10話 強欲なる化け狐
10話目です!
因みにですが、そろそろ1章終わります。
「あ、もってきちゃった・・・」
腕の中で満身創痍になっているヒポグリフを見てグレイスはそっと零す。
何だかんだでグレイスは前を行くテュールやオームに遅れること無く着いて来ることが出来ていた。
ステータスでは絶望的なほど差があるグレイスだが、そこは自身の身体を雷へと転換することによりその差を埋めたのだ。
ただ、グレイスが雷になったことで腕に抱かれたヒポグリフにまで電気が流れ、感電しかけたのだが。
何故感電しなかったかと言うと、ヒポグリフの持つ【魔法耐性】というスキルと【光魔法】から繰り出される【幻獣結界】という魔法の軽減によるものである。
【魔法耐性】は幻獣全てが持つ常時発動スキルであり非常に強力だが、その分デメリットもきちんとある。
それは、自身に益のある魔法にまで耐性が働いてしまう事だ。
例えば、外敵から火魔法10ダメージ分が飛んで来たとする。
この【魔法耐性】のスキルの魔法カット率は50%、つまり半減であるから幻獣の受けるダメージは5となる。
一方、味方から回復魔法10ダメージ回復分が飛んで来たとする。
同じくカット率が50%であるから回復量は10となり、回復量が大幅にダウンしてしまう。
バフ系の魔法などだとMP換算となり、使用MPが2倍になるなど強力故にそのデメリットは中々厄介な物となっていた。
【光魔法】は主属性魔法である光魔法の派生系である。
主属性魔法──火、水、風、光、闇───はそれぞれがその属性と言えば何を想像するかによって、使える魔法が大きく異なる。
同じ光魔法でも光線のような物を想像し、練習したとすればそれは【光魔法】という光魔法になり、目の眩むような強い光を想像すれば【光魔法】になるなど種類は様々である。
このヒポグリフの【光魔法】《セイクリッド》は守護、治癒に特化した魔法であり、今回はその内の1つ【守護の陽光】を使用し、グレイスからの魔法ダメージを更に軽減したのである。
しかし、それはあくまで魔法によるダメージのみ。
殴り付けるような風圧や物理法則を無視したような直角カーブによる逃げ場の無くしたエネルギーなどが全てヒポグリフに猛威を奮い、HPの約4分の1が消し飛ばしたのだった。
「きゅ、きゅう・・・」
「ご、ごめんね?」
「気ぃ引き締めろよ。そろそろお前がアロケルを倒した所だ」
「ここの森で1番強ぇのは熊だが、それは動物ならの話だ。魔物と戦ったら確実に熊の方が殺られる」
この森にとってアロケルはイレギュラーではあったのだが、この森に魔物が居ないかと言うとそうでは無い。
アロケルクラスはさすがに居ないが、それでも力を欲する矮小な魔物は割とそこら中にいるのだ。
「ちっ!遅かったか・・・」
テュールは思わず舌打ちをする。
グレイス達の目の前には、胸部にぽっかりとくり抜かれた様な跡を残したアロケルの死体が横たわっていたのだ。
これでアンデッド化の心配は消えた。
だが同時に、アロケルの能力を得た魔物が森の何処かにいる事が確定した瞬間でもあった。
「手分けして探すぞ。そこまで時間は経ってねぇんだ、近くにいるハズだ。グレイスは俺と来い」
オームが西側を、テュールとグレイスは東側を捜索することにし、各々頷き散開する。
ここに【盗賊】や【魔術師】などの職業の者が居たならば、【生体感知】や【魔力感知】のスキルを使いすぐに標的を発見出来た。
しかし、残念ながらここにいるのは馬鹿力の脳筋と能天気な脳筋と固有魔法が使える脳筋だけである。
それを求めるのは酷というものだろう。
「しかし妙だな。何で魔石をくり抜いたりしたんだ?肉食の動物なら肉ごと引きちぎれば良い話だろう」
アロケルの魔石は綺麗にその部分だけ抜き取られていた。
噛み付いた跡などは見受けられない事から、魔石を盗んだ生物はその場で使うつもりなど無く、何処か別の場所で使う目処があったのだろうと予想出来た。
「ませきをとったのは〝てさきがきよーなせーぶつ〟ってこと?」
恐らく猿のような指に関節を持った生物。
猿だと仮定すると、その場で使わず持ち去った説明も付く。
それはボス猿への献上品。
しかし、これは地球での知識に基づいての推理であり、それが異世界で通用するかどうか別の話だ。
「なるほど。そうなると・・・そうか!【欲深き化け狐】か!」
「え?」
しかし、意外な事にテュールの口から出たのは猿などでは無く、どう考えても狐の名前であった。
この世界の狐は群れをなし、ボス猿ならぬボス狐に貢物をするのか?
