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わかると怖い異世界の話ーー異世界は計画的にーー(連載版)  作者: 一月三日 五郎


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8/9

仲間加入:欠損奴隷

 右腕を欠損した女奴隷を、男は驚くほど安い値段で買い取った。

 市場の誰もが見向きもしない“壊れた商品”。


 だが男にとっては、むしろ都合がよかった。


「大丈夫だ。俺には“上級回復魔法”がある。お前は今日から生まれ変わるんだ」


 自信満々に胸を張る男。

 彼は回復魔法しか使えず、一人ではダンジョンに潜ることすらできない。


 それでも、自分は“選ばれた存在”だと本気で信じていた。


 周囲の冒険者が鼻で笑うのも気にしない。

 むしろ、笑われるほど優越感が増す。


 “俺は理解されない天才だ”と都合よく解釈できるからだ。


 男が魔法を発動すると、光が女の身体を包み、

 失われていた右腕がゆっくりと形を取り戻していく。


 骨が伸び、筋が張り、皮膚が覆い、指が動く。


「……動く。私の手が……指が……」


 女は震える声でつぶやいた。

 右手の指を曲げたり伸ばしたりして感触を確かめていた。

 その表情を見て、男は満足げに頷く。


「そうだろう、そうだろう。感謝していいんだぞ。

 俺は特別なんだ。選ばれた回復術師なんだ」


 男は、女の沈黙すら“感謝のあまり言葉が出ないのだ”と解釈していた。

 自分の力に酔いしれ、女の人生を救った英雄のつもりでいる。


「ありがとうございます。

 一生ついていきます」


 女は深々と頭を下げた。

 その声音は静かで落ち着いていて、どこか温度が欠けていた。


 ――その言葉に、感謝は一欠片もない。

 あるのは、ただ“嫌悪と憎悪を押し殺した結果の合理”だけだった。


 だが男は気づかない。

 自分に向けられた言葉なら、何でも好意に変換する。


「ははは、そうかそうか。

 これからよろしくな。お前はもう俺の仲間だ。

 いや、俺の人生を支える大事な存在だ」


 男は満足げに笑い、

 自分の行いが“善意”と“愛情”に満ちていると本気で思っていた。


 女は静かに頷いた。

 その瞳の奥に宿る色を、男は見ようともしなかった。


---


 美しい女奴隷と“夢のようなひととき”を過ごした男は、

 幸福そのもののような寝息を立てていた。


 自分の善意と力に酔い、

 「救ってやった女が感謝している」という幻想に包まれながら。


 その隣で横たわっていた女奴隷が、静かに身を起こす。


 シーツで口元をぬぐう。


 寝台がわずかに軋むが、男は気づかない。

 彼の無防備さは、信頼ではなくただの油断だった。


 女は男の顔をしばらく見つめた。


 その顔には、わずかの情も見えなかった。


 女にとって、自分を傷つけた男も、

 自分を治したこの男も同じだった。


 自分を都合のいい道具としてしか見ていない。

 それを許す理由は、どこにもなかった。


 男が安値で買える奴隷を探していると、奴隷商に話していたのを聞いた時から――

 こうすると決めていた。


 売るやつも、買うやつも、許せなかった。


 大きく開いた男の口に、そっと手を添える。

 まるで子どもを寝かしつけるような、妙に優しい仕草だった。


 そして、声にならないほど小さく呪文を紡ぐ。


 最下級の風魔法。

 本来なら、人をよろめかせる程度の弱い魔法。


 だが、この距離と状況では、それで十分だった。


 密閉された口内で発生した風は逃げ場を失い、

 男の身体の内側で暴れた。


 男は突然の衝撃に目を見開く。

 しかし、何が起きたのか理解する暇はない。


 安全な宿。

 従順な女。

 救ったはずの存在。


 なぜ――


 その答えに辿り着く前に、意識は途切れた。


---


 翌朝。


 女奴隷は、いつも通りの顔で宿を出た。

 荷物を抱え、主人に言われた通り“朝市の買い出し”へ向かうのだという。


 つややかな髪と整った顔立ちに、宿屋の主人は軽口を叩いた。


「昨夜はお楽しみでしたね」


「いやだわ、恥ずかしい」


 女は顔を覆い、恥じらうように走り去った。


 その仕草はあまりに自然で、誰も疑わない。


 ただ――


 その指の隙間から覗く瞳の奥に浮かんでいた“暗い笑み”を、

 見た者は一人もいなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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