7.バウンダリー
「塾の先生の大学時代の同級生が、マリリン・モンローのおしっこがコップ一杯の水道水にどれだけ入ってるかって卒論書いたんだって」
「ねえ冨野くん。そのセリフは彼女に対する朝の開口一番の言葉としてふさわしいと思う? 『おはよう、芹川さん。今日も可愛いね』とか言えない?」
「おはよう、芹川さん、今日もめっちゃ可愛いね、僕の彼女で本当によかったよ。おしっこってほとんど水だから世界中に意外に早く行き渡るんだって」
「続くんだそれ、ブレないね君。でも偏西風とかジェット気流とか台風とか、世界中で風が吹いてるから、水蒸気になったら散らばるの早そうだね」
「さすが、頭いいし、おしっこのこととなると理解が早い」
「はあ……、で? 結局どれくらいあるの?」
「そんな睨まないでよ、先生も詳しく覚えてないらしい。気になったらあとでAIにでも聞いといて」
「なにそれ、中途半端な変態だね」
「違うんだ、大事なのはそこじゃないんだよ」
「なんなのよ」
「僕らはみんなマリリン・モンローなんだ」
「……さ、早く学校行かないと遅刻しちゃう」
「僕らの体は半分以上水でできてるからね、僕らの体もマリリンのおしっこが構成要素の一部なんだ」
「今日はお弁当ないから久しぶりの学食なんだよね。今日は何食べよっかな~」
「人を分解するとほとんど水とアミノ酸になるんだよ、つまり僕らは水でありマリリンなんだ」
「なんでそんな何十年も前のたった一人にこだわるんだよ、ケネディ大統領でもいいじゃん。……しまった返事しちゃった」
「そう、まさにそこなんだ。僕達は互いに僕達以上に水を交換した人はいないだろ」
「うわっ、しかもカウンターだった」
「僕、一番冨野周に近いけど、その次に芹川美月に近い存在。芹川さんもそうだよ」
「ロマンティックな風に言ってるけど、それかなり生々しくて気持ち悪いからね」
「でもそういう関係を僕達は構築してきたではないか」
「あ、わかった。どうせそれが愛の究極の形だとか言いたいんでしょ」
「あらら……、よくわかったね」
「ワンパターン、着地点が陳腐なんだよ」
「じゃあお互いのシンクロ、以心伝心も確認できたことだし、今日も境界を希薄化しようね」
「まだ朝だよ。まずは勉学に励もうか」




