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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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69話 議事堂奪還

不死薬散布の時刻を変更しました。

「議事堂の奪還?」


連合議会議事堂とは、この国の政治の中枢である連合議会が開催される場所、元の世界で言う国会議事堂だ。

中心都市のさらに中央に位置する大きな建物なので、位置や外観くらいならわかる。ただ、奪還というのはどういう意味だ?


「腑に落ちない顔をしているな。実はな、この中心都市クオンでの魔物の大量発生の源はそこのようなのだ。平時の議事堂は閉鎖され、警備の者しか近寄れなくなっているのだが、その警備の者らが先ほどこちらに避難してきてな。そこに今回の黒幕がいるらしい」

「黒幕か……」

「ああ。もしかすると、察しがついているか?……避難してきた彼らによると、議事堂は機械帝国の兵士と、それを率いるベリルによって占拠されたらしい。そして先ほど別の部下が持ってきた情報によれば、そこから新たに魔物が発生しているようだ」


ベリル。何もせず終わるとは思っていなかったが、これだけ極端な行動に出るとは思わなかった。

この件が落ち着いたとしても、機械帝国とセツナ連合国の対立は明白になる。それどころか戦争になってもなんらおかしくないレベルだ。


「奴らの目的はなんだと思う、ハクさん?」

「……はっきりとはわからん。ただ知っての通り、ベリルは百年祭においては真っ当な選手だった。この魔物の発生や議事堂襲撃は、百年祭敗退をきっかけとしていると考えられる」

「優勝できなかったから暴れだした?となると、賞品が目的とか?」

「可能性としては否定できぬ。議事堂の地下には、我が国の宝物庫があるしな。……確かに貴重な品ばかりだが、物品のためにこれだけのことを起こすほど奴らは愚かだろうか?」


確かに。宝を奪うために戦争を起こすなんて、原始時代の話だ。

となると奴らの目的はなんだ?ベリルが進んで一般人に危害を加えるとも思えないし、以前彼女の話していた機械帝国の理念だか目的だかに関係することだとは思うのだが。


「気になるのは我もそうだが、今は情報が足りぬ。ひとまず事実として、魔物の発生源がそこにあるのは間違いない。議事堂に赴き現地の調査、可能であれば発生源の破壊を願いたい。ショウ殿、頼めるか?」

「構わないが、つい最近知り合ったばかりの俺にそんな重要なことを頼んでいいのか?」

「ふふ、何を言う。我らの仲ではないか」


『我らの仲』って言うほど親しくないと思うが、さすがに口には出さない。出せない。

下手すると泣くもん、この人。


「客観的にも、戦力を分散せざるを得ないこの状況で、誰もが知る一級の戦力を活かすのは筋が通っている。気にする必要はない。……あるいは、人手が必要なら部下を貸すが?」

