表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オニヒメ 〜 忌み子への転生 〜  作者: まつたけ
間章 Episode of Vampire
13/16

13話 暗躍する影

 身体を包む柔らかな温もりを背中に感じつつ、シトリーは目を覚ました。

 見知らぬ天井、見知らぬ家具、人里を避けて森の中で倒れた自分がいるハズの無い室内。

 ここがどこかは分からない。

 だが、1つだけ分かることと言うより、実感することがある。


「たすかったんだ・・・・・・」


 言葉に出すとより強く実感出来る【生】。

 生きている、その事実にシトリーはまた大粒の涙を流し、己を介抱してくれた人物に深く感謝した。

 独りベッドの上ですすり泣いていると、ガチャリと音がして部屋のドアが開く。

 ドアからは長く白い髭を蓄えた老人が水を張った桶を持って姿を現した。


「目が覚めたか、若き旅の者よ」


 その老人──ツヴァイ村長──はニコニコと微笑み、シトリーに警戒心を抱かせないように注意を払いつつ話掛けた。

 ツヴァイは椅子を机から引っ張って来てシトリーのベッドの側に置くと、微笑みを絶やさず沈黙を決め込む。


「あ、あの、ありがとうございま・・・した・・・」


 ツヴァイの手元にある物が何か瞬時に理解したシトリーは、自身の額の上にも濡れタオルが乗せられていたことからこの人物が自身の介抱をしてくれたのだろうと結論付けた。

 その後、マリアナに感謝と謝罪は出来るだけ早くするようにと口を酸っぱくして言われていたシトリーはその教えを守り開口一番に礼を述べた。

 それを受けたツヴァイは腕を組み瞑目した後、ふぅと息を吐き出し言葉を放った。


「構わんよ。困った時はお互い様じゃしな」


 別に大した事では無いと言った風袋のツヴァイにひとまずシトリーはほっとし、頬を緩ませる。

 だが、次ぐツヴァイの発言によりシトリーは表情を強ばらせてしまう事となる。


「お主、吸血鬼じゃろう?」

「っ!?」


 吸血鬼の忌子は他の忌子と比べ、身体的特徴がほとんど無い。

 そのため、黙っていれば吸血鬼だとバレる事も少ない。

 だが、ツヴァイにはバレた。

 シトリーは今の今まで眠りこけていたのだから、その間に何が起きたか把握していない。

 ツヴァイの行った事は至って単純。

 村長権限で呼び出した教会の神父ロンリーにステータスを開示する魔道具【選定の宝珠】をシトリーに使わせた。

 本来【選定の宝珠】の私用での使用は認められていない。

 だが、ツヴァイは「5歳ぐらいだろうから、儀式を受ける分には問題無い」と無茶苦茶な事を言い、強く言い返せないロンリーに強要させた。

 宝珠の内容はツヴァイだけに公開され、ロンリーは神に懺悔しながら目を伏せていた。

 ツヴァイの見たシトリーのステータスは以下の通りだった。


 シトリー・ゴーント・チルゼル 【下級吸血鬼(ダンピール)


