番外2 攻防?
「芹川さん、最近元気ないように見えるけど大丈夫?」
「あ……。うん……あんまり大丈夫じゃない……かな」
「ど、どうしたの? 僕にできることなら何でもするから言ってよ」
「……」(え? よりによって? マジ? コイツ? これ冨野くんだよ……?)
「……」
「……」
「……せ、芹川さん?」
「なんで……わかったの?」
「え?」
「大丈夫じゃないって」
「えっとなんか、ここ最近辛そうにみえたから……」
「うん……そうなんだ、よくわかったね」
「いやまあ、いつも見てるし……っていやごめん、何でもない」
「……よく見てるのは知ってたよ」(いや気付かれてないとか思ってたのかよ、逆に)
「あ、あはは、そうだよね……」
「……」
「……」
「……君に何かできると思う?」(いや、これはさすがに直球過ぎるかな)
「え、えっと……」
「……ごめん、困るよね」
「あ、あはは、えっと、何で悩んでたかとか聞いたりしていい……かな?」
「……」(めげずに結構攻めてきたね……)
「は、はは……」
「……ちょっと友達付き合いで疲れちゃった」(言っちゃったよ……)
「そうなんだ、じゃあたまには僕と話して息抜きするとか……どうかな?」
「……」(陰キャオタのくせにかなり食い下がるなあ……)
「……えっと」
「……そうだね」(いや、『そうだね』じゃないって。乗っちゃったよ……、大丈夫なのかな私?)
「芹川さんって漫画とか読むの?」
「あんまり読んだことないかな……」(でた、オタク君の得意分野だね)
「じゃ、じゃあさ明日おすすめのやつ持ってくるよ、どれがいいかなあ」
「……うん、ありがとう」(でも不器用なりに気を遣ってくれてるんだろうな。目つきがネバっこくないし、ガチでブツブツ言って考えてるし)
翌朝、冨野くんは芹川さんに『アドルフに告ぐ』を差し出した。
最も「いいもの」を見せようと考えたオタクの限界である。
今の芹川さんにどの漫画がふさわしいか、といった配慮は一切なく、自分基準のスコアリングで定量的に判断した結果である。
しかし、彼にも迷いがなかったわけではない。
最後まで『ねじ式』とどちらを持ち出すべきか考え抜いた末のことである。
「読んだら感想を聞かせて」と押し付けるように文庫本5冊を渡すその真っ直ぐな瞳には善意しかなかった。
Lこれには営業スマイルの芹川さんも思わず苦笑いである。
今の冨野くんならもう少し気遣いする意思が働き、『11人いる!』あたりのセーフ寄りのアウトを選んだだろう。
しかし、この頃の彼には他人への気遣いスキルがそもそも解放すらされていなかった。
金曜夜のベッド上、分厚い文庫のページをめくる。
物理的にも内容も重い。
気遣いを受けていたはずなのに、なぜこちらが気を遣っているのか、どうも腑に落ちない。
しかし、今まで他人にしてきた気遣いと違い、疲れやストレスは感じられなかった。
彼は「素晴らしい漫画」を読ませようとしているだけで、芹川さんに何か見返りを期待しているわけではなかったからである。
(バカなんじゃないの? いやバカだ。バカに違いない)
あの輝いた目を思い出す度に苛立ち混じりのおかしさがこみあげてくる。
月曜朝、鞄が重いことにも若干の苛立ちを覚えながら登校、感想とともに5冊を返却した。
彼女自身意識はしてなかったが苛立ちという感情を抱いたのは久々のことであった。
灰色の洗浄液による心の浄化が始まろうとしていた。
一方、冨野くんはというと次に貸すべき漫画、『寄生獣』を持参していた。
『デビルマン』と迷ったがこちらの方が発展的だと考えたのである。
その得意げな笑みを前に、芹川さんは黙って頷くことしかできなかった。