そう思ったグレイスだが次ぐテュールの言葉で自身の認識の違いを改める事となった。
「【欲深き化け狐】は真っ黒な体毛の額に魔石が埋まった薄気味悪い狐の姿をした魔物でな。この魔物を象徴する物として、ある固有のスキルが上げられるんだ」
「こゆーのスキル?」
「【盗人の慣習】と言う、対象の持ち物を盗み自身のねぐらへと転移させるスキルだ」
「・・・つよくない?」
「そうでも無い。聞くところによると、このスキルはレジストが容易で、少しでも勘づかれると確定で失敗する欠陥スキルらしいんだ」
レジストとは術者に対する抵抗の事だ。
術を掛けられる側の意思が術者の意思を上回っていた場合成功し、その成功率はスキルによって違う。
この【盗人の慣習】は術者の意思を0とするため、少しでも違和感を感じたらレジストされてしまうというかなり使い方が難しいスキルである。
しかし、今回の様に対象が既に死しており意思が介在しない場合、確実に成功するスキルでもあるのだ。
「ねぐらへとてんい?」
「ああ、だからその場で使うことが出来ず、早急にねぐらへと帰還したんだろう」
「じゃあ、そのねぐらをさがせばいいの?」
それもそう旨く行かない。
グリード・フォックスの大きさはせいぜい60cm弱。
さらに攻撃手段が少ないこの魔物は、普段から察知されないために幻術をねぐらや自身へと掛けている。
その幻術は長い間使っているためか練度が中々高く、その術の掛かったねぐらや本体を探すのは上位の冒険者でも苦労するレベルである。
「じゃあむりじゃん・・・」
「うん・・・」
「うん!?あきらめるの!?」
テュールまさかの弱気発言である。
実際問題、引き篭もったグリード・フォックスはそこそこ強い。
別に攻撃力がある訳では無いのだが、何せ見つからないのだ。
グリード・フォックスの一般的な狩猟方法は、ねぐらへと戻られる前に仕留めるか感知系の魔法などで位置を特定するかのこの2つである。
現在テュール達はそのどちらも取る事が出来ない。
「諦めた訳じゃあ無いぜ?ただ、ほぼ賭けだからなぁ・・・」
そう言い耳の外側に手を当て、周囲の音を聞き逃さぬようにするテュール。
グレイスも訝しみながらも息を潜め、テュールの真似をして同じ様に耳をすます。
「こっちだ!」
「ええっ!?」
突如走り出すテュール。
グレイスも置いていかれまいと後を付いて行くが、テュールの行動原理がよく分からず納得いかないといった表情は拭いきれない。
「ここだ!構えろグレイス!」
しばらく走ると、テュールは何の変哲も無い木々の合間で停止し、グレイスに注意を促す。
すると、辺りの景色が陽炎のように移ろい姿を変えていく。
変化が止まるとそこには、土煙を吐き出している今にも崩れそうな洞穴が顔を覗かせていた。
テュールの言う賭けとは、グリード・フォックスが魔石を取り込んだ際に生じる変化に耐えられなくなったねぐらが崩壊する音を聞き取り、その場所に駆け付けるといったものだった。
グリード・フォックスの性質として小さな洞穴を巣にするというものがある。
これは少しでも幻術がバレる可能性を減らすためであり、使用するMPを軽減するためでもあった。
しかし今回はそれが仇となり、ねぐらの崩落音が強化されたテュールの耳に届き、居場所を知らせる事となってしまったのだった。
「グルルルル・・・」
暗い洞穴の奥に怪しく輝く紅い光が3つ浮かび上がる。
よく見るとそれは狐のような化物の双眸と魔石であり、その目には憎悪しか宿っておらず、鋭い牙を剥き出しにした口からは悍ましい唸り声を上げていた。
「格上の魔石を取り込んだ反動で正気を失ってんのか?」
洞穴を粉砕する様にして這い出して来た元グリード・フォックスの姿は今では見る影も無く、大きさは3倍ほどになり、黒い体躯を突き破り生えた2本の熊の腕が異質さに拍車を掛けている。
「グアアアアア!!!」
唯一面影があるのは狐の顔と額に付いた魔石のみ。
魔石も顔の肥大化に合わせて大きくなっており、今ではアロケルの魔石と遜色無い大きさとなっていた。
「まだあのくまさんのほーがましだったよ・・・」
グレイスがそう言うのも無理はない。
洞穴から完全に抜け出したグリード・フォックスの異質さは前述のみでは収まらず、更に歪な姿を晒していた。
「なんでしっぽが〝くまのうで〟なの・・・」
グリード・フォックスの尾は狐のそれでは無く、グレイスの言った通り熊の腕、肩から下の部分が無理矢理尻にくっ付けたかの様にして生えていた。
「グレイス、俺の合図で左に飛べ。厄介なスキルを使われる前に俺があれを仕留める」
「おとーさまが?」
「おうよ。俺に任せとけって」
テュールはそう言うと、親指で鼻を擦りへへっと笑う。
その後自身に身体強化を掛けようと魔力を込めた所で違和感に気付いた。
