それから、すぐにお茶の用意をして頂戴」
「ははっ」
暫くして女王の玉座の前に通されたのは、煌びやかなドレスを身に纏い、頭にはこれでもかという程装飾品が施された帽子をのせた若い女だった。
「女王陛下、お久しぶりのご対面、誠に嬉しゅうございます。私、アルデンヌ・デルラシュリアは、あなた様直々のご命令による任務を終え、たった今女王陛下のもとへ、懐かしい故郷へと戻りました。」
女は帽子を取り、硬い質感の黄金色の髪を床につけるようにして頭を伏せた。
サラは、嬉しそうに身を乗り出した。
「よくぞ戻ってきてくれましたわ、アルデンヌ。任務を全うしてくれてありがとう。心から礼を言うわ。さて、別室で思い出話でも聞かせてもらえるかしら?」
サラは意思を伝える眼差しでアルデンヌを見ると、アルデンヌは深く頷いた。
「勿論です…あなた様の意のままに。」
アルデンヌは、瞳にしっかりと女王の姿を刻み込んだ。
はるか昔から映りこんでいた、本当の主の顔を思い出すかのように。
「今は駄目というのですか?私はヴィアナ王国公爵令嬢なのですよ。今すぐここを通してください。」
エリーは待合室で二時間も待たされた挙句、いまだに女王と会えないことに腹を立て、力ずくでも兵を破り女王の元へ向かおうとした。
「お、お待ちください。今女王様は他のものと面談しているのです。さっきから何度も言っているでしょう。」
兵はエリーから浴びせられる殺意に満ちた目を必死に逸らしながら扉から向こうは行かせまいと粘った。
エリーは暫くその兵士に熱い視線を投げかけていたが、ふと思いついて、またおとなしくソファに座った。
「…もういいわ。そこまで言うならもうちょっとだけ待ってあげる。バースさん、ちょっと聞いて。」
エリーは浅い眠りから覚めたバースの肩をちょんちょんと叩き、兵士に聞こえないようにそっと耳打ちした。
「…分かった。じゃあ私は時間までまた眠るとしよう」
バースは軽く頷くと、また瞼を閉じた。
エリーは不敵な笑みを浮かべると、兵士にあることを頼んだ。
「兵士さん、さんざん叫んだら喉が痛くなったわ。お茶の替えを用意してくれる?私冷たくなったお茶だ何て飲みたくなくてよ」
兵士はようやく落ち着いたと一安心し、同時にあの騎士と何を話したのか聞きたくなった。
「では侍女に頼んでおこう。して、その騎士と何を話したのだ?」
エリーはくすりと笑った。
「あら、あなたはこの帝国の兵士のはずよ。いつからヴィアナ王国の行政に顔を突っこむようになったの?さあ、早くお茶をくださいな。」
エリーの有るまじき変貌振りに、兵士は違和感を覚えながらも侍女を呼び出した。
あはははは、エリーが変貌してしまいました♪(書いてるうちに何だか凄いことに〜♪)
あの、こんなのエリーじゃない!とか思ったら意見御願いします・・。




