第四章:硝煙の糧 [第四十三話]鋼鉄の進軍
午前五時。
アイドリングの咆哮が地下駐車場に響き渡る。
十人の影を乗せた鉄の獣が、夜明け前の藤沢へと滑り出した。
高機動車の荷台が、激しい振動と共に大きく跳ねた。
視界の先には、かつて太陽を反射して輝いていたガラスの城「湘南グランド・アーク」が、
今は墓標のように冷たく沈黙して立っている。
「陽動開始まで、あと三十秒!」
山口一曹の声が、無線機を通じて怒鳴り込んできた。
「一号車、二号車、正面広場へ突入! 威嚇射撃と発炎筒で奴らを引きずり出せ!
突入班は……死ぬ気で地下へ潜れよ!」
ドォォォォォン! と、広場で激しい爆発音が響いた。
武田の操る機関銃が、廃墟の静寂を切り裂いて火を吹く。
モールの吹き抜けから、飢えた咆哮を上げながら無数の
レヴァナントが雪崩のように地上階へと降りていくのが見えた。
「今だ! 降りろ!」
恭二の号令で、四人と稲美は走行する車両から次々と飛び降りた。
搬入口の重い鉄扉は、康二が事前に用意したバールで無理やり抉じ開けられている。
一歩、足を踏み入れた。
そこは、外部の光を一切遮断した、腐敗と冷気と静寂の檻。
「……康二、ライト」
「……はい」
康二がヘルメットに取り付けたタクティカルライトを点灯させる。
白い光の筋が、暗闇の中に「迷宮」を浮かび上がらせた。
倒れたショッピングカート、血に染まった床、そして――。
「……恭二。……来る」
沙耶がナイフを逆手に構えた。
暗闇の奥、ライトの光が届かない場所から、
複数の「カチカチ」という爪が床を叩く音が、波のように押し寄せてきた。
「……よし。食料を、奪いにいくぞ」
恭二が小銃のセレクターを解除した。
硝煙と、カビと、そして「明日」への飢えが混ざり合う、長い一日が始まった。




