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REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
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第四章:硝煙の糧 [第四十四話] 闇への招待状


 重い鉄扉が閉まり。

 背後で外界の光が完全に遮断された。

 搬入口の空気は、数ヶ月間も澱んでいた湿気と、腐敗した生ゴミのような悪臭が混ざり合っている。

 康二が持つタクティカルライトの光だけが、埃の舞う暗闇を鋭く切り裂いていた。


「……静かすぎるな」


 正人が盾のグリップを強く握り締め、囁くように言った。

 彼の声は、コンクリートの壁に反響して不気味に消えていく。

 かつては数千台のトラックが行き交ったであろうこの広大な地下空間は。

 今や、音を立てることを禁じられた墓所のようだった。


「……カチ、カチカチ」


 不意に、暗闇の奥から乾燥した硬い音が響いた。

 それは、硬質化したレヴァナントの爪が、タイルの床を叩く音だ。

 光の届かない「棚」の影から、うっすらと複数の人影が這い出してきた。


「来るぞ。……稲美さんは康二のガードを。……正人、前へ!」


 恭二の号令と同時に。

 三体のレヴァナントが、獣のような瞬発力で闇を蹴った。

 かつてなら、恭二たちはこのスピードに絶望していただろう。

 だが、今の彼らの目は、その動きを冷静に捉えていた。


「させるかよッ!」


 正人が一歩踏み出し、重厚なシールドを正面に構える。

 激突。

 レヴァナントの体躯が盾にぶつかり、鈍い音が響く。

 正人はたじろぐことなく、盾の縁で相手の顎をカチ上げた。


「恭二、今だ!」


「ああ!」


 恭二が八九式小銃を構え、正確に指を動かす。

 単発セミオートでの二連射。

 一発目は胸に。

 二発目は、反動を利用して跳ね上がった銃口で頭部を貫いた。

 ドサリ、と肉の塊が床に落ちる。


「……いい動きだ」


 背後で見ていた稲美が、驚きを含んだ声を漏らした。

 民間人の子供だと思っていた彼らが。

 プロの軍人にも引けを取らない連携を見せている。


 だが、その称賛が終わるよりも早く。

 恭二のすぐ真横、積み上げられた段ボールの山から、四体目の個体が音もなく飛びかかってきた。

 恭二が銃口を向けるには、あまりに近すぎる。


 ――シュッ。


 風を裂く音が響いた。

 恭二が視線を向けるより先に。

 宙に舞ったレヴァナントの首筋に、銀色の閃光が吸い込まれていた。

 沙耶だ。

 彼女はいつの間にか恭二の影に潜り込み、超高速の抜刀で獲物を仕留めていた。


「……恭二。……右足の踏み込みが、コンマ二秒遅い。……死ぬぞ」


 沙耶は血を払う仕草も見せず、冷淡な口調で告げた。

 恭二は息を整えながら、彼女の背中を見つめる。

 彼女は「自分で処理できる」と分かっているはずの場面でも。

 少しでもリスクがあれば、即座に介入してくる。

 その姿は、冷徹な戦士というより。

 過保護なまでに仲間を慈しむ、守護者のようにも見えた。


「……悪い。助かったよ、沙耶」


「……感謝は不要だ。……効率を優先しただけだ」


 沙耶はそう言い捨てると、再び闇の先へと視線を戻した。

 その手には、既に次の獲物を求めるナイフが握られている。


「……中央管理室まで、あと百メートル。

 ……ただし、この先はシャッターが下りています。

 ……僕が中から配線をいじって、物理的にこじ開ける必要があります」


 康二が図面を指差しながら、震える声を絞り出した。

 ライトの先には。

 巨大な鉄の壁――管理室へと続く重い防火シャッターが、

 彼らの行く手を拒むように立ちはだかっていた。


 硝煙の匂いが、わずかに鼻をつく。

 彼らはまだ、地獄の入り口に立ったばかりだった。

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