「いや、大丈夫だ」

「では頼む。何よりも、自分の身を最優先にな」


コロシアムを出て、議事堂へ向かう。

途中で見つけた魔物くらいは狩っていくか。さほど時間もかからないはずだ。





コロシアムから小走りで10分ほど。議事堂へはあと半分くらいか。

ちょっと魔物の相手をしすぎた。多少の魔物は無視してペースを上げるか。

そう思い、走り出そうとした矢先――――


「しょ、ショウ、待って~~……」

「は!?」


見慣れた金髪少女……マリアがなぜかふらふらになりながら駆け寄ってきた。


「マリア、お前何してるんだ、こんなところで!?」

「だ、だって、町が大変な……げっほ!げほ、ごほぉ!おえっ!」

「お、落ち着いてからでいいぞ……」



中略。



「だって、町が大変なことになってるのよ?おとなしくなんてしてられないわ!」

「いや、そうだけども……」


正直言って足手まといになりそうだ。


「心配しなくても、自分の身は自分で守れるわ。相手が魔物ならあたしの得意分野よ!」


どや顔のマリアだが、不安だ。

今更引き返すわけにもいかないし、連れていくしかないか。


「……はあ。わかった。ただし、俺の側を離れるなよ」

「りょーかい!」





マリアのペースに合わせるのがしんどくて、途中から抱えて走ってきた。

議事堂の近くでおろす。


「凄い魔物の数ね……」

「ああ、30体はいるな」


議事堂には大きめの庭園のような空間があり、そこを様々な種類の魔物が闊歩している。

さらに開いたままの正門から時折外に出ていく個体もいた。


「どうするの?」

「マリアは隠れててくれ。とりあえず、見える連中をなんとかする」


近くの建物にマリアを隠し、正門から乗り込む。

5分ほどで庭園の魔物を排除した。

途中何体か増えていた気もする。正門から出ていった奴らが戻ってきたか、議事堂内部から新たに出てきたか。


「マリア。終わったぞ」

「強いわね~相変わらず。やっぱりあたしいらなかったかも?」

「どうかな。特に変わったことはないか?」

「えっとね。さっき気づいたんだけど、議事堂の中、結構すごい瘴気よ。祝福なしで入ったら危険な濃度ね。あんたには関係ないでしょうけど」


瘴気。魔物が発生してるなら当然か。


「あたしは待ってる間に祝福かけておいたから大丈夫。行きましょう!」

「……ここで待ってる気は?」

「ないわ!」


でしょうね。


「はあ……」

「まあまあ。あの中にもし取り残されてる人がいたら、あたしなしじゃ助けられないわよ?」


それはそうだが。

仕方ない。連れていくか。




俺を先頭にして議事堂内部に入る。

マリアを連れている以上、なるべく戦闘を避けたい。

第六感を頼りになるべく魔物が少ないであろう道を通り、避けて通れない魔物だけ不意打ちで倒すようにして進んでいく。


そのようにして進むこと数分、マリアが声をかけてきた。


「ねえショウ、あんた道わかるの?この施設結構広いわよ?」

「わからないけど、地下に行く階段か何かを探すしかないだろ?今のところ当てはそれくらいしかないし」

「だと思った。ねえ、どうせならあたしを頼りにしてみない?」

「頼りにって……マリアだってここに入るのは初めてだろ?」

「もちろんそうよ。でも結局、黒幕の居場所から魔物が発生してるわけでしょ?それなら見つける方法はあるわ。前にもちょっと話したかもしれないけど、魔物って生きてるだけで瘴気を吸収するのよ。だからこの施設の瘴気が薄いところを通っていけば、魔物の発生源に近づけると思うわ」


おお。さすが瘴気の専門家。想像よりかなりまともな案が出た。


「よし、それでいこう。魔物は俺が対処する」

「ええ、道案内は任せておいて!」


マリアの案内で議事堂内部を進む。

しばらく奥に進むと、地下への入り口らしき階段を発見した。


「おお……」

「ふふん、どう?見直した?じゃ、あたしはここにいるわ。結局他に人はいなかったしね」

「ああ、そうだな」


マリアをその場に残し、真っ暗な階段を下りる。

階段に照明器具は取り付けられているが、点いていない。


らせん状になっているその階段を下りると、薄暗い地下室へとたどり着いた。

部屋の奥で使われているなんらかの装置から漏れる明かりが、部屋をぼんやりと照らしている。二つの水槽のような容器に、それぞれ黒い石と青い石が入っている。

その装置のさらに奥に大きな金庫の入り口のような、円形をした金属製の分厚い扉が閉じた状態で付いている。あれが宝物庫の入り口だろう。

ただ、今はそれよりも注視すべき存在がそこにいた。


「……やはり貴公が来たか」

「……ベリルさん」


装置の前に立つベリル。

百年祭中と同様の装備を身に着けた彼女の顔は、装置の光が逆光となって伺うことができない。


「ベリルさん、あんたが言ってた『必要な犠牲』ってこれのことか?」

「…………」

「何人の人間が、あんたたちのせいで死ぬと思う?」

「…………すまない」


剣を抜く。

ベリルから感じるのは、薄い敵意と強い殺意。


「戦う前に、一つ教えておきたい」

「……なんだ?」

「今、この国の何か所かに、日焼け止めに紛れて運び込まれた不死薬が配置されている」

「不死薬。あんたが使ってた薬品か」

「ああ。不死薬とは、雑に言えば特定の薬品に瘴気を定着させたものだ。その薬品は極めて揮発性が高く、密閉された容器から出れば瞬く間に気化する。……そしてそうなれば、定着する先を失った瘴気は空中にばらまかれる」

「……まさか!?」

「今の時刻は午後2時28分。午後5時になれば、潜伏した同士によって、それぞれの都市で不死薬が散布される。どうなるか、想像に難くあるまい」


瘴気が国中でばらまかれる。それに国民が気が付けば、国中がパニックに陥るのは間違いなく、気が付かなければ、多くの国民が瘴気に侵されることになる。

いずれにせよ、大きな犠牲者が出るだろう。


「……なぜ」

「なぜこのようなことをするか、わからないか?代表議員の彼女ならすぐに」

「違う。なぜそんなことを俺に言う?」


俺の言葉に、ベリルが佇まいを直す。

対話から、殺し合いへの移行。


「……さあ。私にもわからん。ただ……私にはできなかったことでも、貴公ならやってくれるような、そんな気がするのだ」

「できなかったこと……?」

「両親を魔物に殺され、何もできなかった自分を突き動かすように戦ってきた。だが、それがまさか、自分が魔物を生み出し、罪もない人を殺すことになろうとは。誇り高き帝国軍人が聞いて呆れる」

「ベリル、さん……。まだ、まだやり直せるんじゃないのか?今からだって、きっと……」


彼女の声は震えている。

それにつられるように、俺の声も震えているようだ。


「ありがとう、だがもう戻れんのだ。私は道を誤った。そしてその道を、深く踏み込みすぎたのだ」


ベリルの懐から、注射器が取り出される。

その数は、二つ。


「さらばだ……信じているぞ、ショウ殿。最後に勝つのは『我々』だと」


首に、その針が刺さる。


彼女の瞳が赤くなるにつれ、そこから感じ取れる理性は薄れていき、代わりに殺意が増していく。


その瞳から人間性が完全に失われた時、俺と、ベリルの姿をかたどった魔物、二体の魔物の殺し合いが始まった。


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