番外4 出口なし
もともと人とのコミュニケーションが嫌いなわけではない。
むしろみんなとしゃべったり遊びに行くのは楽しいと感じていた。
幸い家庭にも健康にも恵まれ、不自由なく育ってきた。
周りより親の教育もしっかりしていたと思うし、自分でも親の言うことをよく聞いてきたと思っている。
はっきりと逆らったことは記憶にある限り一度もない。
成績も良く、運動もそこそこでき、人への配慮もできたから自然と周りには人が集まるようになっていた。
そんな自分も充実しているようで好きだった。
でも今思えば、そうでない人をほんの少しだが見下していたのかもしれない。
自分では行儀よく生きているつもりなのに、その傲慢さに気付けなかったことが今は恥ずかしく感じられる。
そんな中途半端な『お行儀』が限界を迎えたのは突然のことだった。
いや、突然に思えただけで、知らないうちにそれは進んでいたのだと思う。
いつからか、私は他人に見られることでしか自分を規定できなくなっていた。
もしそれが自分の性格に合っていたのなら、疑問も持たなかったのかもしれない。
しかし私はそうじゃなかった。
うまく言えないが、今までのあたりまえが苦しい。
苦しい?
失敗もしてないし、不満もないのに、なぜ苦しいの?
でも何か変だ。
誰かにこの苦しさを伝えたい。
でもどうやって?
言葉にできない。
規定された私はその術を持たない。
出口のない回廊で、私はただ何か救われるきっかけを待つことしかできなかった。
そんな時、垂れ下がってきたのはピンク色のはしご……というにはずいぶんと汚らしい。
え? なにこれ?
なぜか『コレ』が唯一の出口のように感じられた。
決して白馬の王子様を期待していたわけではないけど。
いやでもなんか触りたくないな。
うん、あとで手を洗おう。
意を決して私は梯子をつかんだ。
じっとりとした粘着感が手に広がる。
全身の肌がざわめく。
薄汚れてはいるが作りは意外にしっかりしている。
私はよじ登ろうと腕に力をこめた。
するとはしごはとんでもない奇抜な動きで私に絡みついてきた。
え?なにこれ?キモ。
そして触手と化した薄汚いはしごは、私を絡め取ったまま、奈落の底に引きずり下ろしてしまった。
私は二度と浮上することはなかった。
出口はそんなところにあったんだ。
それに気付くのはまだ少し先のことだった。
でも……、もうちょっとマシな出口はなかったのかな……?




