表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
79/85

第五章:泥濘の祈祷 [第五十六話]見えない足音

(視点:新井 恭二)


「ふざけるなッ!!!」


俺の怒声と共に、

亀裂骨折した右拳が竹本の顔面を捉えた。


ゴルッ、と骨の潰れる嫌な感触。


「……っあ、ぐえっ!?」


竹本は無様な悲鳴を上げて派手に吹っ飛び、

アスファルトの上を転げ回った。


「い、痛え……! 殴りやがったな……!」


竹本は鼻から盛大に血を吹き出していたが、

ふらつきながらも立ち上がると、

その血まみれの顔をあえて拭おうともせず、

大袈裟に両手を広げてみせた。


「皆さん、見ましたかァッ!!」


ロビーに響き渡る、けたたましい絶叫。

竹本は俺を指差し、芝居がかった身振りで演説を打ち始めた。


「これが奴らの本性だ!

少しばかり外の化け物と戦えるからといって、自分たちを特別な特権階級だと勘違いしている!

挙句の果てには、こうして善良な市民に暴力を振るい、力で俺たちを支配しようとしているんだ!」


「……っ、てめぇ……!」


俺が再び踏み出そうとするが、

竹本の言葉に呼応するように、避難民たちの目が明確な敵意を帯び始めた。


「俺たちは真面目に税金を払ってきた一般市民だ!

この非常事態において、あの二十五トンの食糧は、この避難所にいる全員の共有財産だろうが!

それを独占する権利なんて誰にもない! 民主主義の基本、多数決で平等に配分されるべきなんだ!!」


竹本の声に熱がこもる。

飢えとストレスで限界を迎えていた大人たちが、

その都合の良い「正義の言葉」に次々と酔いしれていく。


「そうだ! あの食い物はみんなのものだ!」

「野蛮なガキどもに独占させるな!」

「俺たちの権利を取り戻せェッ!!」


「そうだァ! 立ち上がれ皆の衆!」


竹本が鼻血を撒き散らしながら拳を突き上げる。

俺の怒りの一撃が、最悪の形で連中を「正義の暴徒」として団結させてしまった。


一触即発。

興奮した群衆が、暴力で俺たちを排除しようと押し寄せてくる。


「……触るな」


地を這うような低い声と共に、

正人が俺の隣に歩み出た。


ズリ、ズリ……と。


アスファルトに鉄パイプを擦りつけながら、

正人は一切の感情を消した目で、狂騒する群衆を睨みつけた。


「沙耶の血で贖った糧を……お前らの薄汚いエゴで汚させるか」


正人がゆっくりと鉄パイプを構える。


「食糧に触る奴は、殺す」


純度百パーセントの殺気に、

暴徒化しかけていた大人たちが悲鳴を上げて後ずさりした。


「……そこまでだ」


チャキッ。

冷たい金属音が、静寂を引き裂いた。


「民間人同士の殺し合いなど、見過ごすわけにはいかない」


群衆を割って現れたのは、

アサルトライフルを構えた黒田一尉とSDFの部隊だった。


「く、黒田一尉! 助けてくれ!」

「暴動を確認した。現在、藤沢市は非常事態宣言下にある」


すがりつく竹本を冷酷に見下ろし、

黒田一尉がロビー全体に響く声で言い放つ。


「よって我々SDFが、

この二十五トンの物資を全て接収し、厳重に管理する」


「……なんだと!?」


竹本の顔から血の気が引いた。


「ふざけるな! 俺たち市民の多数決で配るのが当然だろ!」

「我々は軍だ。民間人の多数決など知らん」


避難民の都合の良いエゴ。

SDFの絶対のルール。

そして、俺と正人の譲れない怒り。


血まみれの沙耶が奥で生死を彷徨っているというのに、

大人たちはここで、醜い所有権争いを始めている。


「みんな! 外の争いどころじゃない……!!」


そこへ、

息を切らした康二が飛び込んできた。


顔は異常なほど蒼白で、靴も半分しか履いていない。


「お願い、聞いて!

すぐそこまで、とんでもない奴らが……!」


康二が必死に叫ぶ。

だが。


「軍の独裁反対!」「銃を下ろせ!」「権利の侵害だ!」


竹本に扇動された暴徒たちの怒号が、

康二の悲痛な声をいとも簡単にかき消してしまった。


外からは未知の精鋭部隊が迫り、

内側では人間同士が銃を向け合う。


ここは、正真正銘の地獄だ。


「……全員、その減らず口を閉じろ」


爆発寸前の喧騒の中。

低く鋭い声が、全員の心臓を鷲掴みにした。


振り返ると、

エントランスの入り口に、小林先生が立っていた。


元・特殊作戦群の男から放たれる、

圧倒的なまでの武力と威圧感。

そのプレッシャーが、暴走する場を強制的に凍りつかせる。


「俺が、ルールを決める」


小林先生のその一言が、

屍の上の狂宴に、絶対的な冷や水を浴びせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