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雑用係の私ですが、草刈りしながらのんびりレア薬草を摘んでいます!3  作者: 志摩


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第3話 海洋大国アトランティクス



 レグラリアの港町を離れ、エルネたち使節団を乗せた巨大船『アトラントン号』は、見渡す限りの紺碧が広がる大洋を滑るように進んでいた。



 夜明けとともに出発した一行は夜には着くという超大型魔道船体に乗り込んでいた。


 船体に刻まれた流麗な魔術文字(ルーン)が蒼く明滅するたびに、周囲の波が穏やかに押し分けられていく。



 アトランティクスが誇る『風水魔導船』である。


 帆に風を受けるだけでなく、海水そのものの魔力を動力源として利用するため、揺れが驚くほど少なく、まるで平地を歩いているかのような滑らかな乗り心地であった。



「うわぁ……! アルディス様、見てください! お魚が船のすぐお隣を泳いでいますよ!」



 甲板の欄干から身を乗り出すようにして、エルネが歓声を上げた。


 透明度の高い海面を覗き込むと、七色に輝く鱗を持った飛魚や、小さな光を放ちながら群れをなす深海魚の稚魚たちが、船の航跡を追うように跳ねている。




「転落しないでおくれよ、エルネ。……いくら海が美しくとも、君を失えば俺の心は凍りついてしまう」



 アルディスが愛おしそうに目を細め、エルネの華奢な体を背後からすっぽりと抱きすくめた。



 黒地に銀の装飾が施された騎士団長の外套が風にたなびき、エルネを冷たい潮風から守るように包み込む。



「もう……アルディス様ったら、大げさなんですから。でも、本当に綺麗な海ですね。陸の川や湖とは、匂いも魔力の含み方も全然違います」



「ああ。だが、俺にとっては、潮風を浴びて少し頬を赤くしている君のほうが遥かに美しい」



「あ、アルディス様……っ」


 耳元で囁かれる甘い言葉に、エルネがポッと頬を染めてうつむいた。


「ちょっと、そこでお熱い二人に水を差すようで悪いんだけどぉ」



 甲板の階段から、両手に豪華なフルーツ盛りの皿を持ったセシリアが、呆れ顔で姿を現した。




「ガルドから報告ですわ。『前方に見える海上の霧が晴れ、アトランティクスの本島が見えてきた』とのことですわよ」


「まあ……! もうすぐ着くのですね!」


 エルネが視線を前方に巡らせると、白く立ち込めていた海霧が、まるで劇の幕が上がるかのように左右へと静かに開けていった。








 霧の向こうから姿を現したのは、エルネの想像を遥かに超えた、美しく壮大な「水の都」であった。



 海上に浮かぶ巨大な環状人工島と、そこに建ち並ぶ純白の石造りの建築群。



 建物はどれも巻き貝やサンゴ、波の曲線を思わせる優美なフォルムをしており、屋根には太陽光を反射して青や緑に輝く特殊な貝殻や鉱石が敷き詰められている。



 さらに驚くべきは、市街地の至るところを巡る「水の上昇回廊(水路)」だ。



 巨大な水魔導結界の力によって、海水が重力を無視して宙へと吸い上げられ、アーチ状の透明な水管となって建物と建物の間を繋いでいる。


 その空中水路の中を、小さな魔導艇や色鮮やかな魚たちが軽快に行き交っていた。



「これが……海洋大国アトランティクス……!」



 エルネが感嘆の声を漏らすと、いつの間にか隣に立っていたレオンが、ふふんと誇らしげに胸を張った。




「どうだ、エルネ。我が国の海上都市は。陸の無骨な石造りの城とは一味違うだろう? この海上に浮かぶ街すべてが、水魔導と天然の深海素材が織りなす技術の結晶なんだ」




「はい……! 本当に夢の中にいるみたいです。街全体が生きているみたい……!」



「ふん、相変わらず自慢気な顔ですこと」


 セシリアが扇子で口元を隠しながら、ツンと鼻を鳴らした。



「ですがまあ……幼い頃に来た時よりも、空中水路の密度が増して綺麗になりましたわね。少しだけ認めてあげますわ」



「『少しだけ』とはなんだ高飛車女! 素直に感動したと言え!」



「あら、素直になるのは貴方がその尊大な態度を改めてからですわ!」



 早くも始まった幼馴染の口喧嘩に、エルネがくすくすと微笑んでいると、背後から可憐な足音が近づいてきた。



「エルネ様〜〜っ!」


 勢いよく飛びついてきたのは、第一王女のルチアだった。


 ハーフアップに結われた薄紫の髪を揺らし、エルネの手をぎゅっと両手で握りしめる。



「船旅でお疲れではありませんか? 街に着いたら、まずは王宮の特製スイーツをご馳走しますわね! あと、これをエルネ様に差し上げたくて……!」




 ルチアが小さな小箱を取り出し、パカリと開けた。


 中に納められていたのは、虹色の光沢を放つ上質な真珠と、繊細な銀細工で模られた貝殻があしらわれた髪飾りであった。



「まあ……! なんて綺麗な髪飾り……っ」


「アトランティクスの港で一番の職人に作らせた、真珠の髪飾りですの! エルネ様の美しい藍色の髪に、絶対にお似合いになると思って! ささ、付けて差し上げますわ!」


 ルチアは大はしゃぎでエルネの髪に真珠の飾りを挿し込んだ。


 揺れる真珠が光を弾き、エルネの素朴で愛らしい雰囲気に、どこか洗練された華やかさを添える。


「まあ……セシリア、見てください! 貴女のお友達は本当に最高の天使ですわ! 髪飾りひとつでこんなに可憐になられるなんて!」



「当然ですわ、ルチア!」


 セシリアが扇子をバッと広げ、まるで自分の戦利品かのように自慢げに胸を張った。



「エルネはわたくしの大親友よ! 国の宝であり、わたくしたちの天使なのですから!」



「ちょっとセシリア、さっきから『わたくしの』って強調しすぎではありませんこと? エルネ様は私とも仲良くしてくださいますものね!?」



「まあ! ルチアたら、抜け駆けは許しませんわよ!」



 エルネを挟んで「どちらがより仲良しか」を競い始めるセシリアとルチア。


「あ、あの……二人とも落ち着いてください……!」


 二人の板挟みになっておろおろするエルネを見て、アルディスはわずかに眉をひそめてエルネの手を優しく引き寄せた。



「我が婚約者をあまり奪い合わないでいただきたいな。……エルネが困っている」



「む……アルディス様ったら、相変わらず過保護ですのね!」



 ルチアが頬を膨らませる中、船は大歓声に包まれたアトランティクスの第一港湾エリアへとゆっくりと接岸していった。


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