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オニヒメ 〜 忌み子への転生 〜  作者: まつたけ
鬼娘の幼少期
11/16

11話 He's a rug on my floor

今回のタイトルは童謡【森のくまさん】の原作の最後一文から取りました。

 

「くっ!避けきれねぇ!」


 グリード・フォックスの右腕による薙ぎを回避したテュールを尻尾の回転攻撃が襲う。

 テュールは強化された攻撃速度を見切ることが出来ずに木の葉のように吹き飛ばされ、木を数本へし折ってようやく勢いを殺した。


「あいつ・・・俺の【剛断】を・・・!まさか、俺が使わずともスキルを奪えるとはな」


 口元から垂れる自身の血液を手で拭いながらテュールはそう歯噛みする。

 グリード・フォックスのスキルの本質は奪うことであり、そこに対象がスキルを使うか否かは含まれていない。

 だが・・・そんなスキルに欠点が無い訳がない。


「【グランド】!」


 グレイスの地を這うような電撃がグリード・フォックスの足元へと殺到する。

 グリード・フォックスはその電撃を一瞥し、後ろに跳んで退避を選択した。

 普通なら、グレイスの雷鳴魔法を奪って術を強制解除した方が早い。

 だがグリード・フォックスはそれをしなかった。

 否、出来なかったのだ。


 固有魔法とは他の魔法とは一線を画する強力な魔法だ。

 使用魔力が多い代わりにその威力は絶大であり、自然現象もかくやと言った超常現象を引き起こす。

 そして、固有魔法には全てに共通することがある。

 それは、固有魔法は総じて魂の根幹に刻まれた非常に結び付きの強い代物だということ。

 つまり、手に入れたスキルなどでは剥がせないし、まして奪うことなど出来るハズが無い。

 それはテュールの勘づいた通りであり、テュール達に残された唯一の勝ち筋であった。


「ホントに、グレイスが居てくれて助かったぜ」


 テュールは自身の巡り合わせに感謝した。

 この戦闘の命運を分けるのはグレイスの敵の動きを封じる魔法と未だ姿を現さないオームの存在だ。

 オームはまだこの場所が分かっていないのか姿を現さないが、もしグリード・フォックスに見つかったてしまったら最後オームのスキルまで奪われ、奴の強化を許してしまう。

 そうなってしまってはグレイスの電撃は当たらないし、テュールも動きを捉える事が困難になる。

 今の時点でグリード・フォックスは既に襲い来る電撃を1度見る余裕があるようだ。

 それでは当たらない。

 だが、テュール自身がその隙を作れたならば・・・。


「へっ、何も敗北確定の消化試合をやってる訳じゃねぇんだ。勝ち筋があるからこそ、まだ戦えるんだよ!グレイス、俺が奴の注意を引く、その間にお前はオームに撃ったってアレの準備を済ませておけ」


