74話 報酬贈呈
「お、マリアが来たぞ」
「ええ来たわ。大事な話って何よ、ハルカ?」
事件の翌日。俺とマリアは、ハルカに呼ばれて宿の一部屋に集合していた。
なんでも、大事な話をしたいそうだ。
「じゃあ、早速話に入りましょう。ただその前に一つ確認なんですけど、マリアさんってショウさんについてどこまで知ってるんでしたっけ?」
「ショウについて?魔物ってことと、勇者の記憶を見て、自分の正体を知るために旅に出たってことは知ってるわ」
「あ、そこまで知ってたんですね。なら話しちゃっても大丈夫そうですね」
マリアに確認したのは、俺の正体についてどこまで知っているか。
であれば、これから始まる大事な話とやらもそれに関することなのだろう。
「もう俺の正体について、二人に隠し事をする気はないぞ。……そういえば、二人に話してないことがまだあったな」
「え、そうなんですか?じゃあ今それも聞いちゃったほうがいいですか?」
「そうだな。話しておこう。実はな、俺は別の世界で20年くらい生きた記憶も持ってるんだ。その時の名前がショウだったから、今でもそう名乗ってる」
「へ……?別の世界?それはまた……」
「あんた、次から次にいろんな事情が出てくるわよね。別にいいんだけど。詳しく聞かせてくれる?」
「もちろん。いい機会だから、俺について一から説明させてくれ」
俺は自分が神田翔として20年別の世界で生き、謎の病で死んだこと、気づいたらシュミリオの店にいたこと。旅に出るまで、出てからの経緯、これまでに見た勇者の記憶などについて、全てを話した。
「改めて聞くと壮絶な人生ね……」
「自分で話しててもそう思った。それでハルカ、今回の話っていうのは?」
「はい。実は……」
そして俺たちは、事件の最中ハルカの前に女神リオラを名乗る少女が現れたこと、いくつかの情報と『お守り』と称したペンダントを残していったことを聞いた。
「リオラ……そんなことが……」
「女神に直接会ったなんて、間違っても浄化院の関係者には言えないわね。本当か嘘かなんて関係なく大きな揉め事になるわ」
「……いや待て、おかしいぞ。ヴォイドは女神リオラを殺したと言っていた。会えるはずがない」
「じゃあ偽物だったってこと?」
「それは無いと思います。雰囲気とか魔術とかもそうですけど、私にだけ狙いを絞って会いに来てましたし、ショウさんの……関係者だから会いにきた感じでしたよ」
ショウさんの、の後でなぜか照れるハルカ。
奥さんだから、とか言おうとしたんだろうか。
「今のところ手がかりはそのペンダントだけね。どこかで専門家に調べてもらってもいいかも」
「それよりも、オーフェンさんたちの無事が分かったなら会いに行きたいところだな。始まりの国を次の目的地にしてもいいかもな」
「ですね。女神リオラについても何かわかるかもしれませんし」
新たな謎が増え、行動の指針が見えてきた。
その日はそれ以上のことはなく、ひとまずそれぞれの情報については保留することとなった。
◇
「どうも。ハクさんに呼ばれてきた」
「お待ちしていました、お三方。こちらへ」
警備の人間に案内され、議事堂へ入る。
事件から数日。議事堂の汚染が済んだため、事件解決に協力した大会参加者には順番に報酬の贈呈が行われていた。
俺たちが指定された時刻は午後四時。なんでも、参加者の中で最も遅いらしい。
ハルカとマリアも一緒にとのことなので、いつもの三人所帯だ。
「やっぱりちょっと緊張します……」
「あっちから呼ばれて来てるんだから大丈夫。それに、あんたもしっかり活躍したんだから胸張ってればいいのよ」
ハルカは相変わらず政治に関連する場所が苦手らしい。
マリアがけろっとしているのもいつも通りだ。
案内に従って通されたのは、どこか見覚えのある部屋だった。
その部屋の床にある地下への階段を見て思い出す。荒れ果てていたあの時とは随分印象が違うが、ここは俺が議事堂の奪還のために入った、宝物庫への入り口のあった部屋だ。
そしてその部屋には、ハクさんの補佐……機械帝国をこの国に呼び込んだ張本人であるギンが待っていた。
「ギンさん、どうも」
「ショウ殿、よく来てくれた。ハク様がお待ちだ。こっちだ」
「ちょ、ちょっと待って。あんた、なんで普通に仕事してるの?故意じゃなかったとはいえ、あんた今回の一件の原因作ったのよね?」
マリアが焦ったように言う。
百年祭の不正やこの間の襲撃、今回の不死薬事件については俺の知っているすべてを二人に共有してある。二人も実際に被害にあっているからな。
ギンはベリルに百年祭で勝ち抜き、ハクさんにわざと負けるように依頼をした。
ハクさんを優勝させるためのその行為は帝国に国に侵入する隙を与え、不死薬事件を引き起こした。もちろん本人にそんなつもりはなかったのだろうが、結果論とはいえ国を危機に追い込むきっかけを作ったわけで、檻に入れられてもおかしくないレベルだろう。
