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オニヒメ 〜 忌み子への転生 〜  作者: まつたけ
間章 Episode of Vampire
15/16

15話 温かな家庭

間章最終話です。

次回は1章と間章の登場人物紹介です。

 

 食うか食われるか。

 生きるか死ぬか。

 殺るか殺られるか。


 死と隣り合わせの戦いを指す言葉は数多くある。

 今宵行われている死闘もまさにその様な言葉が似合う殺伐とした雰囲気であった。

 だが、この相対する2者の意思は大きく異なる。

 1人は目に映る障害たる幼女を殺害せしめんとする狂気を孕んだ男。

 1人は人を殺す勇気が持てない生温い幼女吸血鬼。

 両者のレベル差は比べるも烏滸がましく、相性差によるアドバンテージも最早存在しない。

 手加減などしていては忽ち首を撥ねられ、四肢を捥がれ、臓器を飛沫させられる事だろう。

 そうであるハズなのに、吸血鬼シトリーには一線を超えることが出来なかった。


「ああぁぁ!!」


 狂乱の男シュドゥムは獣のような唸り声を上げながら、その両手に持つ短剣を力任せに振るう。

 精神を掻き乱された彼の頭は眼前の敵対者を潰す事しか考えておらず、先程までの流麗で洗練された剣閃は見る影も無くなってしまっていた。

 とは言え、タチの悪いことにその一撃一撃は非常に凶悪極まりない威力を秘めている。

 当然シトリーの氷塊では防ぐことは到底能わず、大振りな一撃を紙一重で躱すので精一杯であった。


 グレイスの【電磁場】がそうであるように、シトリーの持つ必殺の一撃もやはり相応の溜めが必要であった。

 だが、怒濤の勢いで迫り来る必殺の一撃を前にその様なチャンスが訪れるハズも無く、時間が経てば経つほどシトリーは空腹や疲労から動きが鈍くなっていく。


「ひゃはははは!!!死ねぇ!死ねぇ!」


 一向に勝機の見えぬ戦い。

 ジリジリとスタミナが削られていくシトリーに対し、シュドゥムの方は常に哄笑を上げながら斬りかかって来ているというのにまるで疲れている素振りを見せない。

 シトリーもこのままでは殺されると頭では分かっているのだが、最後の一歩を中々踏み出せないでいる。


「くっ・・・、【フローズンショット】!」


 やたらめったらに短剣を振り回すシュドゥムは更にその乱雑さに拍車を掛け、遂にはタブーである弱点を晒す大上段からの叩き潰しを繰り出そうとしていた。

 そこを好機と捉えたシトリーは、がら空きの腹部へと先程の意趣返しも込めて強固な氷の弾を放った。


「ぐぼぉあ!ひっ・・・ひゃはははは!!!」


 質量の大きい氷塊を腹に受け喀血したのにも関わらず、意に返さないといった様にまたあの哄笑を上げ、大上段から短剣を振り下ろす。

 それを大幅に後ろに跳躍することにより避けると、間髪入れず魔法を放つ。


「【スリップフロア】【アイシクルウォール】!!」


【スリップフロア】は自身を中心に周囲の地面を凍結させる魔法だ。

 地面が土であろうが砂であろうが植物であろうが皆等しく凍らせ、摩擦力を減少させる。

【アイシクルウォール】は即席の氷壁をまるでドームのように出現させる魔法であり、大技を使うための時間稼ぎにと発動させた。

 どちらも広範囲に働きかける魔法であるため、使用魔力量はこれまでに使ってきた氷塊や氷柱の比では無い。


 もしこれでチャージが完了しなければ・・・。


