39.吾輩は高貴である
「高級スーパーに休みの日に行ったら金持ちそうな客ばっかで精神がすり減ったよ」
「そんなことですり減るの?」
「そんなことですり減らないのは上級国民の特権なんだよ」
「そのことだけど最近ちょっと気になっていろんな友達見てたんだけど」
「え?」
「家庭の裕福さとか関係なく、冨野くんほど金持ちにむき出しの敵意向けてる人、他にいない気がするんだよね」
「……」
「君のそれ、家が裕福かどうかとかそういうの関係ないんじゃない?」
「金持ちでもないのに金持ちに敵意ないとか聖人だよ、僕みたいなのは無理」
「買い物中ずっと卑屈な気持ちなんだ、かわいそうに」
「うぅ、そんな目で見るなあ! こっちはこっちのやり方でうまく自尊心維持してるんだよ」
「どんなふうに?」
「身長ではあいつに勝てるとか、きれーな顔立ちの奴見たら、いとこの健太の方がイケメンだとか」
「いとこの健太君は関係ないじゃん」
「本当に勝負してるわけじゃないからルールは僕なんだよ」
「その『僕ルール』でも勝てなさそうな相手が現れたらどうするの」
「ふふふ、最後の手段があるのだよ」
「最後の手段」
「僕の母方のおじさんに嫁いできたおばさんの実家のおじいさんはその地方では知らぬ者のいない名士の四男で今でも超金持ちだからね。徳川家にも嫁いだ人がいるくらいなんだよ」
「え?なんて?」
「だから要するに僕は、とある地方の名士の遠い親戚なんだよ。天皇家に嫁いだ人もいるくらいの」
「ちょっと、さっき徳川家って……」
「あ、そうか、間違えた。徳川に嫁ぐくらいの地方の名士の当主の四男の孫娘のダンナの妹の息子が僕ってことだよ」
「えっとなるほど、待って。つまり徳川はあんまり関係なくて、地方の名士の」
「そう、地方の名士の」
「当主の孫娘の」
「違う、当主の四男の」
「あ、当主の四男の孫娘の」
「ダンナの妹の息子が僕だよ」
「なるほどなるほど……、わかったよ。……で?」
「え?」
「だから、それがなんなの」
「なんなのってその通りだよ。徳川に嫁ぐほどの超金持ちの地方の名士の当主の四男の孫娘のダンナの妹の息子が僕だよ。これならなかなか負けないでしょ」
「……要領を得ないね」
「そりゃさっきも言ったように僕ルール、精神的な問題だからね」
「まあいいか……、で? そのルサンチマンの権化が、そんなフル武装して高級スーパーで何を買ったの?」
「生のチュロスと冷凍ハッシュドポテト」
「高級なのに? もしかして安いの?」
「うん、値段の割に物はいいんだよ。原料が小麦粉やジャガイモだがそんなに値段上がらないんじゃないかな」
「え? てか冨野くん料理……揚げ物できるんだ」
「好き過ぎてできるようになった。でも半分はお父さんに取られる」
「へぇ~意外、でもお父さんはできないんだ」
「うん、まあ別に一緒に揚げるくらいはいいんだけどね……」
「どしたの」
「練りからしつけるんだ……」
「え? あの黄色い? チューブの? 辛いやつ?」
「うん、確認したくなる気持ちはわかるけど間違いなくそれだよ」
「えっと、ポテトの方だよね……?」
「……両方」
「それはまたなんというか……独特だねぇ……」




