帝国の影にうつる少女
エリーは騎士団の人たちの食事を追加しようと、ベーコンをまた切り出し、卵をフライパン三つ分割りいれた。
自分の分は他の人にあげ、エリーはひたすら料理に専念した。
「んーと、塩コショウ・・・塩コショウは・・・あった!あ、もうすぐ出来ますから、待っててくださいね」
焚き火の周りを囲んできた、お腹を空かせた騎士団員に、エリーは呼びかけた。
騎士団のひとたちはいい人で、了解!と敬礼すると、また互いに雑談を始めた。
ふう、けっこうな量ね・・・
エリーは忙しく働き、さらに人数分のベーコンエッグと小麦パンを乗せて、みんなに渡した。
「お!やるねえエリーさん、おいしそうじゃん!!」
「俺も俺も!はやく食べようぜ☆」
「いただきまーす・・・」
騎士団員の人たちは、ありがたやーとエリーを拝み、その次の瞬間卵に食らい付いた。
「ん!んえー!うえーよ!」
「おああい!おっおおーお!」
皆口に食べ物を詰め込みすぎて、何を言っているのか分からない。
エリーには何を言っているのかサッパリだったが、とても嬉しそうな表情からして、自分も喜んだ。
「嬉しいです、ありがとうございます!さあ、どんどん召し上がってくださいね♪」
「あっあーーー!!」
騎士の数人がそういった。どうやら「やったーーー!!」と言っているらしい。
バースも美味しそうに小麦パンを齧っている。その表情は無垢な少年だった。
「なかなか美味しいな。エリーさんはいつもこのようなことを?」
バースの無邪気な問いかけに、エリーは首を振った。
「いえ・・・昔、下町に住んでいたときによく作っていたもので。お口にあって幸いです。」
「下町?君は養子なのか?」
「はい、王都騎士団長のジェイガン・マリヴェナの娘だったのです。それから、グルニエール家に養子に行って・・・」
「何!?君があのマリヴェナ師の娘なのか!」
そう叫んだバースは、続いて目を煌かせながら語りだした。
「私はマリヴェナ師から武術を学んだんだ。僕が入る前にも数人弟子入りしてて・・・あ、ミーフェもいたよ。
マリヴェナ師はとても武術に長けていて、まさに武人として生まれてきたのだと思うほどだったよ。
・・・もしかして、たまに差し入れしてくれてたマリヴェナ師の奥さんの後ろにちょこちょことくっついていた小さな女の子は、君だったのかい?」
「あ・・・まさか、いつも泣いていた少年って、バースさん!?」
エリーは記憶と目の前の人を照らし合わせた。
よく見ると、目元が似てるような・・・
でも、記憶の中の少年は、すみっこで泣いてたような・・・
「そうだよ。覚えてたんだね。」
バースはあっさりと頷いた。
「え!?」
バースは何故か急に少年のような口調になって、幼げな笑みでエリーを覗き込んだ。
「ミーフェは覚えているかい?ほら、一人だけ女の子で剣術に励んでいた、あの子だよ。なんか運命感じないかい!」
ウキウキしながら、さっきまでのイメージを壊していくバースをよそに、エリーは黙り込んだ。
「女の子・・・?あ・・・!そういえば、居たかも。あれはミーフェだったのね!」
ミーフェも言ってたな・・・バースさんと一緒に騎士修行してたって。あれ?でも、なんか違うわ・・・
「あの、バースさん。気になることがあるんですけど・・・
ミーフェは自分のお父さんから武術を習って、その後からバースさんも来たんだって教えてくれたんです。
でも、あなたは私の父から習ったって、今・・・これはどのようなことなんですか?」
「あー・・・大体あってるけど、ちょっと違うな」
バースの答えに、エリーは素早く食いついた。
「え?じゃあ、何ですか?」
今回の失踪もミーフェの過去が関係しているのかも知れない・・・その思いつきで、妙に知りたくなった。
バースは話し始めた。
「あのね、ミーフェは君の父に弟子入りする前、カルビナ帝国で騎士の修行をしていたんだ。
当時ミーフェは家族三人で幸せに暮らしていたけど・・・そのときのカルビナ帝国王は溢れんばかりの規律を作ってね。ミーフェのお父さんはその一つに引っかかって、王宮に一人行くことになったらしいんだ。家族が離れ離れになって、ミーフェがお母さんを守ろうと騎士になったらしいけど。詳しいことは聞いてないなぁ。」
