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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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75話 勇者の防具と次の目的地

だだっ広い荒野で仰向けに倒れている。

見上げる空は黒く淀み、辺りは薄暗い。

何かが体内に入り込むような感覚が気色悪い。おそらく、瘴気に侵されている感覚だろう。

それよりもさらに気持ち悪いのは、その感覚と、寒さ以外の感覚がほとんど体に残っていないことだ。


どうやら、勇者は死にかけているらしい。


『…………リオラ、居るのか?』

『いるよ。ここにいる』


他に音のない空間で、その声だけははっきりと聞こえる。

目は、開けられない。


『ありがとう。本当に。全部君のおかげだよ』

『勝てたのは、お前のおかげだ』


勇者の声がかすれている。



『どうかな。こんなに傷だらけになってさ。普通、恨み言の一つでも言いたくならない?』


リオラが、勇者の身に着けた防具についた大きな傷を撫でる。

防具越しのその感覚に、少し安心する。


『何も恨んでなんかいない』

『本当に?』

『ああ、本当だ』


リオラの声は震えている。



『最後に、頼みがある』

『頼み?』

『殺してくれ。幽鬼になるのはごめんだ』

『…………っ!…………………………わかった』


リオラはふらつきながら立ち上がると、勇者の剣を取る。

勇者の左胸に、その切っ先が添えられた。




『変なことを聞いてもいい?』

『なんだ?』

『生まれ変われるなら、何がしたい?』

『……それは……』


とある、孤独な青年がいた。

彼が自分の使命を理解してからは、彼は『勇者』でしかなかった。

生まれ変われるなら何がしたいか。その希望は、彼に与えられた最後の自由だった。


かすかに目を開け、彼は答える。


『生まれ……変われる……なら。人との、絆を築きたいな』

『それが、君の希望…………』


女神の瞳から涙がこぼれる。


『約束するよ。君の希望を、僕がかなえてみせるから』

『そうか。それは、楽しみだ』

『うん。……またね』


落日の日。勇者は命を落とした。







「ショウさん、ショウさん!!しっかりしてください!!」

「ギン!医者の手配をしろ!」

「はっ!ただちに!」


意識がはっきりしてくる。

皆が慌てているが、声は出せそうだ。


「大丈夫だ。いたた……」

「お、おお!戻ったか!」

「びっくりしたわよ、急に頭抱えて苦しみ出すんだもの」


死ぬ瞬間の記憶。

あまりにリアルに思い出された記憶のせいで、若干気持ちが悪いし頭も痛い。とはいえ、これ以上心配させるわけにもいかない。


「ショウさん、今のはそういうことですか?」

「ああ。また少し思い出した」

「思い出したってことは、この防具はもしかして……」


ハルカもマリアも、俺の様子に事態を察したらしい。

やはりこの呪われた防具というのが、勇者の身に着けていた防具のようだ。

傷ついたその防具は、瘴気の汚染が染み込み真っ黒に染まっている。


「ハクさん、この防具はどうやって手に入れたんだ?」

「これか。これはいわくつきの品でな。狂信者ラミによってもたらされたのだ。奴がこの国で討ち滅ぼされた時に身に着けていたらしい」

「狂信者ラミ、ってあのラミですか!呪われてるわけですね!」


何やら知らない名前が出てきた。


「狂信者ラミってなんだ?」

「む、知らないのか?勇者の熱烈な信奉者だ。死の大陸にて命を落とした勇者の死骸を漁り、その過程で幽鬼となったと言われている」

「怖いな!そっと死なせてやれよ!」


思った以上に気味の悪い話が出てきた。

あの後漁られたのか?考えたくない。


「まあ実際の起源は推測でしか語られていないが、存在は確かだ。死の大陸から海を渡ってこの国に現れ、殺戮を行った。その際に身に着けていたのがこの防具だそうだ。見ての通り呪われているから防具としては使えないだろうが、好事家には一定の需要があるはずだから、金にはなるはずだぞ」

「なるほどな。ちなみにどうしてラミは勇者の信奉者だって言われてるんだ?今のところ死の大陸から渡ってきたってこと以外に勇者とラミを結びつける要素がないよな?」

「これは当時の文献からしか確認できないが、幽鬼として現れたあとも、しきりに勇者の名前を口にしていたそうだ。そればかりをつぶやきながら複数の都市を滅ぼしたというのだからそう言われるのも当然だろう。この防具も、一説では勇者の身に着けていたものとされている」




