表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わかると怖い異世界の話ーー異世界は計画的にーー(連載版)  作者: 一月三日 五郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

チートスキル:経験値1万倍

とある酒場にて。


 若い冒険者が隣に座った壮年の冒険者に話しかけた。


「なあ、あんたのレベルはいくつなんだ?」


「100だ。」


「すげえな、おっさん。

 歴代最高レベルじゃねえか。」


「……まあな。」


 不愛想な男は酒を一息に飲み干した。

 店で一番強い酒のはずだが、微塵も酔う気配がない。


 ――強い、というより。


 どこか、壊れているようにも見えた。


「さすが歴戦の戦士は酒も強いね。

 一杯おごるから、話を聞かせてくれよ。

 あんたの武勇伝をよ。」


「……武勇伝なんてないさ。ただ、雑魚モンスターを狩ってただけだ。」


「またまた、謙遜しちゃって。

 効率よく経験値を稼げる穴場とか知ってるんだろ?


 教えてくれよ。

 礼はするぜ。」


 男は表情を変えずに言った。


「本当に特別なことは何もない。

 その辺の雑魚モンスターを適当に狩ってただけだ。」


「……なるほど、商売敵には教えられねえってことか。

 悪かったな。

 しつこくして。」


 若者が席を立つ。


 その背中を見送ってから、酒場の主人が静かに口を開いた。


「あしらい方が慣れてますね。

 ああいう手合いは、まともに相手をしないのが正解です。」


「別にあしらったわけじゃない。

 本当のことを言っただけだ。」


「レベル100なんて、すごいじゃないですか。」


「たいしたことないさ、三日だ。」


「……はあ?」


 思わず聞き返す。


「最近、経験値一万倍というチートスキルを手に入れたんだ。

 それから、その辺のモンスターを適当に三日も狩ってたらカンストした。」


「……それは、確かにすごいですね。」


 主人は相槌を打ちながらも、わずかに眉をひそめた。


 何かが――おかしい。


「すごくなんてない。

 最悪だよ。

 ありとあらゆる経験が一万倍になるんだ。」


 男の声は淡々としている。

 だがその奥に、重く濁ったものが沈んでいるのがわかった。


「つまり一度の経験が一万回経験したのと同じになる。

 この店に来るのは二回目だが、俺はもう何十年もこの店に通っている気分なんだ。」


「……何十年、ですか」


 背筋に、うすら寒いものが走る。


「うんざりだよ。」


 短い言葉だった。

 だがその一言に、説明しきれない重さがあった。


「ほんと死にたくなる。

 そしてそんな気持ちを抱くと、その経験も一万倍になる。

 わかるか?地獄だよ。」


 主人は、何も言えなかった。


「でも、俺は死ねないんだ。

 死のうとすると、やっぱり死にたくないって気持ちも出てきて、思いとどまる。

 それも一万倍だ。

 その繰り返しだよ。」


 男は笑っていなかった。

 かといって泣いているわけでもない。


 ただ、すり減っていた。


「もう、心がぐちゃぐちゃなんだ。

 なあ、何か気の利いたことを言ってくれよ。」


 その言葉は、懇願だった。


「一瞬でいいから、俺を救われた気にさせてくれ。

 そしたら、それも一万倍になるからさ。」


 ――軽い冗談のように言ったが。


 冗談では済まない重さがあった。


 ……ふう。


 主人は少し考えた。


 何か、何か言わなければならない。


 だが、どんな言葉をかけても――


 それが一万倍になるのなら。


 下手なことは、言えない。


 結局、口から出たのは。


 ひどく現実的で、どうしようもない言葉だった。


「……すみません、お客さんが来るの、これで三回目ですし。

 その話も、三回目です。」


 男の顔は、瞬時に赤く染まり――


 次の瞬間、青ざめた。


 そして。


 ――今回も、発狂した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


もし「面白い」「ゾッとした」と思っていただけましたら、

下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは! 読ませていただきました! 経験値1万倍ってこんなにキツかったんだ……。 こう言うホラー系大好きなんで、これからも読みます! もしよろしければ僕の作品も覗いてみてください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