イベント:家探し
ある日、見知らぬ男が家にやってきた。
男は今に飾ってあった壺を割り、本棚を漁り、タンスをひっかきまわしていった。
まるでそうするのが当たり前といった顔で。
ひとしきり荒らした後、男が私の前に立ち視線を向けてきた。
「こんにちは、私に何かご用ですか?」
私の口からはそんな場違いなセリフが転がり出た。
とっさに口を押えたが、男は私の言葉に興味を失ったかのように出ていった。
気を取り直した私は文句を言いたかったが、声を出そうとした瞬間、言葉が消えた。
衛兵に訴えても仕方ないと言われた。
理不尽だと思ったが犬に嚙まれたと思ってあきらめた。
新しい壺を買った。
妻が花を飾ってくれた。
妻が水を変えたときに喜ぶ顔が見たいと思い、金貨を隠した。
また男がやってきた。
また壺を割られた。
男は壺から転がり出た金貨を拾うと、
しけてんな、とでも言いたげな目で懐に入れた。
殴りかかりたかったができなかった。
男は自分の何倍も強そうで、
ドラゴンでも倒せそうな立派な剣を担いでいた。
男が去った後、妻は悲しそうに破片を片付けていた。
私は身動き一つとれなかった自分が情けなかった。
妻の背にそっと手を置いた。
それからも男はたびたびやってきては家を荒らしていった。
まるでそれが誰かに決められたルーチンワークであるかのようだった。
とても生活に困っているとは思えない身なりなのに、
こんなことをする意味が分からなかった。
知り合いに聞いて分かったが、自分だけではなかった。
ほとんどすべての町人が被害にあっていた。
だが、皆口をそろえて仕方ないと言っていた。
はらわたが煮えくり返ってどうにかなりそうだった。
ある日、家に帰ると地下室の入り口で妻がへたり込んでいた。
声をかけても反応がなかった。
何が起きたのかは想像がついた。
地下に降りてみると、食料を貯蔵していた樽がすべて壊され、中身が散乱していた。
壊れた樽の破片とぐちゃぐちゃに踏みつけられた食料。
床を濡らすワインの匂いで頭がくらくらした。
妻が病んだ。
片づけても壊されるだけだといって片づけなくなった。
家の中は荒れ放題になった。
家がそんな状態になっても男はたまにやってきては物色していった。
私の中で何かが壊れていくのを感じた。
私は決意した。
あの邪知暴虐の輩を抹殺せねばならぬと。
なけなしの貯金をつぎ込み、小屋を買った。
町はずれにある、誰も立ち寄らない廃屋。
そこに爆裂岩をありったけ詰め込んだ樽を置いた。
少しの衝撃で爆発する物騒な道具だ。
あの男が樽を見かけたら間違いなく破壊する。
そうすれば――
それから、毎日、教会に通った。
あの男に天罰が下りますように、と祈りをささげた。
ある日、教会で祈っていると、遠くで何かが爆発する音が聞こえた。
私は祈りが届いたのだと歓喜した。
だが、次の瞬間、まばゆい光と共に人影が現れた。
そして当たり前のように神父が告げた一言は、私を地獄に叩き落した。
「おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない」
――ああ、そうか。
(あれが、“勇者”だったのか)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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