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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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67話 銅級と白金級

セツナ連合国の歴史上、最も多くの人を熱狂させた催し。

そこで誰よりも名を挙げたと言われるのは、銅級冒険者ショウ。


ある者は言う。


「完全に視界の外からの攻撃だった。なのにあいつは、最初から気づいてたみたいに反撃してきやがったんだ。正直、何が起きたのかもわからなかった」


またある者は言う。


「奴がグレタと戦っていた時、二人の実力は奇跡的なまでに同等だと俺は言った。だが正直、今は奴が上手だろう。驚くべきことに、あの時の奴はまだ発展途上だったようだ。あいつの言葉を借りるなら、やつは成長の『バケモン』だな」


そして、ある者は言う。


「誰が相手でも、ショウさんが負けるわけありませんよ!根拠ですか?そんなもの必要ありません!見てればわかりますから!」


ショウは、師匠に託された剣を握りしめる。

瘴気で呪われた刀身が、魔物の肉体に力を与えていることに、ショウ本人はまだ気づいていない。




個人という括りで見たとき、世界で最も大きな力を持つとされる男、ヴォイド・マキナ。


ある者は言う。


「ヴォイド君か。彼は死の大陸では基本的に戦わない。拠点に残り続け、他の誰にも手に負えない魔物がいると聞けばふらりとそこに赴き、魔石だけを持って帰ってくる。彼が何を目的としているのかはわからない。いつでも遠くを見ているような彼についた二つ名は『最果て』。私も、我が筋肉も、彼と言う人物を測りかねているよ」


またある者は言う。


「俺、昔あの人が戦うところを一度だけ見たことがある。……俺、尊敬してんだ。強い奴とか、賢い奴とか。でも、あの人にだけはそんな気持ちは湧かなかった。ただ、震える足を抑えるので精一杯だったぜ。……わりい、ショウ。でも、あの人に勝てる人間がいるとは思えねえよ」


そして、ある者は言う。


「彼とは正直、もう会いたくないっスね。自分の専門は索敵なんスけど、彼がいると、彼の気配だけ強すぎて仕事にならないっス。それから一つ思うのは、彼は何か探し物をしてる気がするっス。それも、結構血眼で。普段無気力な彼が、探し物を見つけた時……何が起こるのか、想像もつかないっス」



――――そして彼は、探し物を見つけた。









『これより、百年祭特別試合!銅級冒険者ショウと、白金級冒険者ヴォイドの試合を開始します!!』


この魔道具の、意識が薄れるような感覚にもすっかり慣れてしまった。

ヴォイドはぼんやりと周囲を見回している。


戦いの舞台はこれまでと違い、露骨に戦いのために作られた舞台といった感じだ。

一面の石造りの床は踏みしめやすく、しかし場所は屋外のようで上空には青空が広がる。


はっきり言えば、かなり俺の得意とする場所だろう。

それを抜きにしても、余計な要素を排除し切ったこの場所は、最強を決めるのにふさわしく感じる。


剣を構える。ヴォイドは無手のままだ。


……この日のために、出来る限りの準備はした。

あとは勝つだけだ。


「ヴォイド、約束は忘れてないな?」

「ああ、頼んだぞ、ショウ」


こちらの勝利を望んでいるような台詞がやりづらい。まさかわざと負けるようなことはないだろうが。


『参ります!5!』


さて、どう出るか。

ヴォイドは未だ直立不動だ。


『4!』


世界最強の冒険者、『最果ての』ヴォイド。

どんな戦いをするのか、想像もつかない。


『3!』


カウントダウンがひどくゆっくりに感じる。


『2!』


魔力を練る。

まるで手足を動かすかのようにスムーズに体を走る魔力が、この大会での成長のあかしだ。


『1!』


さて、やるか。


『試合開始!!』


初手はやっぱりこれだよな。

二歩――


「『嗜眠』」

「――――な!?」


魔術が発動しない。

身体から発した魔力が、死んだかのように力を失い霧散する。


だが、攻めるしかない!

