31.20年後……?
「お、なんだこんなとこに生意気にも黒塗り大ベンツ停めやがって。
かーっ、やだねえ貧乏人の住宅街にこれ見よがしに。30分100円たあコスパのいいマウントだこと。その辺転がってる大便かっつーのはは。
だいたいなんだこのスモークってやつは。感じ悪いねえ。お前ら上級国民はその黒いスモーク越しに貧乏人を見下してるんでしょうよ。
でもこっちからは腹黒そうな自分しか見えねえよなあ。それじゃなにか? 貧乏人は自分より黒く見える貧乏人の幻想抱いて足引っ張りあって上級国民にこき使われろってか?
上等だよ、お前らの望み通り俺たちゃ堕ちるとこまで堕ちてやるよ、てかもう堕ちてるよこら、満足かオイ。
でもなあ、俺たちが這いつくばってるうちゃあいいが、いつかたまりにたまった怨恨がお前らに向かいその身を焼くだろうよ。うかうかしてりゃ大ベンごとお陀仏よ、もうヤケクソだよ、はは。オラ聞いてんのか。
……ってか鼻毛出てんじゃねえか、オラぁ身だしなみっちゅうやつには気をつけんのよ、愛想尽かした元カノがうるさくてよぉ、せいせいしたわ。
鼻毛用鏡くらいにゃ使えんだろ、ありがたく思え、フンフン。
……………あ、ヤベ、乗ってらしたんすかへへ、すんませんでしたね騒がしくして……」
「……」
「あ……!」
「……久しぶりだね冨野くん」
「……芹川さん……」
「……」
「……はん、スモークの幕が下がり登場しますはどこぞのあくどい金貸かと思えば芹川のマダムじゃありやせんか、アラフォーのババアになっても相変わらずお綺麗でらっしゃる。甘い汁は美肌効果もあるんかね?」
「今は斉木だけどね、君は顔が土色だよ。平日の真昼間から仕事もせず酔っぱらって相変わらずふらふらしてるんだ。前偶然君のお母さんに会ったけどすごく心配してたよ」
「お~っと、20年も前の元カレの心配してくれんですかあ、いつまでたってもお優しゅうござあますなあ。上級国民の余裕こちとら持ち合わせておりませんで、すんませんでしたなぁ」
「あと、君んちと私の実家近所なんだから、いて当然でしょ。別に見せびらかすつもりもないし」
「ははは、そうそうその無自覚さ最高に上級国民よ、いやサイコな上級国民かな」
「お酒臭い、顔近いから。あとずっと鼻毛つまみっぱなしだよ。いい加減手離してよ、汚い」
「おやおや毒舌の方も相変わらずキレッキレですなあ」
☆
「なにこれ……?」
「NTRものだよ、しかも全年齢版の」
「なんで私斉木君と結婚してんの?」
「いや、あの斉木かどうかはわかんない、そこは決めてないから」
「普通に読んだらそうじゃん。君が書いてて、君と私が出てくる話で、NTRで、出てきた斉木性があの斉木君じゃないということはあり得るのかな?」
「……NTRにも余白があった方が興奮するよ」
「まあ君がそういうならそれでいいよ……。でも斉木君はアリナシでいえばアリ寄りだね。ちょっと変だけど、なんだかんだハイスぺじゃん。いじられの隙もそれはそれで魅力の一つだし」
「ぐふぉっ……」
「てか君の自己認識どうなってんの?口調もかなりおかしいし。今時、いや平成でもこんな人そういないよ」
「別に……。芹川さんに見捨てられたらこうなるかなってだけ」
「重いわ。なに? 見捨てられると思ってるの?」
「だってこの世でどれだけの人が初恋のまま結婚するのかな、とか思ったらそうじゃん」
「でもそこの本棚にある漫画のおでこ広めのヒロインと同級生の主人公は初恋で結婚して子供できても同じ感じで続いてるよね」
「あれはそういう理想を楽しむ漫画だから……。でも僕らそういうのじゃないし」
「こないだは孫の話してたくせに」
「孫もNTRも仮定の話だよ。未来なんてわからんし」
「ふふ、そうだね、未来は誰にもわからない。でもだからこそ良い関係を築いていくのは、他の誰でもなく私達自身なんだと思わない?」
「……」
「私達、付き合ってまだ半年経ってないんだよ? まだ一緒にやってないことやりたいこといっぱいあるし、どうせ想像するならそういうこと考える方がいいよ。NTRではなく」
「……」
「……」
「そうかな……うん、そうだよ」
「お、立ち直れたかな?」
「ぶっちゃけそういうの今考えても意味ないよ」
「うんその調子だ」
「僕たちは今を生きてるんだから、今お互いができることを考えて、そして真剣に向き合って愛を育んで……」
「うん、育んで?」
「……あ、あとはその時考えよう!」
「ぷっ、それじゃただの行き当たりばったりじゃん。……でも前向きになれたならよかったよ」
「じゃあ僕達の大いなる未来への第一歩として、芹川さんがNTRてなくてよかったって安心したいんだけど」
「まったく、自分で書いて勝手に不安になってたら世話ないね。ほらそこ、ベッドに寝な」