なんとなく気になって聞いた防具の由来が、思いのほか怖い話になってしまった。

これ以上深堀りするのはよそう。それよりも。


「なあ二人とも。この防具……」

「いいですよ。私は構いません。そもそもこの贈呈だって、ほとんどショウさんの活躍で貰えてるわけですし」

「あたしはシスのこともあるから、何も。感謝はあっても、これ以上の欲なんてないわ」


俺の考えを理解した二人が、先んじて答えをくれる。

なら、迷う必要はないな。


「ハクさん、これを貰う」

「これを?そうか。だがいいのか?こういうのもなんだが、他にいい品があるように思えるが」

「いや、いいんだ。これが欲しい」

「うむ。ならば何も言うまい。そうだ、こういった物品を扱う商人に心当たりがある。よければ紹介するぞ。品が品だけに、売りさばくのも苦労するだろうからな」


ハクさんが気を聞かせてくれる。

……この人になら、話しても大丈夫か。


「ありがとう。でも大丈夫だ。自分で使うから」

「む。……む!?」

「俺、魔物なんだ。人型の。だから着ても問題ない」

「!?!?」


ハクさんが見たことない顔をして驚いている。


「それは、さすがに驚いたな。そうか。ヴォイドだけではないと思っていはいたが、こんなに身近にいたとはな。……だがよかったのか?そんなことを我に話して」

「何言ってる。俺とハクさんの仲だろ?」

「!!おお!!そうだな!!その通りだ!おいギン、わかっているな!」

「はい。命に代えても他言いたしません」


ハクさんが随分喜んでいる。

元から疑ってないが、誰かに言うことはないだろう。


「一応言うと、この防具から出る瘴気は魔物である俺に勝手に吸収されて、周りへの影響はないから安心してくれ」

「そうか!なら何も心配はないな!好きにしてくれていいぞ!」




ハクさんの言葉に促され、今身に着けている防具を脱ぎ、ガラスのケースを外す。

そして勇者の防具を身に着けると、不思議なほどぴったりと、しっくりと体におさまった。


「うむ!似合っているではないか!剣と合わせて、全身真っ黒だな!」

「……ていうか、ボロボロな防具を外してボロボロな防具を新たに身に着けるの、なんか変ね」


気が付けば、さっきまでの気持ち悪さは治まっていた。

こうして、獣人の国セツナを襲った一件は、ひとまずの終わりを迎えたのだった。









「うー、さむ!早く部屋であったまりましょ!」

「私はこのくらい涼しくても大丈夫です!獣人だからですかね?」


すっかり暗くなった空。

砂漠の国の夜は冷える。俺たちは宿に帰ってきていた。


「ショウさん、あなたに手紙だぞ」


宿の主である親父さんに手紙を渡される。

手紙には短い文章が書かれていた。


『ショウ。お前と話す余裕がなくなった。死の大陸の最南端、神の御座で待つ。お前が望むなら、そこで全てに決着を付けられる。世界に嫌気が刺したら来るといい』


神の御座……?

またしても知らない名称が出てきたが、差出人はヴォイドでほぼ間違いないだろう。

意味深かつ不穏な内容も含まれているが、あまり意味はわからない。


「神の御座、か。マリア、何か知らないか?」

「悪いけど、わからないわ。自分で言うのもなんだけど、あたしで知らないなら浄化院関係者でも知ってる可能性のある人間はかなり限られると思う」

「オーフェンさんたちなら何か知ってそうじゃないですか?神様に作られた存在なわけですし」


一理あるな。やっぱり次の目的地は始まりの国か?




「手紙の配達でーす!ショウさんとハルカさん宛てでーす!」


配達人ギルドの人間が高めのテンションで宿に入ってくる。

また手紙か。それも今度はハルカ宛てでもあるらしい。


「二人宛てに届くなんて珍しくないですか?誰からでしょう?」

「読んでみればわかるわよ。どう?」

「……冒険者ギルド本部からだ」


『ショウ殿。ハルカ殿。貴公らは銀級冒険者に推薦された。ついては、冒険者ギルド本部へ出頭されたし。また、二人に指名依頼を出す予定もあるため、可能な限り早急な到着を期待する。ギルド副本部長ドドム』


用件がシンプルなだけに、簡単な案内だな。

ギルド本部は始まりの国にある。偶然だろうが、好都合だ。


「ショウさん、行きますよね?」

「もちろんだ。マリアには元来た道を戻るようで申し訳ないが」

「全然!冒険者ギルドの本部なんて、これを逃したら一生行けないわ!」


二人も乗り気だ。

次の目的地は決まった。始まりの国ファリス。冒険者ギルド本部と、オーフェンさんたちがいるという白雪山脈。この二つが目的地となる。

獣人の国との別れが近づいていた。


ユニークアクセス数が1000を超えていました。

これからもコツコツやっていく予定なので、よければお付き合いください。

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