マリアの言葉を聞いたギンは立ち止まり、目を伏せる。
「……その通りだ。俺はハク様を、この国を危機に晒した。本来なら牢か、墓穴にでも収められるべき人間だろう」
少しの間の後、言葉を続ける。
「しかしハク様は、黙って俺に次の指示をお出しになった。それが全てだ。どんな命令にも、命を懸けて応えてみせる」
そう言うと、ギンはこちらを振り返り、深く頭を下げた。
「本当に、すまなかった。そしてこの国と、あの方を救ってくれたこと、感謝する」
俺たちは顔を見合わせ、少し笑った。
「む、来てくれたな!待っていたぞ!」
宝物庫のある地下室に入ってすぐ、ハクさんの歓待を受けた。
以前ベリルと戦った痕跡が壁や床に残っている。もちろん残っているのは傷跡だけで、血やら何やらは綺麗に掃除されている。
「さて、これから諸君らに報酬の贈呈を行うわけだが、その前に一つお願いがある。というのも、今回の報酬に関して、諸君らは特別待遇だ。正当な理由あってのことだが、納得しない者もいるかもしれないのでな。報酬については『相応の金銭を受け取った』ということにしておいてくれ」
「特別待遇ですか?」
「うむ。まあ既に察しているかもしれないが、ここは我が国の宝物庫だ。ここから好きなものを一つ、諸君らに贈呈しよう。諸君らには迷惑をかけたからな、色々と」
「要するに、宝物庫の中身一つと引き換えに、この間の襲撃とか大会の不正を黙ってろってことね?」
ハクさんの提案に対し、マリアがかったるそうに言う。
ハクさんの言外の要求を即座に察知するのはさすがだが、それを口に出すのはいかがなものか。
「そんな目で見ないでよ。あたしが回りくどいの嫌いなの知ってるでしょ?他に誰かが聞いてるわけでもないし、はっきり言って欲しいって思ったの。ごめんね、ハクさん」
「いや、我の方こそすまなかった。まあ、つまりそういうことだ。買収するようで気が引けるが、実際今この国は揺らいでいる。これ以上の問題を明るみに出したくないのだ」
「私は構いませんよ。そもそも言いふらすようなつもりもなかったですし」
「だな。マリアもいいか?」
「うん。ただし、もうあんなことさせないようにしてね。結果的に無事で済んだけど、あの人たちがしたことは本来、相応の報いを受けるべきことよ」
「返す言葉もない。彼らの行いを公にしないとはいえ、何の報いも無しとはいくまい。彼らには何かしらの罰を与えることを約束しよう。ことが明るみに出ない範囲で、だが……」
「それでいいわ。本人たちの意識さえ変わってくれればいいと思うから」
脅迫に殺人未遂。彼らのしたことを考えれば、その行いに対するマリアの反応は当然、いやむしろ甘い方だ。
だが、俺たちに得るものがないわけじゃない。ここはハクさんの提案を飲んだ方が俺たちの実利は大きいだろう。
「ありがとう。さて、早速宝物庫の中身を見てもらうとしよう。こっちだ」
ハクさんが奥に向かって歩みだす。
それに続くと、以前見た通り開いた状態の宝物庫の扉が見えた。
「さあ、好きに選んでくれ。それぞれの品について聞きたいことがあれば答えよう」
「こ、転んで何か壊したりしたら……そーっと歩きましょうね」
「ちょっとやめてよ。こっちまで緊張するじゃない」
「そういえば、ベリルがここにいたときもこの扉が開いてたな。ハクさん、あの時何か盗られたりしたのか?」
「ああ、実は一つ盗まれていた。延命の秘薬だ。ウサギ族に代々伝わる秘薬だったのだが、残念ながら戻ってきていない。一度どり戻されたと思ったのだが、偽物だった。本物の延命の秘薬は持ち出されたままだ」
延命の秘薬か。効果のほどは正直疑わしいが、国宝の一つではある。
……ん?帝国の目的は魔物と瘴気の掌握のはず。あまり関係ない気が……?
「ハクさん、これは何ですか?絨毯?」
「おお、それは世にも不思議な空飛ぶ絨毯だ。魔力が続く限り乗っている者の意思に従って宙を飛べるぞ」
ハルカが指さす絨毯は空飛ぶ絨毯らしい。
素直に欲しいな。便利だし、ロマンがある。
「ハクさん、これは何?」
「それは退魔のペンダントだ。瘴気と魔物が寄って来なくなる効果がある」
それもすごい品だな。瘴気の中で安全に生活できるのなら、最強の引きこもりになれるぞ。
……すごいよな?
俺も続いて宝物庫に入る。
整然と並べられた多くの品。これら一つ一つが国宝なのだと思うと、ハルカのいう通り緊張するな。
……ん。部屋の奥にショーケースのような、ガラスの箱に入った防具がある。
目録にあった『呪われた防具』ってこれのことか。
これの……ことか……。
頭痛が走る。
いつ以来かの感覚にふらつく。
俺のその様子を見た皆が焦った様子で近づき何かを言っているが、痛みで遠くなった耳ではよく聞こえない。
そして俺は、再び記憶に触れた。