 少しそんな事がシトリーの頭を過ぎるが、すぐに頭を振り雑念を飛ばす。

 失敗すれば死ぬ。それだけである。

 シトリーにはもう一度【スリップフロア】と【アイシクルウォール】を発動するMPが残っていなかった。

 仮にシュドゥムを倒せたとしても、MP切れの状態では残りの2人を相手取ることは出来ない。

 即ち、MP切れにならない程度に且つ全力で魔法をシュドゥムにぶつけなければならない。

 シトリーはフゥと息を吐き出すと、瞑目し、固有魔法には必要の無いハズの【詠唱】を行う。


【詠唱】は魔力を込めた言葉で詩を紡ぎ、魔法のイメージをより強固にし、威力を高めるための物である。

 だが、詠唱中は完全に無防備になるという大きな欠点があった。

 他にも魔術に学のある人間ならば詠唱文で何の魔法か分かる者もいるなどデメリットも多い。

 そのため、パーティメンバーの誰かに守ってもらいながら詠唱を行ったり、今のシトリーのように即席のバリケードを築き上げたりして詠唱時間を稼ぐのだ。


 固有魔法に詠唱は無い。

 だが、出鱈目に何かを呟けば良いという訳では無く、レベルアップや固有魔法のスキルレベルアップ時にランダムで流れるヒントを繋ぎ合わせて完成する定型文を紡がねばならない。

 シトリーは運良くある1つの魔法詠唱を完成させており、今回紡ぐのもまさにその魔法である。


「【我は地獄の誘い手】」

「ひゃはははは!!!」


 詠唱をしている間にもシュドゥムは氷壁に攻撃を繰り出していく。

 だが、持ち前のSTRを持ってしてもその氷壁はすぐには砕けない。

 更に、地面が凍結しているせいで上手く踏み込めず力の伝達も非常に悪い。

 シュドゥムがそうこうしている内にもシトリーの詠唱は続く。


「【辿り着くは第9圏 嘆きの川なり】」

「ひゃはははは!!!」


 シュドゥムの度重なる連撃に氷壁は遂にその身に蜘蛛の巣状の線を刻んでいく。

 それは氷壁の内側にいるシトリーにも聞こえる程の氷壁の悲鳴となり、限界が近い事を雄弁に語っていた。


「【罪人よ凍てつけ。反逆者よ歯を鳴らせ】」

「ひゃはははは・・・・・・あ?」


 交差するように振り降ろされた短剣の最後の一撃により氷壁の一角は音を立てて崩れ落ちる。

 だが、それと同時に魔煙草の効力が切れたシュドゥムは朦朧とする頭を必死に回転させ───瞬時に自身の敗北を確信した。


嘆きの川(コキュートス):第1の受難

鍛冶師()兄弟に()起きた()悲劇()】!!!」


 魔法発動と同時にシトリーは目を開く。

 その目からは光り輝く銀色の粒が1つ零れ落ち、地面にそれが触れた途端辺りは一変する。

 それは流れることの無い【凍てついた川】。

 スリップフロアによって既に凍結された地面も上から塗り重ねるように凍り付かせる。

 一瞬にして広がった川はシトリーを中心に半径1キロにも及び、触れた者全てを片っ端から氷漬けにしていく。

 鳥がウサギが熊が、そしてシュドゥムがジョアンがべドが須くその動きを止め凍り付く。

 その魔法は一線を超えることを憚るシトリーの心情を表しているかの如く、誰1人としてその命を奪うことは無かった。


  ◇◆◇


 数十分後、何も知らないツヴァイがシトリーの待つ森小屋へと行ってみると、そこはまさに地獄絵図といった様相を呈していた。

 凍てつき温度が極端に下がった気候に、森小屋を含む全てが氷漬けとなった景色、目を見開いたまま固まったシュドゥム、そして一面氷塗れの中で唯一凍っていないシトリーの姿があった。


