66話 表彰式と陰謀
「ショウ殿」
「……なんだ?」
「いい、戦いだった」
「ああ」
ハクさんが砂漠へ倒れこむ。
魔力も体力も限界だったはずなのに、鬼気迫る剣撃は当初を上回る激しさだった。
だが、超えることができた。
ハクさんが姿を消していく。
『勝負あり……勝負あり!!この大会が始まった時、誰がこの結末を予想したでしょうか!!百年祭決勝戦、勝ったのは、銅級冒険者、ショウ選手――――――!!!!!』
通常なら聞こえなくなっているはずの観客席の歓声が聞こえる。
それ以外のすべての音をかき消すほどの拍手喝采。
そうだ。いろんなことがあって忘れてたけど……。
本当は、祭りって楽しいものだったよな。
深く、深く息を吸う。
剣を握る手を上に突き上げ、過去一番の声を上げる。
「ありがとう!!」
支えてくれた仲間に。新たな出会いに。
今はただ、感謝を。
戻った控室。
先に意識を取り戻していたハクさんが手を差し伸べてくれる。
「立てるか?」
「もちろん、ありがとう」
手を握り、引き上げられるように立ち上がる。
「ショウ殿。本当にありがとう。汝のおかげで、我は大切なことを思い出せた気がする。我はいつの間にか、自分のことしか見えなくなっていたようだ」
「ああ、わかるよ。辛くなればなるほど、孤独な気がしてくるから」
俺の言葉にハクさんがほほ笑む。
「全く、予選といい、それ以降の試合といい、汝には驚かされてばかりだった。ただ、汝が強い理由が、なんとなくわかったように思う」
「強い理由?」
「ふふ、自覚がないのもまた汝らしい。さあ、この後は表彰式だ。商品は参加書に書いてあったものが用意してある。主催者である我も一緒に出るのだが、少々準備がある。差し支えなければ、ここで待っていてもらっていてよいか?」
「ああ、大丈夫だ」
「すまないな。すぐに済むから安心してくれ」
ハクさんがその場を去っていく。
俺は再び席に着き、優勝の興奮をゆっくり鎮めていった。
「……ハルカ殿が羨ましくなってきたな。もっと早く直接会っていれば……いや、勝ち目はなかったか?」
……何か聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにしよう。
◇
『皆様大変お待たせしました!これより、百年祭、表彰式を開催いたします!!』
いつもの魔道具でコロシアムに投影された俺とハクさんは、開会式と同じような舞台に立っている。
ハクさんはハルカとマリアが来ていた踊り子風衣装、この国の伝統衣装を着ている。
うーん、眼福ですね。
『では、主催たる我が国の代表として、代表議員ハク様より、優勝者へ慶事の言葉と、賞品の授与が行われます!』
実際の賞品の授受は表彰式のあとすぐに行うらしい。
こちらは特に勿体つけず、ポンと手渡して終わりらしいが。
ハクさんが凛とした顔に微笑みを浮かべ、こちらに向き直る。
俺は姿勢を正して言葉を待った。
「百年祭優勝者、ショウ殿。汝の武勇に心よりの賞賛と敬意を示そう。汝の持つ力は、ここにいる我らすべてが証人となり認められた。これより先の未来、汝の残す伝説の生き証人となれることを誇りに思う。優勝、おめでとう」
「ありがとうございます」
ここまでは台本通り。
あとは賞品の授与……。
「そしてショウ殿、我はここに誓おう。もう己をいたずらに追い詰めないと。これから先、我らに襲い掛かる困難は小さいものではないだろう。だが、きっと乗り越えられると信じている。我は一人ではないと、汝が教えてくれたからな」
ちょ、ハクさん。台本にないことするのやめて。
こちとらこういう大舞台初めてなんだから。戦ってる時以上に緊張してるんだから。
「……ハクさんなら、いやハクさんたちなら大丈夫。あなたたちの持つ力は、俺が証人となって認めるから」
「ふふ、ありがとう。こんなことをこの場で言うのはふさわしくないとわかっているが…………我と戦ったのが、優勝したのが、汝でよかった」
ハクさんが差し出した右手。俺はそれに応じ、俺たちは握手をした。
大きな拍手が巻き起こる。
ひとしきりの拍手が終わった後、賞品の授与が滞りなく行われ、表彰式はその内容をほとんど終えた。
『ショウ選手、ハク様、ありがとうございました!!では最後に、明日行われる特別試合のご案内をいたします!』
ホノカさんのアナウンスで、明日のヴォイドとの試合についてのアナウンスがされた。
昼に試合を行い、そのまま閉会式という流れのようだ。
『ではこれにて、百年祭表彰式を終わります!明日の特別試合をお楽しみに!』
一方、そのころ。
「……これは、何かの間違いではないのか」
「間違いではありません。あなたは任務を失敗した。これは他でもない、皇帝陛下直々の勅命です。皇帝陛下は寛大なお方。無様に敗北したあなたへ、最後に汚名を晴らす機会をお与えになられたのですよ」
機械帝国の使用する車両。ショウが軍用トラックと称したその中で、二人の話し声が小さく反響する。
木箱に腰かけ、手に持った書簡をにらみつけるように見るベリル。彼女の声に応えたのは、機械帝国兵士の装備・制服を改造し気崩す女だった。
「……それはありがたいことだ。だが、この命令を実行すれば、多くの無関係な民が犠牲となるだろう。そしてそれは連合国への宣戦布告と捉えられるはずだ。これまで慎重に事を進めてきたというのに、何故突然?そこまでしてアレを手に入れる意図はなんだ?」
「あなたが知るべきことではありません。繰り返しになりますが、これは陛下の勅命です。誇り高き帝国軍人が何をすべきか、あなたはわかっているはずですよ?」
「…………無論だ。実行は明日。この国で最も厄介な連中が、くだらんごっこ遊びに興じている時が好機だろう」
「ええ、ええ。今度こそ、失敗は許されません。貴女の妹さんも、それを望んでいるでしょうう」
「黙れ、妹のことを口にするな」
おちょくるように軽い口調で話す女に、ベリルの語気が強くなる。
「ふふ、そう怒らないでください。なに、明日あなたがしくじらなければ、何も問題はないのですから。私はこれで失礼しましょう。機械帝国に栄光あれ」
「……機械帝国に栄光あれ」
女が立ち去り、一人トラックに残ったベリルは俯く。
それは明日の任務の実現可能性の薄さ。そしてその任務をこなせなかった時、自分だけでなく、妹にも何かしらの悪影響が及ぶことを理解していたためだ。
(あいつが機械帝国を出て数年経っていたが……便りによればつい最近帰国し、軍に所属しているという。それにあの女……奴がああいった脅しをかけるとき、口だけということは決してない。私が失敗すれば……)
ベリルはペンと紙を手にとる。
「……これが最後の手紙になるな」
つぶやきが、やはり小さく反響した。




