表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
44/69

第三章:要塞の揺りかご [第三十六話] 偽りの残像


「……暦さん、手を止めて聞いてください」


康二の掠れた声に、暦は眼鏡の奥の瞳を鋭くさせました。

 彼女は康二がただならぬ緊張感の中にいることを察し、持っていたペンを静かに置く。


「どうしたの、康二くん。そんなに青い顔をして」


「……『蜘蛛』がいます。最上階の黒田一尉です。

 彼はこの拠点のカメラをジャックして、村田さんの……沙耶さんの動きを秒単位で記録している。

 それだけじゃない。僕たちが持っている資料の内容も、遠隔で見ようとしている形跡がある」


 康二が震える指で示した画面には、無数の通信ログが滝のように流れていた。

 暦は資料を抱え直し、周囲の寝静まった避難民たちに視線を走らせる。

 彼女の強みは、デジタルな知識ではなく、記録の裏にある「人間の意図」を読み解く洞察力にあった。


「……なるほどね。あの黒田という男、私たちのことを救うべき市民ではなく、

 観察すべき標本サンプルとして見ているわけね」


暦は低く呟くと、康二のデバイスを覗き込みた。


「康二くん、デジタルで勝てないなら、アナログで誤魔化しましょう。

 彼はカメラの向こう側にいる。なら、彼が見ている『現実』を

 私たちが書き換えてあげればいいのよ」


二人の密かな作戦が始まった。

 康二は黒田の監視網を逆手に取り、極めて巧妙な「偽のループ映像」をネットワークに流し込む。

康二の役割は黒田の監視システムに、数分前の「何も起きていない拠点」の映像を断続的に上書きし、

監視者の目を欺く。

暦の役割は資料の原本を、市役所の図書コーナーから持ち出した無関係な古い行政資料の

束の中に紛れ込ませる。

 さらに、沙耶が寝ている姿勢を毛布と荷物で擬態させ、カメラからは「常にそこで眠っている」ように見せかける「デコイ」を作成。


「康二くん、このパケットの隙間に、私の作った『偽の解析ログ』を流せる?」

暦が差し出したのは、それらしく書き換えられた、A.L.とは無関係な遺伝学の基礎データだった。


「……できます。これなら黒田も、僕たちがまだ核心に辿り着いていないと思い込むはずだ」


守るための嘘

作業の最中、沙耶が音もなく二人の背後に立ちました。

彼女は言葉にはしませんでしたが、二人が自分を「隠そう」としている意図を肌で感じ取っていた。

「……康二。何を、している」

康二は一瞬肩を震わせましたが、今度は逃げずに沙耶を見つめ返した。

「……村田さん。いや、沙耶さん。……君は、二階より上では決して全力を見せないでほしい。

できれば、少し足を引きずるくらいの演技をしてほしいんだ」

「なぜだ」

「……君を『化け物』だと思いたがっている人間が、上にいる。

 僕と暦さんで、その視線を遮る壁を作る。

 だから……君は、ただの『少し運が良かった女の子』でいてくれ。……僕たちが、君を護るから」

 康二の言葉は、以前のような弱々しさはなく、仲間を守るという明確な意志が宿っていた。

 沙耶は無言で康二と暦を見比べ、やがて小さく頷いた。


「……分かった。……任せる」

闇に潜む「眼」への反撃

最上階のモニター室。黒田一尉は、画面の中で静かに眠り続ける沙耶の映像を見つめていた。

「……ふん。停滞しているな。所詮は中学生の集団か」

黒田の瞳には、康二たちが仕掛けた「残像」が映し出され、その裏で進む真実の解読作業には、

まだ気づいていない。

康二はデバイスの電源を落とし、暗闇の中で深く息を吐いた。

隣で暦が、彼の肩を優しく叩いた。

「……よくやったわね、康二くん。あんな嘘をつくなんて、あなたも随分『悪い大人』に近づいたわよ」

「……暦さん、それは褒め言葉として受け取っておきます」

かつて他者との関わりを拒んでいた少年は、

今、最も孤独で過酷な「情報の戦場」で、誰よりも頼もしい盾となっていた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