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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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65話 代表たる孤独

百年祭決勝戦。

国の節目となる建国百周年を祝う催しであり、世界中から集まった猛者たちが最強の座を求めて競い合う場。

今日その勝者が決まる。その事実が、コロシアムの熱気をさらに熱くしていた。


「それでは、百年祭決勝戦!ハク選手対ショウ選手の試合を開始します!」


そんなコロシアムが、瞬く間に静まり返る。

達人たちの戦いは一瞬にして決まることがある。それを本能的に理解している観客たちは、最初の数秒を見逃すまいと固唾を飲んだ。


「試合開始!」


『参る!』


最初に仕掛けたのはハク。

ショウの攻撃力を警戒し、先手を譲るまいとした最初の一手。


低くした姿勢に、左右に広げるように振りかぶられた双剣。

その一対の刃が光りを帯びた。


『!?』


片方の刃からは青い炎が、もう片方の刃からは砂が噴き出る。

舞いのように規則正しく、しかし緩急のついた連撃に合わさり、炎で熱せられた砂がショウを襲う。


「おお――――っと!?いきなりなんでしょうこれは!!きらめく炎と砂塵が、ハク様の剣技をより引き立てるようです!う、美しい―――!!」

「あの剣技、単純な速さや強さというより、相手に次の手を読ませない変化がついている点が強みだな。対人戦に特化した剣術と言える。合わさる熱砂も、相手が人間なら決して無視できまい」


ショウはこれに応じる。

コンゴウが無視できないといった熱砂をしかし半ば無視して、剣技の対処に集中する。

皮膚を焦がす熱砂を無視できる自らの痛みへの耐性と回復力は、ハクの戦闘スタイルに対し相性がよいことを即座に理解したのだ。


「なんと!!ハク様優勢と思われましたが、ショウ選手、これをものともしない!!」

「単純な戦闘能力もそうだが、あの耐久力は異常だな。奴の真の強さはそこにあるのかもしれん」


熱砂の影響さえなければ、単純な剣での応酬。その優劣は明らかであった。

数合の打ち合いを経て戦いのペースがショウに渡り、ハクの舞いは崩れる。

緩急を強みとするハクがそれを構築する余裕を失えば、その後の展開は一方的だった。


『はあっ!!』

『うっ!』


数合の打ち合いの後、ショウの攻撃を受け、剣ごと吹き飛ばされる。

身軽なハクは空中で体勢を立て直すと、かろうじて手放さなかった剣を着地に合わせ地面に突き立てた。


『ならば……これはどうだ!』

『……人形?』


砂漠の砂から起き上がるように、ハクを模した砂の人形が出来上がった。

その数数十体。いずれも固まった砂の双剣を手に持ち、構えを取る。


「おおお!?砂のハク様人形が瞬く間に出来上がりました!!言い値で買います!」

「おい?」

「間違えました!コンゴウさん、あの技をどう見ますか!?」

「熱砂で出来上がった人形。打撃斬撃の類はまず効かん。さらに見るだけで伝わってくるあの熱量。まともに戦えば体力だけをごっそりと持っていかれるだろう。……通常ならな」

「通常なら?では今回は?」

「……はっきり言って無意味だ。その程度の技で抑えられる相手ではない」


コンゴウがそう言い終わるのを知ってか知らずか、ショウが行動に出る。

ポーチから緑がかった球体を五つ取り出す。風の属性球だ。


『吹っっっ……飛べ!!『五風刃』!!』


野球のノックのように、発動寸前の属性球を剣で打つ。

ヒットと同時に発動した属性球によって発生した大きな風が、ショウの剣の風圧に乗って前方へと強く推しだされた。


人をも軽々と吹き飛ばす勢いの風が砂の人形たちへと叩きつけられ、それらは次々に崩壊してゆく。

全ての人形が姿を消す中、ハクは次の一手を打つ。


「まだだ!!」


突風の中でなんとか唱え切った詠唱。その効果によって足元の砂漠が大きくうねる。

砂交じりの風が治まった時、ショウの眼前には大きな砂の波が押し寄せていた。


(これは、苦手なタイプだな)