 Lv.14

 HP 57/57

 MP 91/91


 STR 50

 DEF 33

 AGL 56

 INT 45

 DEX 29


 EXP 1944

 NEXT 571


 《スキル》

 吸血 飛翔Lv2 血脈Lv2 再生Lv1

 日照耐性Lv5 魔力操作Lv3


 《魔法》

 氷魔法(フリージング)Lv3


 《称号》

 日の下を歩く者(デイウォーカー) 堪えし者 孤高


 この歳でこのレベルは明らかに異常であった。

 更に、スキルを見れば魔法を使える事も分かる。

 そして、称号にある【堪えし者】と【孤高】がシトリーの今までの人生を雄弁に語っていた。


「この小さな身体に一体どれほどの苦難を抱えていると言うのじゃ・・・」


 ロンリーが言う神とやらが本当にいるのならば、その神はきっと小さな子に身の丈以上の重石を背負わせて苦しむ様を見るような性悪な神なのだろう。

 ツヴァイはそう思わずにはいられなかった。

 そして同時に、もしシトリーが悩みを抱えているのであれば自分はこの娘の力になりたい、そうも思った。


 シトリーは何故吸血鬼だとバレたのかは分からない。

 だが、このまま黙っていればそれは是と捉えられてしまうだろうという事は想像に難くなかった。

 世間が忌子に抱く印象は決して良いものでは無い。

 シトリーは1年ぶりのベッドの感触にもう少し浸っていたかった。

 だからシトリーは首を横に振った。

 その様を見てツヴァイは眉を寄せ、宝珠を使った事を白状した。


「・・・すまんのぅ。実は、お主に無断で【幼子の儀式】を執り行わせてもらったのじゃ」


 シトリーは目を見開き絶望していた。

 自ら選んで突き進んだ道とはいえ、もうあの死と隣り合わせの生活には戻りたく無かった。

 だが、自分のわがままにこの人を付き合わせる事など出来ない。

 シトリーは目元に涙を溜めながら、精一杯の笑みをもって再度礼を述べこの場から立ち去ろうとした。


「・・・たすけてもらったのに、うそついてごめんなさい。わたしはすぐにここからたちさります。たすけてくれて───」

「待て」

「ありがとう・・・なんですか?」

「お主にその顔は似合わん。擦り切れ、草臥れ、世の中の全てに関心を抱かなくなってしまったお主の経緯。年寄りのお節介だと思うてワシにちと聞かせてはくれぬか?」


 ツヴァイは考える。

 何がこの娘の心の闇を吐き出させるのに一番最適かを。

 どうすればこの娘を年相応の笑顔にすることが出来るかを。

 そのためには情報が必要だ。

 3日間も眠り続けたシトリーをこれ以上酷使するのは躊躇われたが、今この娘の行動を許してしまえばまた森で倒れていた様な無茶をしでかしかねない。

 ツヴァイは立ち上がろうとするシトリーの両肩を掴み、そのままでと指で示す。

 シトリーは浮かせた腰を再度ベッドへと沈ませ、ぽつりぽつりと語り始めた。

 自分でも何故話す気になったのかは分からない。

 悩みを聞かせてくれと言ったツヴァイに長く会えていないマリアナを重ねていたのかも知れない。

 シトリーの語り始めはチルゼル領主の娘でした。マリアナという人物が支えてくれました。など実に淡々としたものであった。

 しかし、ある一件──父親がシトリーを拒絶したあの日──を境に次第に感情的になっていった。

 両親に対する憎悪。

 マリアナに何も言わずに出て来たことの後悔。

 その日を生きるためだけに生きてきた自分に対する虚無感。

 嗚咽混じりに語った壮絶な毎日。

 1歩間違えば死んでしまう様な綱渡りの日々。

 それは幼いシトリーの心を壊すのには十分過ぎたのだろう。

 ツヴァイは話の途中で思わずシトリーを強く抱き締めてしまっていた。


 話し疲れ、また泣き疲れたシトリーは再度眠ってしまった。

 ツヴァイはその足で自分の家族にある相談をした。

 否、それは最早ツヴァイの中では確定事項であった。


「キンディ、スーザン、デネブ、今日はお主らに相談がある」


 食卓を共に囲む面々を見てツヴァイはそう口を開く。

 キンディ達は何でも自分1人で解決しようとするツヴァイが相談とは珍しい事があるものだと、ツヴァイに視線を集中させる。


「・・・と思う」

「ん?何だって、親父?」

「家族を増やそうと思う」


 当然シトリーのことである。

 ツヴァイはシトリーの虚無感から来る凶行を止めるにはこれしか無いと判断した。

 ツヴァイはそう思っての相談であったのだが、どうやらキンディ達は別の意味で取ったらしい。


「・・・え?爺さん再婚すんの?」

「違わい!!養子じゃ、養子!」

「「「養子?」」」


 キンディ達は目を丸くして聞き返す。

 彼らはシトリーの事をツヴァイから何一つとして聞かされていなかった。

 ツヴァイがシトリーを寝かせているあの部屋は、実はツヴァイの家などでは無く森の中にある小屋だった。

 それと言うのも、あの時のシトリーの衰弱具合ではツヴァイが老骨に鞭を打って急いだとしても間に合うかどうか怪しいほどだった。