「まあ・・・そうだったのですか。ミーフェは悲しい過去を・・・」
エリーは愕然として、口に手をあてた。
昔ミーフェにそんなことがあったなんて知らなかった。
今まで・・・
バースは続けて話した。
「ミーフェは優秀だったからすぐに騎士になったらしいよ。そこから、サラっていう遠い王族のお付の護衛になったんだって。
そのあと、ヴィアナ王国大使だった父に連れられた僕と出会って、そこからはすぐにそこを脱走して、僕の祖国ヴィアナ王国に来たって訳さ。」
「そうだったの……それから二人は父の元へ?」
バースは素直に頷いた。
そして、エリーの頭の中では、新しい疑問が生まれていた。
「遠縁の王室のサラさんって・・・今のカルビナ帝国女王と同じ名前ですよね?これって―――」
「ああ、うん。サラって言うのは、今の女王に当たるね。なぜか遠縁なのに、王族がサラを除いて全て亡くなったばっかりに、サラがなったんだって、言ってた。」
「そうだったんですか。なんだか、気味が悪いですね・・・」
「まあ、王族内ではそのようなこともよくあるようだし、別にたいして調べもしなかったようだね。」
「………………」
エリーは頭の中で状況を整理した。
ミーフェは前の主人の命令に背けなくて向かってて・・・
その主人は今のカルビナ帝国女王、サラ。
そしてサラ王は、遠縁の王族にもかかわらず、王家がサラを除いてすべて亡くなったために、仕方なく女王になったんだ。
一方ミーフェはカルビナ帝国に生まれて、厳しく育てられていた・・・
サラのお付の護衛になったけれど、バースが駆けつけてようやく帝国の恐ろしさを知ったのね。
「バースさん、今のミーフェには、お父さんもお母さんもいないんですか?」
エリーはバースが言おうとしていたことを口に出した。
「ああ、それなんだけどね。僕が無理やり連れてって以来、両親と別れていたはずだ。
それからは君のお父さんや僕の両親に世話してもらったんだ。
・・・まあ、今も両親がいるかどうかは分からないけど」
「そうですか・・・・・・・。貴重な情報ありがとうございました、バースさん。私、今日寝たら、急いでカルビナに向かいますから、止めないでくださいね」
「ああ。僕は侍女に頼まれたので君の護衛をすることになったよ。よろしくね」
エリーは驚いて、聞き返した。
「侍女って・・・セトのこと?」
「確かそうだね。」
「そうですか。セト・・・」
セトは、何処まで自分のことを考えていてくれたのだろう。
そう思うと、感謝とお詫びで心がはちきれそうになった。
「・・・君はいい侍女と出会ったようだね。侍女はいつも傍に居てくれる人だろうし、心を許せる相手が多い方がいいと思うよ。」
バースはニッコリ笑って、エリーの頭をなぜか撫でた。
「あ」
「?どうした」
エリーは、少しニヤリと笑って、バースの耳元に口を近づけた。
「・・・あの、ミーフェとはうまくいってるんですか?舞踏会でミーフェと踊ってるとき、すごく顔赤かったですよね」
「・・・・・・!!君、見たのか!?」
バースは耳に声が届いた瞬間顔を真っ赤にしてすぴゃっとエリーから飛びのいた。
エリーはフフフフフと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。私、二人を応援してますから。二人はもっと積極的に会って、くっつけばいいんですのに」
「・・・君、さりげなく物凄いこと言ったね?今言ったよね!?」
「フフフフフ、私黙っときますよ。このことはね。じゃあ、お皿洗ってきますね♪」
エリーはフフフフフと微笑みながら、お腹いっぱい食べおえた騎士団の人の山のような皿を抱えて歩き出した。
バースはただ赤くなっていく顔を隠そうと、やきになっていた。
会話分がしこたま増えてしまい、最後に結論を書くことになってしまいました。誠に申し訳ありません!
更新も大分遅くなってしまったので、これからは出来る限りハイスピードで更新できたらいいなと思ってます!




