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わかると怖い異世界の話ーー異世界は計画的にーー(連載版)  作者: 一月三日 五郎


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アイテム:エリクサー

「おい荷物持ち、エリクサーを寄こせ。まだあったはずだ」


「待て、俺だ。腹に穴が開いてんだ。ほら見ろ、血が止まらねえ」


「ふざけるな、俺は右腕が凍り付いてんだぞ。早くしろ!」


 三人とも、自分の傷が世界で一番重いと信じて疑わなかった。

 痛みよりも、“自分だけ助かりたい”という焦りが勝っていた。


 パーティには回復魔法を使える者がいなかった。

 このダンジョンのモンスターは魔法効果が薄く、耐久に不安があるため物理職ばかりで固められた。

 回復はすべて荷物持ちのアイテム頼み。


 高価なエリクサーを大量に用意し挑んだダンジョン。

 なんとか半ばまでたどり着いたが、皆が満身創痍だった。


 山のような荷物を背負わされた奴隷は、三人の消耗具合を一瞥し――

 まるで他人事のように告げた。


「エリクサーは……あと一本だけです。分けて使われてはどうでしょう」


 三人の顔が同時に歪む。


「ふざけるな。効果が薄れたら無駄になるだろ」


「そうだ、俺に寄こせ」


「いや俺だ。俺が死んだらパーティが終わるだろ!」


 三人とも、自分が“主人公”だと本気で思っていた。


 口論はすぐに小競り合いへ、

 そして“自分以外が死ねばいい”という本音が露骨にぶつかり合い、殺し合いに発展した。


 最後に残ったのはリーダー格の男だった。

 満身創痍で、立っているのが奇跡のようだったが、彼の表情には奇妙な安堵があった。


 ――勝った。

 ――これで助かる。

 ――勝ち残った俺こそが勇者なんだ。


 そんな顔だった。


「おい、さっさとエリクサーを寄こせ。変なこと考えるなよ。奴隷紋を発動させるぞ」


 奴隷紋に縛られた奴隷は、主人に逆らうことも嘘をつくこともできない。

 だが、“言われていないこと”をどう扱うかは、奴隷の自由だった。


「わかりました。エリクサーです。どうぞ」


 奴隷は、血まみれの男の手にピカピカに光る容器を握らせた。

 男が開けようとした瞬間、エリクサーは手から滑り落ちる。


「なんだこれ……油まみれじゃねえか」


 奴隷はわずかに微笑んだ。


「ええ。しっかり磨いておきましたので」


 男の顔が怒りで真っ赤になる。


「ふざけんな!どうすんだこれ!てめえ、ぶっ殺すぞ!」


 奴隷は静かに首をかしげた。


「いいんですか?私を殺して。どうやって戻るんです?この最下層から」


 男の怒りは一瞬で恐怖に変わった。

 自分の命が奴隷の肩にかかっていることを、ようやく理解したのだ。


「……畜生。戻ったら絶対ぶっ殺す。肩を貸せ。地上に戻るぞ」


 男は地面に這いつくばり、零れた雫を指でこすり集めて傷に塗りつけた。

 その姿は、命よりプライドを先に捨てた者の典型だった。


 奴隷は微笑んだ。

 “戻ったら”という言葉の無意味さを、男だけが知らなかった。


 奴隷は淡々と前を歩き、男を地上へいざなう。


 狩り残した魔物を避けながら、ようやく地上へとたどり着いた。


「やった……脱出したぞ。ざまあみろ。ここまでくれば安心だ。街についたら楽しみにしてろよ」


「ええ。ここまでくれば、もう大丈夫ですね」


 ぱん、ぱん。


 奴隷が手を叩くと、みすぼらしい装備の男たちが木陰から現れ、リーダー格の男を囲んだ。


「てめえ……最初から仕組んでやがったな……。

 ……くそ、死んでたまるか!」


 男は必死に抵抗した。

 だが、その攻撃は弱々しく、まるで“死にたくない”という意思だけが空回りしているようだった。


 多勢に無勢。

 抵抗はすぐに終わった。


「荷物持ち……」


「なんでしょう?何か御用ですか?……死んだか」


 主人の死亡とともに、奴隷紋は解除される。


「ふう……やっと窮屈な奴隷から解放されましたね」


「お勤め、ご苦労様でした」


 みすぼらしい男たちは、元奴隷をねぎらった。


「おや、手傷を負ってしまいましたか」


「す、すみません、野郎、死にかけのくせに粘るもんで」


「構いません、これを使いなさい」


 元奴隷は荷物の中から薬草を取り出し、手下に渡した。


「ありがとうございます、かしら

 元奴隷は彼らの元締めだった。


「さて。自分たちの持ち物も把握していない、馬鹿な冒険者たちの財産も根こそぎいただけましたし……

 今夜は豪遊です。街についたら、存分に楽しみましょう」


 奴隷は――いや、盗賊ギルドの元締めは――ようやく本来の笑みを浮かべた。


「奴隷のふりは疲れますよ、まったく」


 元締めは首をこきこきと鳴らし、うそぶく。


「しかし、エリクサーを湯水のように使うだけあってなかなかの収穫でした。

 これだから勇者気取りの冒険者をハメるのはやめられない」


 金貨の詰まった袋をもてあそびながらつぶやく。


「……癖になりますね、これは」

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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