対応力に優れるショウだが、そんな彼にも弱点はあった。

広範囲を攻撃する技を防ぎきる手段がない。魔法の実力はそう高くない今のショウにとって、この範囲の攻撃を止める手段はなかった。


「だが止められなくても、抜ける手段はある」


火と水、それぞれの属性球を複数個、砂の壁に向け投げつける。

属性球を用いて水蒸気爆発を発生させる。ベリルがグレタとの戦いで用いた技を、そのまま流用したのだ。

岩を穿つほどの爆発。いかに大量であるとはいえ、固まっていない砂に対してのその爆発は、砂の壁に大きな穴をあけた。


そして砂の壁を抜けたショウの目に写ったのは、迫りくる複数の青い炎弾だった。


「俺に目くらましは通用しない!!」


第六感でこれを未然に感知したショウが、左手に仕込んだ魔術を発動する。

無属性初級魔術『ショット』。オーフェンがショウとの修行中に属性球を撃ち落とす手段として用いた魔術だ。


青い炎が、半透明の球とぶつかり相殺される。

その様を見たハクは魔力の枯渇か、はたまた別の理由か、突如襲って来た眩暈に膝をついた。





試合が終わらない。……ということは、ハクさんの意識は途切れていないということだ。

しかし、ならどうしてハクさんからの敵意が消えている?


「何してる、ハクさん。まだ戦いは終わっていないだろ?」

「……本当にそう思うか?」

「何?」

「既に気づいているのだろう?我も気づいている。この試合を見ている皆も気づいているはずだ。……我の力が、汝に及ばないということを!」


顔を上げたハクさんの目から、涙が零れ落ちた。

剣を握る手は震え、彼女を象徴する白髪は砂と風でひどく乱れている。


「……まだわからないだろ。たとえそうでも、最後まで戦うのが責任じゃないか?」

「責任だと……!?汝に何がわかる!!英雄の子孫としての責任が、国の代表としての責任が、汝にわかるのか!?一日たりとも研鑽を欠かしたことはない。成すべきことのために、すべてを捧げてきた。だがそれでも足りぬ。であれば、どうするのが正しいのだ?血反吐を吐き、無様に敗北するのが責任だというのか!!」

「ああ、そうさ。たとえ負けるとわかっていても、戦わないといけない時があるはずだ」


子供のように泣きじゃくるハクさんは、今だ地に膝をついている。

ただ今の彼女にあるのは、押しつぶされ続けてきた、そしてついに限界を迎えあふれた感情だけだった。


「責任がなんだという癖に、どうだその無責任な発言は!何も……何も知らないくせにずけずけと!!……みな、我を頼り、ついてきてくれる。だが我は、誰を頼ればよい?我が間違えれば、誰が我を助けてくれるというのだ?我の孤独を、汝は理解できまい!!」


滂沱のごとく涙を流すハクさんの下にある砂は、彼女の涙を受け止めると同時に水蒸気へと変換し続ける。


「わからないさ。ただ一つ、わかることがある。さっきの話だ」

「……?」

「この大会に細工をした人たち。……あの人たちは、あなたに勝ってほしかったんじゃないのか?」

「…………!」

「敬愛するあなたのために、自らの手を汚すこともいとわなかった。誰に言われたでもなく、それぞれがただ、あなたの望むところが現実となることを、あなたが勝利することを願った。ちがうか?」

「そんな……そんなことが……」

「俺はあなたの負ってきた責任も、重圧も、苦悩もわからない。だが自分を助けてくれる人がいないなんて、そんなこと……言ってやるな」

「…………」


ハクさんが立ち上がる。

感じる。敵意を。眼前の相手を打ち倒そうとする闘志を。


一対の剣が構えられる。

まるで野獣の牙のように、真っすぐな力に満ちた剣。


「すまなかった。そして、ありがとう、ショウ殿。我は、何も見えていなかったようだ」

「やる気になったみたいだな」

「ああ。もう、逃げない。ここからが本当の決勝戦だ!!!」


砂漠の日の光に照らされた刃を携え、俺とハクさん、両者が踏み込む。

ぶつかり合った刃が、澄んだ音を立てた。


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