21.可能性の海の物語
「芹川さんは、『もしあの時ああしてればな』って、自分の選択や失敗を後悔することってない?」
「そりゃあるよ。冨野くんほどは多くないとは思うけど」
「時には後悔するとわかってて楽な方を選ぶ勇気も必要なんだよ」
「あはは、ものは言いようだね」
「そういう後悔ってさ、歳をとるほど大きくなっていくものなのかな」
「それは根本の方で枝分かれした方が影響大きくなるってことかな? まあそうかもね」
「例えばさ、孫が10人いるとするじゃん」
「それはなかなか多いね」
「でももしその人が50年前に今の奥さんに対してちょっとやらかしたら、孫10人は存在しないことになるって怖くない?」
「どしたの? もしかして私とのやりとりでやらかさないか心配してるのかな?」
「な、なんでそっち行くんだよ。別にしてないし」
「ふふ、ほんとかなあ?」
「……芹川さんは孫何人欲しい?」
「4段階くらい気が早いよそれ」
「先を見越した行動がリスクを減らすって、うちによく来る保険の人が言ってたよ」
「それただの営業トークだからね」
「話し戻すけどさ、僕は意外に後悔は小さいんじゃないかなって思っちゃうんだよね。結局結果はある程度収束するんじゃないかな」
「え、なにそれ? 違う人と結婚しても孫は同じ人物になるってこと?」
「それはさすがに無理があるけど、相手が違っても孫ってことに変わり無いし、わからないけど多分日本人と結婚する可能性が一番高い。互いの好みや価値観のすり合わせもあるから、相手もある程度似たような人になりやすいんじゃないかな」
「まあ言われてみれば、似たような世界で生きてれば、生き方は似てくるかもね」
「だからさ、最初は選択や失敗を後悔してても、案外大人になると自分の人生を振り返って可能性の限界ってのに気付くんじゃないかな。木が隣の木や地形の限界で成長できなくなるみたいに」
「もしいいクジひいてたとしても、この辺が上限かなとかわかってくるってこと?」
「そうそう、自分にどれくらいの可能性があったかが見えてきてさ。だから歳とった人ほど意外と後悔って少ないんじゃないかなとか思ったり」
「おじいちゃんやおばあちゃんに聞いてみたらいいんじゃない? どれくらい可能性の物語があったのかって」
「うちのおじいちゃんそういう話絶対通じないだろうな。『海物語』しか知らんわ」
「あはは」
「おじいちゃんは誰と結婚しても『海物語』に収束したと思うよ」
「趣味ってのはそうかもね」
「それでこの仮説から導ける素晴らしい結論があるんだよ」
「なに? なんとな~く嫌な予感するんだけど気のせいだといいな」
「つまり受験勉強しなくていいんだ。60年後はどうせ気にしてないと思う」
「……それは後悔するよ。主に20代でね」
「う……急に温度が下がった……」
「う~ん、これはちょっとしばらくは自宅デートかなぁ」
「あ、それ勉強合宿って言った方が言葉の通りがいいやつだ」
「なんと、かわいくて親切な講師付きだよ」
「またそういうプレイ始まりそう」
「今度はそうはいかないからね」




