出発と決断の刻
「皆さーん!!朝でーすよーーおきてくださいね!」
早朝から川の辺では、エリーの叫び声が響き渡った。
「うーん・・・あれ、エリーちゃんか。早いねえ」
むくむくと起き出していた騎士団の人たちは、伸びをしながらエリーの声に口を開いた。
エリーは笑顔で朝ごはんの盛られた皿を差し出し言った。
「勿論です。朝はしっかりご飯食べないといけませんから、早めに起きて体を起こさないと!」
「はーいはい。っと・・・」
エリーは騎士達と朝の挨拶をかわしながら、一人の騎士を目で追った。
その先には、バースが眠たそうにしている団員を起こしていた。
「お早うございます、バースさん。ご機嫌いかが?」
エリーはバースにも皿を差し出しながら挨拶をした。
「僕は相変わらずだね。というか、僕の場合は夜中もずっと見張りをしていたというのに、他の部下達の方が寝起きが悪いと言うのが聞き捨てならないね。ありがとう。」
バースは口早に喋りながら、朝ごはんを食べ始めた。
「バースさん、朝ごはんが食べ終わり次第、すぐに出発できませんか?ミーフェは―――」
エリーがその先を言い出そうとしたとき、バースが口を囲むようにして抑えた。
「その先は言わなくていいよ。僕達は、きっとミーフェの助けになるし、君の意のままに動かされるだろう。ではこの後出発でいいかい?」
エリーは、複雑な微笑で、頷いた。
「……はい。御願いします」
それからエリーとバースの騎士団たち一行は朝ごはんを手早く食べ終え、すぐに出発した。
エリーが使っていた馬車は騎士団の一人が城へ戻してくれると請合ってくれたため、エリーはその騎士が乗ってきた馬を借りることにした。
「馬車じゃなくていいのかい?」
そんな一人の騎士の声にも、エリーは笑顔で答えた。
「はい。こっちのほうが早いですし、気が楽ですから」
そしてその一行は、ミーフェのいるカルビナ帝国へと、出発した。
「…今、なんと!?」
玉座の隣に陣取っていた側近・ネフルアードは、一人やって来た遠地武力騎士団の騎士の言葉に、思わず立ち上がった。
「仰ったとおりです、大臣陛下。私はヴィアナ王国次期王妃、グルニエール公爵令嬢様が使われていた馬車を返却してきたところでございます。」
その騎士の胸に光るバッジには、王国内のカントラス地方の紋章が描かれていた。
「そんなことがあるはずはない!今令嬢様は、王城内の塔にて療養中のはず。抜け出すなどありえないであろう」
ネフルアードは、その騎士にむかって、自分を落ち着かせるかのように空笑した。
「………」
その間も、玉座に座っている王、ヨーアンは黙り込んだままだった。
騎士は自分の言っていることをなんとか分かってもらおうと、必死で言い募った。
「しかし、確かに私の隊長がエリー殿だと仰っており―――」
「ガタン!」
その途中、急に玉座の間の扉が開いた。
入ってきたのは、数人の侍女。その全員が、エリーの塔で働いていた者だった。
「国王陛下、突然の無礼をお許しください!!しかし、大変なことが起こったのでございます!!」
「何事だ?」
ようやく王が口を開いた。
すると、一人の侍女が咽びながら口を開いた。
「エリー様が・・・グルニエール公爵令嬢様の、姿がなく、ど、何処を捜しても・・・
うう、私たちの責任です!こんなにもなるんでしたら、いっそ私が無理やりにでも護衛を増やしていれば!!こんなことには・・・」
「なんということだ・・・これは嘘ではあるまい、そうだな大臣」
「・・・まさかとは思いますが・・・しかし、もし本当だとするならば、すぐさま捜索しなけらばなりませぬ。どこへ行ったしまわれたのやら・・・見当もつかぬとなると・・」
「恐れながら、令嬢様はカルビナ帝国へ向かわれたかと思われます!」
傍で佇んでいた騎士が口を開いた。
「なんだと!?それでは令嬢は何故そのように向かわれたのじゃ?」
「何でも、帝国へと移られた専属騎士を追うとかで・・・」
騎士の言葉に、王は眉をひそめた。
専属騎士・・・ミーフェ殿?
だが、あの性格。よほどのことが無い限りエリー殿のそばを離れることがないはず。
そして、それを追いかけたエリー殿も・・・
「事情は分かった。すぐさまカルビナ帝国へ軍を送ろう。
帝国の現女王とは面識が無いが、事情を話せばきっと分かってくれるであろう。大臣、急いで軍の召集を!」
「は!いますぐ準備いたします。」
大臣は、王に敬礼をし、急いで王座の間を後にした。
「さて・・・ではそこの騎士。そなたは十分な仮眠をとり、体を休めてからまた此処へ参り、詳しい話を聞かせて欲しい。よいな?」
「国王陛下直々のご命令とあらば、必ず。では、これにて」
騎士も敬礼をし、別の騎士に連れられてその場を後にした。
「侍女達よ。早めの報告、礼を言わねばならない。しかし今は緊急時ゆえ、後々礼をいたす事にする。よいだろうか」
王は数人の侍女に向き直り、そう言った。
侍女は、滅相もないとばかりに首を振った。
「そ、そんな、国王陛下に礼を言われるなんて。先ほどはそれど頃ではなく、急いで玉座の前に立ち入ったこと、深くお詫びを申さなければなりません。」
「そうか。では、そのことも後々だ。今は、エリー殿の手がかりとなる物品を塔内にて探していただきたい」
王の呼びかけに、侍女はかしこまりました、と言い残し、足早に去った。
「エリー・・・大丈夫だろうか。」
王の呟きは、玉座の間に鳴り響き、木霊した。
今回は早めの更新が出来、ふうーっと息をついた暁瑚都羅です。(今回も遅かったんですけど…)
何だかこの回でちょっぴり進展したかな?と思ってます。
このまま、きちんと更新ができたら!と願うばかりです。