「何だ!?身体強化が発動しねぇ!?」
「おとーさま、きつねさんが!」
何故か発動しない身体強化に戸惑うテュール。
そこへ何かに気付いたグレイスが、グリード・フォックスを指差し声を上げる。
そこには魔石を輝かせ筋肉を膨張させたグリード・フォックスが左前足を持ち上げ、ニタァと口端を上げていた。
「くっ!取り敢えず避けろグレイス!」
テュールが言い切った瞬間、グリード・フォックスはオームの剣戟もかくやといった速度で前足を振り下ろした。
その鋭い爪から繰り出される攻撃は大地を裂き、何とか回避したグレイスを衝撃波だけで吹き飛ばすほどの膂力を秘めていた。
「いたたた・・・」
「グレイス大丈夫か!あいつ、まさか俺の身体強化を盗んだのか!?」
本来グリード・フォックスの攻撃力はかなり低い上に身体強化が使えない。
それはアロケルの魔石を取り込み、アロケルのステータスの半分を手に入れた今でも変わらず、同じ危険度の魔物と比べると雀の涙ほどしか無い。
しかし、魔石を取り込み魔物としての位が上がった今、グリード・フォックスの固有スキルも上位の物に進化していた。
グリード・フォックスの固有スキル、それは
【奇怪なる簒奪者】と【盗品行使】の2つ。
どちらも悪魔の名を冠するスキルであり、
【奇怪なる簒奪者】は元々あった【盗人の慣習】の上位互換スキルで、INTが自身より低い対象のスキル、アイテムを一切察知されず奪うスキルである。
一方、【盗品行使】はアロケル自身が元々持っていた
【知恵を授ける者】の派生スキルであり、奪ったスキルやアイテムに対する知識を授けその場で行使可能にするスキルである。
今のグリードフォックスは自身のステータスに関係無く敵、つまりグレイスとテュールの戦力を奪い自身に付与する事が出来る。
要は、グレイスとテュールが倒れるまで攻撃の手を休めることの無い半永久機関の出来上がりという訳だ。
「やっぱりけっかんスキルなんかじゃなかったんだね・・・!」
グレイスは元よりテュールの欠陥スキルという説明に納得がいってなかった。
魔物になって手に入れたスキルが欠陥スキルなんて寂し過ぎる。何処かに救済措置が隠されている、そう思っていたグレイスであったため、グリード・フォックスの脅威の進化にそこまでのショックは無かった。
だが、テュールからすればそのスキルは死活問題である。
出発前に言っていた、いざとなったら身体強化を使う。
それが今封印されたのだ。
ステータスで遥かに上回っているため1発殴り付ければ恐らくHPを0にすることは出来るだろう。
だが、相手は攻撃力が無い分動きで翻弄し、逃げ回ってきたAGL特化の魔物である。
職業の括りが重戦士であるテュールにとってそれを捉えることはかなり厳しかった。
何よりカッコイイ父親の姿を愛娘に見せる千載一遇のチャンスを逃す可能性があるのだ。
それはそれは死活問題だっただろう。
「あれ?案外余裕ある?」
少なくとも父親としての矜持を気にするほどには心に余裕があった。
これが1人でこの魔物と相対したのならば、こんなに余裕は無かっただろう。
皮肉な話だが、この場に居たのがオームでは無くグレイスだという事がテュールの心の平穏を保っていた。
娘を逃がさなければいけないという義務?違う。
娘を残して死ねないという強い意志?違う違う!
テュールはほくそ笑んでいた。
それは他ならぬグレイスと共に居たからこその思考。
テュールは確信していたのだ。
「俺とお前との相性は最悪だ。だがな、この相性を覆すことの出来る切り札を俺は知ってるんだぜ?」
それは野生の勘に似た様なものだった。
しかし、この勘に幾度と無く助けられたのだ。
今更疑う余地も無いだろう。
そしてテュールは、グレイスと共闘することを選んだ。
テュールは思う。
罵りたければ罵るが良い。
どちらか1人が生き残っただけでは不十分だ。
それは後々後悔となり、必ず後を引く。
ならば、そんなもの端から無かった方が良いだろう。
「グレイス、父娘初めての共同作業だ!目標は眼前の熊かぶれの化け狐!報酬は・・・・・・家族揃っての賑やかな食卓だ!」
テュールはグレイスに檄を飛ばす。
その言葉を聞き届けたグレイスもヒポグリフを避難させ、獰猛な笑みを浮かべながら身体に魔力を通した。
「りょーかいだよ、おとーさま!」
「グルアアアアア!!!!!」
ステータス差は絶望的。
頼みのテュールも身体強化を奪われてしまい、全力を出せない。
だが、2人の目から光が失われる事は無かった。
それどころか目の前の強敵に対して闘志を滾らせていた。
ブックマーク数が30を突破しました!
本当にありがとうございます!!!!
修正
【奇怪なる簒奪者】before
【奇怪なる簒奪者】after




