4.チョコディップ
「あれ、冨野くんもう学食行ってきたの?」
「早食いは得意なもんで、えへへ……」
「どしたのニタニタして、気味悪い。その顔はなんか企んでるね?」
「えっとですね……」
「あ、わかった、どうせノート見せてほしいんでしょ。もう……、今度は数Ⅱ? 化学?」
「ぜ、全部……。中間テストの教科……」
「……君は何しに学校に来ているのかな?」
「せ、芹川さんに会いに……かな?」
「はあ……、まったくしょうがないな。ほら、もっていきな」
「へへへ、ありがとうございます」
「……ちょっと待った、今チョロいとか思ったでしょ?」
「め、滅相もございません!」
「……明日の朝には返してよ」
「へい、もちろんでございやす」
…………
「おはよう、芹川さん」
「おはよう。あのさ、もしかして昨日間違えて関係ないノートとか渡してない?」
「あ、そういやそんなの1冊あったね、これかな?」
「うんそれだわ…………、えっと……見た?」
「何を?」
「……このノートの中」
「まあちょっとだけね、メモとか落書きとかそんな感じの多かったから、授業と関係ないやつだと思って、ただそれだけ。彼女でもプライバシー大切だと思ってるから」
「……そっかありがとう」
「こちらこそノートありがとう。すごくきれいに整理されてたから、これでしっかり復習できるよ」
「それはなによりだよ、でもノートくらいがんばって自分でとってよ」
「わかったよ。これからもポエマーな彼女の期待に添えるようがんばるよ」
「…………」
「……がんばるゾ」
「……やっぱ見てんじゃない! しかもそれ読み込んでないと出てこない感想だ!」
「これからも芹川さんが芹川さんであるために歪んだ愛を捧げるよ」
「あ〜聞きたくない! もうやめて」
「……でもさ、あの頃こんなふうに思ってくれてたってわかって嬉しかったし、ほんとに見るつもりなかったんだ。たまたま開いたらそのページにあったもんで」
「……ほんと?」
「ほんと、これはマジ」
「はーっ……。もう最悪」
「……ああもう、かわいいなあ」
「うっせえわ、……帰りチュロスね」
「え、な、なんで?」
「ノート代に決まってるでしょ。あ、当然チョコディップ付きだよ」
「今までは無料だったのに……」
「本日は特別料金がかかるんだよ」
「出費痛いなあ……」
「普段から努力してないからだよ」
「これっていつ頃書いたの? 結構前だよね」
「あの最低な告白のすぐ後だよ……」
「あ~アレね……、でもチョコディップのように甘くてほろ苦い過去だね」
「あ~もう、うるさい」
『余白』
期待通りの「私」が、 期待通りの笑顔で、 私を塗りつぶしていた。
でも、この教室の片隅でだけ。 君のくだらない屁理屈が、 私の余白になった。
少しもきれいじゃないけど、 私が私であるための、 ひとつだけの居場所。
「バカだね」ってあきれるたび、 張り付いた笑顔が、 内側から剥がれ落ちていく。
みんな気付かなかったのに。 君だけが、 最低な妄想と歪んだ愛で、 捕まえてくれた。




