53話 大切な
前回前々回のホノカの台詞を修正し、決着の条件に気絶を追加しました
『試合開始!』
正面、右前、左前。
3本の矢を同時に撃つ。
ショウさんも迂闊には……え?
目の端になにかの輪郭が映る。
っ!起動!
矢に仕込んだ風の魔術が作動し、矢ごと破裂する。
突然の衝撃波にひるんだショウさんの動きが止まった。
今しかない。片手で風魔術を発動してショウさんを後ろに飛ばし距離を取る。
ひとまず初手で負けることは防いだ。けれど……
速すぎる。
反応できただけで奇跡。次はショウさんも対応してくるはず。
攻め続けないと負ける!
再び矢を放つ。3本の矢が別の方向からショウさんに迫る。
さらに仕込みで破裂矢を放つ。
ショウさんならきっと……
予想通り。矢の間をすり抜けるように突っ込んでくる。
事前に私とショウさんの間に来るように仕込んだ破裂矢に、ショウさんは対応せざるを得ない。
案の定、ショウさんはポーチから取り出した石で破裂矢を撃墜した。
それでいい。
先に撃った矢は追尾矢。魔術の効果が切れるか何かに衝突するまで対象を追いかける。
ショウさんの背中から追尾矢が追いかけている。
こちらは手を止めない。追尾矢と破裂矢を立て続けにうち、行動を制限する。
追いかけてくる追尾矢と、自らを狙って直線で飛来し空中で破裂する破裂矢の組み合わせに対処するので精一杯のはず。
さらに地面を這うように自分で操作できる矢を放つ。
操作矢は背の低い草を削り取るように地面に痕を描き飛んでいく。
私が見つけた勝ち筋。それはショウさんの飛び道具に対する対抗手段の少なさ。
ショウさんは日ごろ魔物を相手に戦うことが多く、それ以外で戦った相手も全て斧や槍、槌といった接近戦の武器を使用していた。
ショウさんは飛び道具を使う相手との経験が薄く、だから対抗手段も用意されてない。
こちらのペースに持ち込み続ければ勝ち目はある。
ショウさんは常識離れした回避と投石で対処しているけれど、いずれ投げる石も尽きるはず。
その瞬間に勝負をかけます!
「なるほどな」
パシッという音と共に、ショウさんが矢を切り落とす。
あれは……追尾矢。
まさか。破裂矢ほど威力はないけれど、飛ぶ速度そのものは普通に射った矢と同じくらいなのに。
見た目でも破裂矢と追尾矢は区別できない。まさか、軌道で判断して撃ち落とした?
避けるのと切り落とすのとではわけが違う。
あれだけの矢を避けながらそんな余裕があるなんて!!
こちらの連撃に早くも対処し始めたショウさんは、破裂矢のみを投石で、追尾矢を剣で落とす。
このままじゃショウさんに攻撃の余裕を与えてしまう。
まだ次の仕込みが終わっていないのに……。
ダメージを与えて動きを止める!
私は追尾矢の手を止め、破裂矢を立て続けに放った。
切り落とされているとはいえ、まだ追尾矢はショウさんの周りに残っている。
一球ずつしか投げられない投石での撃墜も、回避も間に合わない。
ここで立て直さないと!起動!
――――え?
破裂矢は私の起動に反応せず地に落ちた。
よく見れば、すべての矢が折れている。
「……成功だな」
ショウさんの左手の甲。そこには魔術の魔法陣が浮かんでいた。
何らかの魔術で私の破裂矢を撃ち落とした?
そう認識した時にはもう遅い。
ショウさんは一瞬でこちらに間合いを詰め、剣を振り上げ……。
ああ。やっぱり強いです。
静かに目を閉じる。
「…………?」
訪れるはずの衝撃が訪れない。なぜ?