『二歩』なしの踏み込みでヴォイドに肉薄する。


「遅いな」


俺の踏み込みに合わせ、ヴォイドがぎりぎり剣の届かない間合いに下がる。

行き場を失いかけた勢いを殺さないため、さらに一歩踏み込んで……。


「うっ!」


足元の床が、サラサラの砂になっている。足を取られ、わずかにバランスが崩れる。

何らかの魔術か。こんなに小さな一手なのに、こちらの勢いを削ぐには十分―――


肉体を貫かれたのかと思うほどの衝撃が腹部を襲い、大きく後ろに吹き飛ばされる。


「ゴフっ」


肺から空気が抜け、目の前がチカチカするが、かろうじて空中で体勢を直し着地する。

どうやら腹を殴られたらしい。この肉体じゃなかったら致命傷だった。


ただ、追撃はない。ヴォイドは俺を殴った後、その場に立ったままだ。


「ショウ、もう魔術を使えるようにした。もう一度かかってこい」


使えるようにした……か。

さっき魔術を使えなくした方法はおそらくこいつの固有の能力だろう。

前に戦った蜥蜴男が言っていた覚醒種……。こいつもおそらくそれだ。マリアの言う通りこいつが魔物だというなら、そうでない可能性は低い。

覚醒種はそれぞれ固有の能力を持っていると蜥蜴男は言っていた。なら、さっきの『嗜眠』とやらがそうなのだろう。


ただそれは既に解除されたようだ。

――――相当、俺のことを甘く見ているらしい。


「なら、見せてやるよ……とっておきを」

「…………」


やはり無手のまま棒立ちしているヴォイド。

だがそんな奴相手にも油断できないのはもうわかっている。


「燃えろ!『五炎刃』!!」


火の属性球……火球を五つ、発動とほぼ同時に打ち出す。

俺の持つ、打撃斬撃以外の数少ない攻撃手段だ。


迫りくる炎の波に、ヴォイドは微動だにしない。そのまま奴の姿が炎に飲み込まれる。

具体的にはわからないが、何らかの対処をしているのだろう。

なら、奴の想定を超えて畳みかけるだけだ!


第六感が教えてくれる奴の位置へ、闇球、光球を少しの時間差を置いて投げる。

闇がヴォイドを包み、視界を奪う。

突然の暗闇に目を凝らせば、続けて襲う強い光が網膜を焼く。


まだ止まらない。

奴の後ろで発動するよう山なりに投げた風球と同時に発動するように、水球、火球を正面に投げる。

同時に発動したそれらは、ヴォイドの前後から衝撃となって挟み込む。

わずかに、奴の口から血がこぼれる。……効いている!


追って氷球を投げつける。

水球火球によって発生した水蒸気が凍り、奴の自由を奪う。


これで最後だ。

奴の後ろに無の属性球を投げる。

これは強い衝撃派を発生させる属性球だ。


飛ばされたヴォイドが、こちらへ向かって吹き飛ぶ。


七つの属性球を組み合わせた連撃。これが新たな技……


「『七色』。――――――これで、終わりだ!」


第六感が教えてくれる奴の急所は……包帯で隠された右目。

どれだけお前が強くても、魔石までは鍛えられまい!


「『一心』!!」


急所を狙った渾身の突き。

黒い刀身の切っ先が、奴の右目の包帯を貫き――――


「……え?」

「ショウ、がっかりだ」


剣は、奴の包帯を貫いたところで止まっていた。

いや、止まっていたのではない。

止められたのだ。素手で。

奴の右手が、むき出しの刀身をそのままつかみ、止めていた。


ヴォイドは振り払うように腕を振り、俺は大きくのけぞって後ろへ下がった。

そして俺の目に写ったのは……


「な……んだ、その目……!?」

「俺が喰らった魂の数だ」


ヴォイドの右目は赤い……いや、ただ赤いだけではない。

昆虫の複眼を彷彿とさせる、細かく分かれた瞳は、それぞれが別の意思を持っているように動いている。

その複眼の中心のひときわ大きな瞳が、じっとこちらを見据えていた。



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