 そのため、シトリーが倒れていた地点から最も近いある程度設備が整った場所である山小屋ならぬ森小屋に駆け込んだという訳だ。


 ツヴァイはシトリーという女の子についてキンディ達に話す。

 吸血鬼であるということや貴族のお嬢様であることも包み隠さず全て話した。

 キンディ達も箸を止めツヴァイの語る実話に聞き入った。

 最後にはツヴァイの思いや覚悟に心を動かされ、キンディ達もシトリーを迎え入れる事に了承した。

 そうと決まれば、後はシトリーの気持ち次第である。

 シトリーの両親には確認を取ることは出来ないし、する必要も無い。

 ツヴァイは少し冷たくなった食事を平らげ、薄暗くなった外へと歩みを進めた。


◇◆◇


 暗くなった森小屋の中でシトリーは目を覚ます。

 辺りはほとんどが闇で常人の目にはどこに何があるか判別出来ないほどであった。

 ただ、シトリーは吸血鬼であるため非常に夜目が利く。

 暗闇でも見えるその目で辺りを見回すが、あの温かく抱き締めてくれたツヴァイはもういなかった。


「また・・・ひとり・・・」


 誰もいない空間ではその独り言がいやに響いて聞こえた。

 シトリーは膝を抱え、これからどうしようかと独り物思いに耽っていると、窓の外から人の話し声が聞こえてきた。


「どうやら、もうあの爺は帰って来ねぇ様だな」

「ああ、これでようやくアレを手に入れられる」

「油断しないで。ここはあの【崩落】も利用しているのよ。もし、あれが帰って来たら・・・」

「そうならねぇ内にとっとと終わらせるんだろうがよ〜」

「・・・・・・お前ら、少し黙れ」


 耳を傾けると、それは男3人に女1人のグループが何かをしようとしている様だった。

 それも、恐らく窃盗の類のもの。

 男達は足早に移動し、すぐにドアの付近まで辿り着く。

 そして寡黙な男を1人見張りに残し、後の男達はドアを開け中に入っていった。


 この森小屋は小屋と言えどそこそこの大きさがあり、寧ろペンションの様な建物になっていた。

 2階建てで、1階には物置が3つにキッチンやダイニング、寝室が1つあり、2階には寝室が更に2つあった。

 シトリーが寝ていたのは1階の寝室である。

 男達はそれぞれに散会し、一人一部屋ずつ調べていく。

 シトリーはいつ自身の部屋のドアが開けられても良いように意識を研ぎ澄ます。

 耳を澄ませば、2階に2人、1階には1人だけの様だ。

 1階の人物はシトリーのすぐ隣の部屋を物色しており、「無い、無い・・・」とうわ言のように呟いていた。


 シトリーは考える。

 窓から逃げるか、それとも迎え撃つか。


「はあ・・・。むかえうつしかない・・・」


 一瞬考えた後、シトリーは即座に迎え撃つことを選ぶ。

 理由は簡単だった。

「空腹で動けない」

 単純であり、致命的な理由である。

 3日間眠り続けたシトリーはその間何も口にしていない。

 血の方は倒れる10日くらい前に摂取したので恐らく大丈夫だ。

 だが、飯はダメだ。

 血と違い食い溜めが出来ない。

 幸い男達は素人の様なので、座ったままでも十分に魔法で応戦出来るだろうとは想像出来た。

 だが、1人だけヤバイ奴がいる。

 あの下で見張っている寡黙な男である。

 移動の時、あの男だけ足音がしなかった。

 そういうスキルかそれとも身に付けた歩法か。

 どちらにせよ、あの男だけは厄介であろうと、シトリーはそう結論付けた。


「おなか・・・すいた・・・」


 くぅとなる腹を左手で押さえながら、右手をドアの方へと向ける。


「っ!?誰だ───」

「【フリージングブレス】」


 一瞬だった。

 隣の部屋を物色していた男がシトリーのいる部屋のドアを開けた途端、シトリーの右掌から凄まじい冷気が放たれ男を氷漬けにしたのだ。

 氷漬けになってはいるが、男はまだ死んではいない。

 シトリーは人殺しになる気は無かった。

 直後、氷漬けになった男は真横に吹き飛ばされた。


「何者だ・・・・・・貴様・・・・・・。ただの餓鬼ではあるまい?」


 外で見張っていたハズの男である。

 彼は氷漬けにされる寸前に叫んだ男の誰何の言を耳敏く聞き取り、瞬時にこの場に現れたのだ。

 そして、邪魔だと言わんばかりにドアを塞ぐ氷漬けの男を蹴り飛ばし、ドアの向こうにいたシトリーを睥睨しつつ尋ねたのだった。


「そっちこそ、ただのむらびとじゃないよね?」


 ツヴァイは言っていた。

 ここは人里離れた辺鄙な村だと。

 そうなると、村の外から入って来た盗賊の類だとは考えにくい。

 だが、この男はどう見ても気質の人間では無い。


今は(・・)ただの一村人だ。貴様はこの計画の障害になりかねん。危うき芽は摘んでおくに限ろう」


 男は腰に身に付けた双剣(・・)を抜き放ち、逆手に構える。

 シトリーはまだ知らない。

 この男が上級職である【双剣士】であるなど。

 この男が空腹状態でまともに殺り合える相手では無いなど。

ブックマーク40件突破!!!

本当にありがとうございます!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