 オームに聞いた話が真実ならば、グレイスは敵の動きを完全に封殺することが出来るハズだ。

 グリード・フォックスの動きが止まればこちらの勝ち。

 逆に何らかの事故が生じてグリード・フォックスが更に強化されてはもはや手が付けることが出来なくなり、負ける。


「まったく、今までは元から地力のある奴とばっかり殺り合って来たが・・・こういう敵も中々侮れねぇな!」


 テュールは突っ込む。

 出来るだけ大きく動いてグレイスに意識が向かないように最善の注意を払いながら。

 グレイスはテュールに言われた通り【電磁場】の準備を進める。

 以前のオーム戦では充電に1時間も掛かってしまった。

 しかしそれでは、テュールの身が持たない恐れがある。

 あの時より雷鳴魔法のレベルも上がっている。

 それにあの時のように剣戟に意識を割く必要が無い。

 ならば、グレイスに以前より早く充電出来ない道理は無い。

 何よりグレイスが背中を預けているのは誰であろうあの【崩落】のテュール、伝説のSランク冒険者なのだから。

 如何に圧倒的な不利に立っていたとしても、彼はグレイスの父親なのだから。


「どらっしゃい!!」

「グオオオオオオ!?」


 そう、事故が起きなければ勝てるのだ。

 テュール達の戦闘音を耳にしたオームが出張って来て、グリード・フォックスにさえ認知されなかったならば。

 オームの素早い剣閃がグリード・フォックスの尻尾を斬り飛ばす。

 当然グリード・フォックスは自身に深手を負わせた闖入者を睥睨する。

 そして、口端を吊り上げた。


「グオオオオオオン!!」

「オーム何で出てきやがった!!」

「お前達がボロボロになってるから、慌てて飛び出したんだろうが!感謝されこそすれ、何で怒鳴られてんだよ!?」


 オームだって悪気があった訳では無い。

 寧ろ助太刀に来たのだ。

 如何にオームと言えど、グリード・フォックスの進化したスキルを知っていたらこうも考え無しには乱入しなかった。

 だが今オームが助力を施したのはテュール側では無く、グリード・フォックス側。

 グリード・フォックスはオームの身体強化魔法を

奇怪なる簒奪者(ウァレフォル)】で簒奪し、【盗品行使(アロケル)】で今のステータスに重ねがけを施した。


 身体強化はMPと引き換えに自身の全ステータスを上昇させる魔法である。

 その上昇率はスキルレベルによって変動し、当然レベルが高くなればなるほど上昇は大きくなる。

 テュールとオームのスキルレベルは8と9。

 スキルレベル5で達人レベルである身体強化が8や9というと、もはやそれは人外の領域であった。

 それを2重に施したグリード・フォックス。

 今となっては、グリード・フォックスのステータスは戦闘開始前の4倍にも膨れ上がっていた。

 テュール達からすれば悪夢と言う他無い。


「じゅーてんかんりょー!!あれ?ししょーきちゃったの?」

「来ちゃったの?って何だ!来ちゃ悪いか!」

「「・・・・・・。」」

「沈黙が痛てぇ!」


 などとコントを繰り広げている場合では無い。

 グリード・フォックスは鋭い爪を立て、グレイスには視認不可能な速度で攻撃を繰り出す。

 それは先程までの力任せの一撃では無く、何処かの流派にあるような道に入った物だった。


「オームの剣術スキルか!って、爪は剣の判定に入んのかよ!?」

「言ってる場合か!」


 オームは近くにいたグレイスを抱き上げ回避行動を取る。

 例えスキルが奪われようとも、剣術などのスキルは体が覚えているものだ。

 グリード・フォックスの動きを見たオームは、その歩法や踏み込みなどが自身の癖と完全に一致することを見抜き、攻撃の到達地点を予測し綺麗に回避して見せた。


「はやすぎかよ・・・」


 当然グリード・フォックスも速い。

 しかし、グレイスが今言っているのはオームの方だった。

 グレイスがボヤくのも無理は無い、オームの先程の動きは身体強化無しの動きでありながらその速度は短距離の転移と呼んでも差異が無いほどに素早かった。

 しかし、オームが回避出来たからと言ってテュールも、とはならなかった。

 攻撃の到達地点を予測出来たオームと違い、テュールにはそれを避けきる事は出来なかった。

