12話 孤高の吸血鬼
幕間を数話入れたいと思います。
今回の幕間はシトリーのお話です。
【チルゼル】という大都市の領主、チルゼル家に1人の女の子が生まれた。
その娘は紅い目をした銀髪色白のとても愛くるしい顔をしており、愛を意味する言葉から取り『シトリー』と名付けられた。
その家庭は父、母、姉、シトリーの4人家族であり、給仕係が何人かいた。
シトリーの父親は伯爵であり、その父と知己を得ようと近隣の領主が家に訪れる事も多々あった。
彼女もそんな人々の内の1人だった。
その人物の名はマリアナ・フリュー・アーカム。
近隣の街【アーカム】の領主の一人娘である。
マリアナは生まれつきあるスキルを持っていた。
【鑑定眼】という、目に入った物の情報を任意で脳に送るスキルである。
マリアナは初めて会う人物にはこのスキルを使うように心掛けていた。
それは当然シトリーも例外では無い。
当時シトリーはまだ0歳だったため、【幼子の儀式】を受けていなかった。
つまり、誰よりも早くシトリーが忌子である事に気付いたのだ。
この事をシトリーに両親に打ち明けるか否か、マリアナはとても悩んだ。
打ち明けても別に構わない。
ただ、まだ赤ん坊とは言えシトリーは貴族である。
この国では貴族に対し無断でスキルを使用する事は重罪とされている。
打ち明けるとマリアナは投獄されかねない。
しかし、打ち明ける事が事である。
忌子は侮蔑の象徴である。
その侮蔑の象徴が天下の貴族の家系に生まれたと世間に知れたら・・・。
チルゼル家だって、事を大事にしたくはあるまい。
・・・だが、彼女は打ち明けなかった。
マリアナ自身、何故打ち明けなかったのかよく分からなかった。
ただ、時が来たらシトリー本人には教えようと心に決めたのだった。
2歳を目前にし、シトリーは乳離れをした。
一般的な赤ん坊ならば何も問題無い行為。
しかし、吸血鬼であるシトリーにとってそれは死活問題であった。
今までは母乳が血液と同じ役割を果たしていた。
だが、もうそれは無い。
【下級吸血鬼】は最低半年に一度は血を摂取しなければならない。
もし期限内に血を吸えなければ、激しい吸血衝動に駆られ自我を失い、無差別に吸血を行い始める。
それでも摂取出来なければ、乾きが身体を蝕み持続ダメージを受け、やがて死に至る。
一番の問題は、シトリーが忌子だという事を家族の誰も知らないという事。
これではシトリーは餓死してしまう。
シトリーは運が良かった。
半年に一回、チルゼル家にて近隣の街の領主が集まる定例会が開かれていたのだ。
本来、領主とその護衛のみで来れば良いところをマリアナは無理を言って着いて来ていたのだ。
乳離れをした年の内にマリアナはシトリーが吸血鬼である事を伝えた。
シトリーが理解出来ていたかは定かでは無いが、シトリーは初めての吸血をまごつく事無く行った。
それ以降、唯一実情を知るマリアナは半年ごとにチルゼル家に赴き、シトリーと遊ぶことを方便として自らの血を吸わせていた。
そうやってシトリーは命を繋いでもらっていたのだ。
しかし、物事には必ずしも終わりがある。
それも決まって悪い方向に転ぶ。
吸血しているところを母親に見られたのだ。
母親は如何に自分の娘と言えど、吸血鬼に寛容になる事は出来なかった。
母親はその事を父親に相談。
勿論、シトリーには聞かれない様にそれは密かに行われた。
だが、シトリーは聞いてしまった。
幼いながらに察した家族の不穏な空気。
そして父親の放った気味が悪いと言う言葉。
「ああ、もうこの家には居られないな・・・」
この頃だろうか、チルゼルの雲行きが怪しくなり始めたのは。
相次ぐ経済不況に隣国の不穏な動き、魔物の活発化。
領主であるチルゼル家は対応に追われ、シトリーに構う時間など次第に無くなって行った。
シトリーが3歳になった誕生日、彼女はチルゼル家から姿を消した。
父親達がシトリーの失踪に気付いたのは事態が沈静化し始めた、誕生日から10日後の事だった。
シトリーは3歳で初めて旅に出た。
持てない荷物は端から持たず、その身一つで約1年間彼女は各地を流離った。
半年に一回訪れる吸血衝動は襲い来る動物を殺し、その血を啜った。
そんな折りに彼女は【魔力操作】を身に付けた。
固有魔法は彼女を生かすのにとても役立った。
氷魔法は非常に利便性に富んだ魔法だった。
冷却保存すれば食品も長持ちするし、暑苦しい夏場などでは身体や水を冷やすのに役に立つ。
旅の最中、彼女が街や村に寄る事は決して無かった。
社会との交流を断ち、1歩間違えば死んでしまう様な自然の中でもがいて来た彼女は次第に擦り切れて行った。
シトリーの身体に限界が来た。
幼い彼女の身体で1年もの間自給自足のアマゾネス生活をやって来れた事に素直に賞賛を送るべきだろう。
彼女は人里離れた森の中で倒れた。
彼女は薄々感じていた。
このまま行けば間違い無く死ぬ、と。
彼女の旅に目的は無い。
死に向かって、あるいは死に場所を求めて3歳の若さで彼女は歩き続けた。
それも、もう・・・・・・終わる。
気付けば彼女は、泥だらけの顔に涙を浮かべていた。
それは親に拒絶された子の涙か。
それとも、罰を承知で自身の命を繋いでくれたマリアナに対する懺悔の涙か。
「しに・・・たく・・・ないなあ・・・」
意識も混濁し始め、掠れ掠れになりながらも彼女は生を望んだ。
まだ何もやってない。
まだ何もやれてない。
そうして、彼女は涙に濡れた瞳を閉じた。
シトリーは決して悲劇のヒロインなどでは無い。
やはり、シトリーは運が良かった。
人がいない所を目指し奥へ奥へと進んだ事が幸いし、彼女はいつしかムシャナ村という人里離れた人里へと行き着いたのだから。
そして、偶然通り掛かった村長ツヴァイに保護され、一命を取り留めたのだから。
シトリー動物殺してるじゃねぇかとお思いの方もいると思いますが、以前公開したシトリーのステータスは生まれた当時の物です。
グレイスやシトリー達のステータスは幕間の後で公開します!




