最弱モンスター:ゴブリン
二人の冒険者が酒場で飲んでいた。
能天気な冒険者が、神経質そうな冒険者に尋ねた。
「なあ、モンスターの中で一番強いのって何だと思う?」
「……そりゃあドラゴンだろう。見たことはないけど」
「つまんねえな、ドラゴンはなしだ。話が終わっちまう」
「……じゃあ、オーガとか?前に上級冒険者が戦ってるのを見たが、あれはやばそうだった。でかいし、はやいし、何より圧がすごい」
「オーガか。まあ、そうだな。俺はリザードマンもいい勝負すると思うんだ。あいつらは皮膚が固いし、なにより尻尾の一撃が強い」
――しばしの沈黙。
「……じゃあ、逆に弱いのは?」
「そりゃあ、ゴブリンだろ。誰だって知ってる。最弱のモンスターだ」
「そうかな?俺はそうは思わないね」
「なんだ、お前ゴブリン程度が怖いのか」
「ああ、怖いね。怖いさ」
男は、ゆっくりと杯を傾けた。
「あいつらときたらどこにでもいる。
考えてもみろよ。あいつらは弱い。ずっと、そういわれてるのに――絶滅せずに、今でもうじゃうじゃいるんだぞ」
「ただ繁殖力が強いってだけだろ。
それを言うなら俺たち人間だってずっと生き残ってる」
「そこだよ。おかしいと思わないか?」
声が少しだけ低くなる。
「俺たちの方が強くて、あいつらより多いなら――なんで駆逐できないんだ?
それは、俺たちがあいつらを駆逐するより、あいつらが増える方が早いってことだ」
「でも、俺らは今日だって何匹も殺したぞ。
俺ら以外にも冒険者はたくさんいる。
そいつらがみんな何匹、何十匹も狩ってるんだ。
ゴブリン狙いで稼いでる奴だっているんだぞ。大丈夫だろ」
「ああ、確かに今はそう見えるな」
男は頷いた。
「だが、俺の言ったことを思い出してみろ。
お前が言うように、俺たち冒険者は毎日何十、何百というゴブリンを狩ってる。
それでも――あいつらは、絶滅していない」
酒場のざわめきが、やけに遠く聞こえた。
「もし、誰かが少し休むかと休暇を取ったらどうなる?
俺も休むかと、また一人、また一人と休暇を取ったら?」
「……おい」
「その間にもゴブリンは増える。
ほんの少しの緩みで――取り返しのつかないことになるんじゃないか?」
能天気な男は、わずかに肩をすくめた。
「……不吉なこと言うなよ。縁起でもない」
「……そうだな」
神経質な男は苦笑した。
「なんか考えてたら、マジで怖くなってきたわ。もうやめよう」
「そうだそうだ。飲んで忘れちまおう」
「おう!今日はパーっと飲んで忘れちまおう」
杯がぶつかる音が、やけに大きく響いた。
その夜、遠くで何かが崩れるような音がした気がしたが――
誰も気に留めなかった。
翌日、二人は二日酔いで宿屋から出られなかった。
窓の外は、妙に静かだった。
そして、その翌日。
町は壊滅した。
ご一読いただきありがとうございました。
もし「面白い」「ゾッとした」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると励みになります。
このような「異世界転生やゲーム設定の裏に潜む理屈の地獄」をテーマにしたお話を考えています。
反響を参考にしつつ、連載版として公開していければと考えております。
次回は「なぜ最弱のゴブリンは絶滅しないのか?」という生態の謎に迫るお話の予定です。