 テュールは実戦で培われた動体視力でグリード・フォックスの動きは掴めていた。

 だが、そこまでだった。

 テュールは咄嗟に右に大きく跳ぶことにより致死ダメージは免れた。

 だが・・・。


「おとーさまぁ!」


 テュールの今のステータスに表示された状態異常、それは【欠損】と【大量出血】。

 グレイスが悲鳴を上げ、凝視しているのはテュールの斬り飛ばされ失った肘から先。

 テュールは己の左腕を捧げることにより、命を繋いだのだ。


「ぐっ・・・。今だぁぁぁ!」


 呆然とするグレイスにテュールの声が届く。

 言葉足らずではあった。

 だが、グレイスにとってはそれで十分だった。

 声が届くや否やグレイスは周囲に【電磁場】を展開する。

【電磁場】はオームとの模擬戦で使ったように、完全防護貫通技である。

 ステータスの差を一切無視し、強制的に範囲内の生命体の行動の自由を奪う魔法。

 奇しくもグレイスはこれまで散々グリード・フォックスが行ってきた〝奪う〟という行為を返す形となった。


「ガア!?」


 グレイスはオームとの模擬戦同様に自身を電磁石へと転じさせ、テュール達諸共グリード・フォックスを自分の下へと引き寄せる。

 この魔法の欠点は敵味方問わず自由を奪ってしまうことにある。

 だが、一度引き寄せさえすれば・・・。


「かいじょしてももんだいない!」


 引き寄せる前、テュールの少し後ろにグリード・フォックスが位置取っていた。

 少しでも距離があれば、また離れられてしまいテュールは一撃を加えられない。

 だが、グレイスにより引き寄せられた今、お互いの距離は0となる。


「【剛毅】っ!」


 唯一グリード・フォックスが盗ることの出来なかった(・・・・・・)テュールのスキル【剛毅】。

 このスキルは自身のHPを削りSTRを上昇させるスキルだ。

 一見身体強化とそう変わらないように見えるスキルであるが、リスクが高い分その上昇率は身体強化の比では無い。

 テュールはグリード・フォックスに決死の一撃を叩き込むため、自身の犠牲も厭わない覚悟でHPを削る。

 その結果、テュールのSTRが数値にしておよそ10倍以上になった。

 この間に掛かった時間は僅か1秒足らず、突如束縛から解放されたグリード・フォックスが混乱している間の出来事であった。


「うおらぁぁぁぁ!!!」


 テュールの渾身のアッパーがグリード・フォックスの顎にヒットする。

 いくらステータスを4倍にしようとも、10倍以上になったテュールの攻撃を耐えれるハズも無い。

 ましてや、HPなどは身体強化の恩恵を一切受けないステータスであるため素のままである。


 一瞬にしてHPが0になり、グリード・フォックスの死亡を表すように戦闘に参加した面々に経験値が分配された。

 経験値は貢献度制になっており、戦果を上げた者ほど経験値が多くなる仕組みとなっている。


【経験値982を獲得しました。】

【レベルが11に上がりました。】

【雷鳴魔法のレベルが3に上がりました。】

【称号【不屈】を獲得しました。】


 グレイスにもアナウンスが流れ、ようやく戦いが終わったと理解し、人心地付く。

 そこへ、天高く打ち上げられたグリード・フォックスの死体が空中で錐揉み回転を起こしながら地面に叩き付けられた。

 それも、グレイスのすぐ側に。


「あぶないな!?」

「ガッハッハッ!魔石を取り忘れるとこうなるんだ。これに懲りたらもう忘れるんじゃ無いぞ?」

「どの口が言ってやがる!お陰でこっちは腕を失う羽目になっちまったんだぞ!」


 奪われたスキルも帰ってきた。


 グリード・フォックスも倒せた。


 だが、失った腕はどうにもならない。


 ・・・・・・ことも無い。


 この世界が表す状態異常とは治せるもののことを指す。

 欠損も大量出血も治せることは治せる。

 現にそういうスキルは存在するのだ。

 欠損の場合は聖教国にいる最高位の神官に多額の寄付をすることで、再生のための抽選券が貰える。

 それに外れたら寄付からやり直しではあるのだが。

 魔物が跋扈するこの世界では欠損など珍しくも無い。

 しかし、日常生活に支障をきたすため治して欲しいと言う人は後を絶たない。

 だが、神官も治療に掛かる多大な魔力からか、多くて1日に3人程度が限界であるらしい。