「シトリー!!」


 シトリーはツヴァイと初めて出会ったあの時のように地に倒れ伏し、顔の周りには球状の水晶のような氷が数多転がっていた。

 ツヴァイがシトリーに駆け寄ってみると、どうやら眠っているだけのようで、目立った傷も特に見受けられなかった。


「取り敢えず一安心じゃな・・・。して、こやつはこんな時刻に一体何をしておったんじゃ?」


 ツヴァイはシトリーを抱き上げ、唯一窓が割れていたシトリーの寝室へと足を運ぶ。

 森小屋の中も見事に氷漬けであり、一歩踏み出す度にパキパキと音を立てていた。

 シトリーの寝室へと向かう道中にあった部屋は全て物色された後のようで、それはそれは酷い有り様であった。


「酷いことをするもんじゃのぅ・・・。しかし、こんな小屋を荒らした所で金目の物など・・・はっ!?そうか!」


 ツヴァイは自身が村人達から取り上げたある植物の事を思い出す。

 テュールの助言により、その植物が大変危険な物だと知ったツヴァイは、即座に村人達から植物を押収し、商人にもうこの植物は持ってくるなと進言した。

 だが、その商人はせっかく高値で仕入れた物を持ってくるななど、それでは商売上がったりだと文句を垂れたため、仕方無く植物を全部購入し、村人達の手が届かないように森小屋の金庫の中へと死蔵した。

 恐らくあの表にいた男は、そんな政策に不満を持った村人の1人なのだろうと、ツヴァイは推理した。

 そして、その推理は次のシトリーの部屋に広がる光景で全て裏付けられることとなる。


「何と・・・・・・」


 シトリーの部屋には、ドアの外に一体と部屋の中に2体の氷漬けの人間の像があった。

 更に部屋の中にある氷像の足元には、凍りついてはいるが辛うじて何か判断することが出来る魔煙草の葉が散乱していた。


「べドにジョアン、それにクロゥまで・・・」


 つまりはこういう事だろう。

 ツヴァイがいない間を狙い侵入したクロゥ達だったが、シトリーというイレギュラーが存在し、どちらともお互いが何者かも分からずそのまま交戦。子どもだと侮ったクロゥ達は皆仲良く氷漬けということだろう。


 ツヴァイはそう当たらずも遠からずの推理をし、それを1人で納得する。

 実際は本気で当たり、魔煙草によるドーピングまで使って敗れたのだが、それをツヴァイに指摘する術を持った者は残念ながらこの場にはいなかった。


  ◇◆◇


 結局、森小屋に盗みに入ったシュドゥム達の犯行動機は知らずに使った魔煙草による禁断症状であることから、情状酌量の余地ありと判断され、厳重注意で釈放された。

 しかし、シュドゥム達の家は総じて次の日にはもぬけの殻となっており、シュドゥムの家に至っては「己を鍛え直して来る」とその一言だけ書かれた置き手紙のみがドアに貼り付けてあった。

 因みに、どうやって氷漬けから抜け出したかと言うと、シトリーではどうする事も出来なかったため、詳しくは何も聞かされていないテュールの力技で救出された。

 その時にテュールとシトリーは初めて顔を合わせ、お互いがお互いに誰だコイツと疑問符を浮かべていた。


 シトリーの養子の件はと言えば、ご存知の通りシトリーも笑顔で了承し、少し涙を浮かべながら礼を言っていた。

 シトリーは再度家族を手に入れた。

 今回の家庭は前の家庭と比べると金銭的な面では裕福では無いかも知れない。

 だが、温かな家庭というシトリーにとっては何よりも価値のあるものを持った裕福な家庭であった。

 もし、マリアナに再開することがあれば胸を張って言おう。

「帰るべき家が出来たよ」と・・・。

シュドゥム・スニークス 【双剣士】


Lv.61

HP 574/574

MP 108/108


STR 317

DEF 151

AGL 529

INT 97

DEX 230


EXP 210689

NEXT 7001


【スキル】

短剣術Lv6 双剣術Lv5 毒調合Lv3


【魔法】

身体強化


【称号】

殺し屋 植生煙蛇の呪い

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