目を開くと、剣を振り上げたまま、動こうとしないショウさんの姿が目に入った。
「――――――――――――っっっっ!!!!!」
頭に血がのぼる。
結局、この人は私を対等な相手として見ていなかった。
全力で蹴りを入れる。
わかっていたとでもいうように、ショウさんは後ろに吹き飛び、空中で体勢を直して着地した。
「ふざけないでくださいよ……!」
怒りが言葉となって口からあふれる。
「私は本気で、殺す気で来てと言いました!私は本当にそのつもりでした!!なのにあなたはそうじゃない!!」
バカみたいですね、私。
「ずっとあなたに認められたかった!!守るべき女ではなく、背中を預けられる相棒として!!」
でも、もう止められない。
「私は、あなたに優しくされたくて一緒にいるんじゃない!!」
仕込みは終わった。
「馬鹿に、しないで!!!!!」
地面の魔法陣を起動する。私の一番の大技。
操作矢はこれを草原の地に描くためのもの。
だから時間稼ぎが必要だった。
「『暴風の牙』!!!!!!」
視覚できるほどの風の刃が牙の姿をかたどる。
それは静かにたたずむショウさんに向かっていった。
ショウさんは剣を構えなおすと、息を吸い込む。
「違う!!!!!」
ショウさんが構えた剣を振り下ろし、真正面から牙に向かう。
鍔迫り合いのように押し合う両者。
しかしこの技は大きな牙だけが攻撃じゃない。
牙を受け止めても、それをまとう不可視の風の刃が相手を襲う。
「俺は、お前を殺す気で戦った!!!」
ショウさんの体が切り裂かれる。全身に切り傷が入り、血が流れる。
どうして……あなたなら避けられたはずなのに。
「だができなかった!!!たとえ偽りでも、お前を殺すことが、お前が死ぬことが我慢できなかった!!!!」
風の牙は勢いを失い、やがて霧散する。
傷だらけになったショウさんが近づいてくる。
「すまん、ハルカ。やっぱり俺は、お前を殺せない」
「守ろうなんて思ってない。でも、勝手に守ろうとしていたみたいだ」
「大切な、相棒だからな」
……ずるいですよ。
そんな真っすぐに言われたら、怒るに怒れないじゃないですか。
魔力を使い果たした私が倒れこむのをショウさんが受け止める。
落ち着くにおい。
おこったりしてごめんなさい。
わたし、やっぱり、あなたのことが……
「……だいすき」
勝者の名前を告げるアナウンスが遠くに聞こえた……。
◇
控室で目が覚める。
そっか、私、負けたんだ。
「ありがとな、ハルカ」
ショウさんが伸ばしてきた手を掴み、握手をします。
「怒ったりしてごめんなさい、ショウさん。ありがとうございました!」
二人でそのまま外へ出ます。
すると―――――――
大歓声。そして拍手。
「ハルカ!あんたやるじゃない!素敵だったわ~~!!」
マリアさんが飛び跳ねながら近づいてきます。
素敵?
「ええ、だってあんな大舞台で『大好き』だもの!見事なプロポーズだったわ~!!」
え?
え?
うそですよね。
もしかして……口に出てた!?!?
「そんな――――!!恥ずかしいです!!!」
「いやちょっと待て!ポロポーズって、あれはポロポーズなのか!?普通ポロポーズって言ったらもっとこう……!マジか……この世界の文化なのか……?」
ショウさんも戸惑ってるみたいですが、恥ずかしすぎてそれどころじゃありません。
と、いうか口に出てたとして、まだ返事をもらっていないような……?
「で、どうなのよショウ」
「ど、どうって何が?」
「プロポーズの返事に決まってるでしょ!!男ならはっきり答えるのよ!」
あっあっ。マリアさん待って。まだ心の準備が……。
「そう……だよな。ポロポーズされたなら答えないといけないよな」
こんな時でも真っすぐですね!好き!でも今はもうちょっとごまかしてくれてもいいんですよ?
ショウさんがこちらに向き直る。
頬が赤らんでいる。
え、嘘、ほんとに?
「ハルカ、これまで俺たち、相棒として隣にいたよな」
「これからも、一緒にいたいと、俺はそう思う」
「だからこれからは相棒であり、夫として……よろしくたのむ。こんな俺だが、愛想が尽きるまでは一緒にいてくれ」
顔が熱くなり、目元も熱くなる。
混乱してるけど…‥‥うれしい。
「こち、こぢらこそ、お願いじまずぅ……」
周りの歓声がさらに大きくなる。
耳が震えるような歓声をマリアさんが収めた。
「おめでとう二人とも、これで新たな夫婦が生まれたわ!最後に、誓いの口づけをして二人が永久にが結ばれることを示しましょう!」
くち、くち、くちづけ!!
いや、嫌ではないですけど、こんなみんなの前で!?
ショウさんが一歩近づく。
え、あ、はい。
二人の顔が近づく。
ちかい、かおが、あつい、かおが。
「わふゅう」
私は鼻から血を出し、意識を失ったのだった……。
ショウ「勢いで結婚してしまった……」
プロット「ぎゃあ」
でもこの人ら勢いでもないと結婚しないからね、仕方ないね