 欠損を治すための魔法、【光魔法(セイクリッド)】は起こす現象の大きさから固有魔法レベルに使用魔力が多い。

 光魔法は習得が難しく、その中でも治癒などの干渉系の魔法は特に難しい。

 仮に習得出来たとしても使用魔力の多さから、人間が使おうとすれば数発撃っただけですぐに魔力切れを起こしてしまう。


 そして、今この場には先程まで物陰に隠れて息を潜めていた【光魔法】使い、それも欠損を治すことが出来る《セイクリッド》の使い手が存在する。


「きゅい」


 コイツである。

 驚くなかれ、このヒポグリフの光魔法のスキルレベルは怒涛の7である。

 前述の通り、5で達人レベルである。

 そして、教会にいる最高位司祭のスキルレベルも5である。

 普通にこのヒポグリフの方が優秀である。

 ヒポグリフはテュールの無くなった左腕側に立ち、術式を展開し始める。


「なっ!?」

「こりゃ、光魔法か?」

「ぴかぴかだねぇ〜」


 ヒポグリフの身体からは神々しい光が溢れ、その光は次第にテュールの腕へと集結して行く。

 光が収まる頃になると、腕は完全に再生し、戦闘や【剛毅】で減少したHPも全回復していた。


「【神々の祝福(オールリペア)】か!凄まじいなこのヒポグリフ!」

「きゅい!」


 褒められたヒポグリフはどこか誇らしげであり、心做しか胸を張っているようにも見える。


「あははは。いばっちゃって〜」


 そんなヒポグリフをグレイスは正面から抱き上げ、顔でヒポグリフのもふもふの身体を貪る。

 ヒポグリフはくすぐったかったのか、きゅう〜と笑い声のような声を上げグレイスの顔を舐める。


「えへへ〜、ありがとね。よし、おとーさま、うでなおったんだからおんぶして〜」

「・・・ハァっ、分かったよ。とっとと帰ろう。オーム、お前はそこの狐の魔石を回収してから帰ってこいよ」

「へいへい。今度は忘れねえよ」


 元々MP切れを起こすまで魔力を使う魔法なのだ、まだ持ち堪えているグレイスを褒めるべきだろう。

 テュールも魔法の威力からそれを察したのか屈んで背中を向ける。

 勿論、事の発端であるオームに釘を刺すのも忘れない。

 オームも早く帰りたい気持ちで一杯だが文句も言わず、グリード・フォックスの額から魔石を取り外す。

 そこでテュールはある事を思い付く。


「そうだ。グレイス、お前の部屋にでもコイツの毛皮置いておくか?」


 コイツは何を言っているんだ。

 テュールの目は雄弁に語っていた。

 要は金持ち宅にある虎の敷物の様なことをグリード・フォックスの毛皮でやろうと言っているのだ。

 アロケルは4mを越える巨体であったため、持ち帰れなかったが、グリード・フォックスの高さはせいぜい180cm程度である。

 持って帰れない事は無いのだ。

 グレイスは考える。

 折角苦労して倒したのだ、何か形として残る物が欲しいなと。

 そして、自分がもふもふのグリード・フォックスの敷物の上に寝転ぶ姿を想像し、目を輝かせた。


「ほしい!」

「マジかよ・・・」

「ガッハッハッ!分かってるじゃないか、グレイス」


 早々に師匠の影響を受けてしまっているグレイスにテュールは頭を抱える。

 もし、グレイスがガッハッハッなどと笑い出したらオームとの関係を断とうとテュールは人知れず決心するのであった。


「・・・今更だが、もうその服に着いたアロケルの血、落ちねぇぞ?」

「わかってるよ・・・」


 アロケルの返り血を浴びてから、もうかなり経つ。

 血はドス黒く変色し、いくら擦っても落ちないだろうということは容易に想像出来た。

 どう足掻いてもラーナに怒らえる運命にあることに軽く現実逃避したくなるが、何とか踏み止まりヒポグリフを自身の頭に乗せ、テュールの背中に身体を預ける。

 ふわっとした浮遊感の後、視線が高くなり一定のリズムで上下し始める。

 そのリズムに心地よくなったグレイスは、精神的にも肉体的にも疲れていたために襲って来る睡魔に身を任せ、ゆっくりと意識を手放していった。

これで1章は終わりになります。

2章は学園編となります。

更新は2章が書き終わり次第で、1日に1話ずつとなります。

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