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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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51話 勝つのは

終盤のホノカのセリフを修正、勝負の決着が死亡か気絶、降参によるものとする旨を追加しました。

低く踏み込みながらの切り払い、振り返りながらの切り上げ、蹴りを挟んでからの振り下ろし……基本としての動作を確認しながら、改善の余地を探る。


昨日のグレタとの戦いは楽しいものだったが、自分の至らなさを実感した戦いでもあった。

これまで剣技と体術を鍛えてきたが、それだけでは限界があるようにも感じる戦いだった。


昨日初めて実戦で使った『二歩』は単純な技だ。

この世界に来て数か月。先日アサマの店で買った本のおかげもあり、ようやく無属性魔術の基礎である「ウォール」を小さい形でなら使えるようになった。

足元にそれを作り、踏み込みをより強く行えるようにしているだけだ。


これだけ聞くとただのちょっと早い踏み込みだと思うだろうが、これが案外侮れない。

魔物として身体能力の上がった俺が本気で踏み込むと、地面が深くえぐれてしまう。

普通の人にとってはしっかりした地面での踏み込みが、俺にとってはグズグズのぬかるみでの踏み込みになってしまう。


それを解決したこの技は自分の身体能力を活かすのに使いやすい技だ。

魔術の発動に慣れ、連続で発動できるようになればさらに大きな力を発揮するだろう。


もっと自然に魔術を挟めるようになれば……。



「あれが百年祭の……」

「そう、ボロボロ防具の……」

「お、俺声かけてこようかな」



なんだか視線を感じる。

さすがに昨日一日でかなり有名になったらしく、ギルドの演習場で一人で訓練していたはずの俺の周囲に人が集まってきていた。


……落ち着かないな。知らない視線にさらされるのは疲れるし、場所を変えよう。




「ショウの旦那!うちで食ってかねえか!」

「ありがとう、でも今は腹一杯なんだ」


「ショウさん!うちの店に寄っていってよ!」

「ごめん、明日に向けて訓練しないと」


「ショウくんこっちむいて―――!!」

「あ、ああ」



…………疲れる!!!

まいったな、これきついぞ!!


「これきついぞ……」

「そりゃおめえ、あんだけ素直に応えてりゃ声もかけられるだろ」

「ん?」


聞き覚えのある声に振り返る。そこにいたのは……


「ダズ!?」

「おう、元気そうだな」


なんとファリス王国の衛兵で俺の友人、ダズが立っていた。

いつものような衛兵の恰好ではない。仕事で来ているというわけではないようだ。


「ダズお前、ちょっとデカくなったか……?」

「デカく?ああ、あんたやハルカの頑張ってるところを見て、俺もちょっとばかし頑張っちまったのさ」


なんだか以前より若干ガタイがよくなったような気がしたが、ダズも自分を鍛えていたらしい。いやそんなことよりも。


「なんでこの国にいるんだ?」

「あなた~~!」


……あなた?


かけられた声の方から、若い女性が駆けてきた。

ていうか、あれ?


「エマさん?」

「あ、ショウさん、お久しぶりです!昨日はすごい戦いでしたね!」


エマさんは俺が最初に冒険者登録をしたギルドの受付さんだったはず。

え?今あなたって……?


「実は私たち、結婚したんです!」

「……まああれだ、新婚旅行ってやつだ」


「……え?」





「まさか二人が結婚とはなあ」

「俺も正直まだ実感がねえよ。俺みたいな平凡なやつが、こんな気立てのいい嫁さんもらえるなんて夢みてえだ」

「もう、あなたったら。恥ずかしいですよう」


近くの喫茶店で話を聞き始めて早速、二人がのろけ始めた。

コンゴウさんに見せてやりたいな。


二人は俺とハルカが旅立ってすぐに出会ったらしい。

ギルドからの帰り道で質の悪い男に絡まれていたエマさんを非番のダズが通りかかって助けたそうだ。


それをきっかけにエマさんの猛アプローチが始まり、ダズもまんざらではなかったらしく。


「あなた……」

「エマ……」


こんなことになったと。

コンゴウさん、早く来て!


「で、ハルカとはどうなんだ?」

「どうって、特に何も?」

「そんなことだろうと思ったぜ。まあいいさ。俺はあんたを信頼してる。気長に吉報を待つぜ」


既にいろいろと決めつけられている気がするが、まあいいか。


「それよりもショウさん、明日はどうするんですか?試合とはいえハルカさんと戦うなんて……」

「正直どうしたらいいか迷ってますよ。でもまあ、なるようになるかと」

「迷う必要はねえさ」

「何?」


首をかしげる俺にダズは続ける。


「全力でやってこい。あいつは変な気遣いよりも真正面からぶつかり合うことを望む。そういうやつさ」

「真正面から……」

「そうだ。なんとなくわかる。お前らお互いを頼り合ってるようで、どこか変に遠慮してるだろ。そういうのごと叩き切っちまった方がお互いのためだ。どうせ本当に死ぬわけでも怪我するわけでもねえんだろ?なら、思いっきりぶつかり合うべきだと俺は思うぜ」


遠慮、か。確かに俺たちは打ち解け合っているようでどこかに遠慮があったようにも思う。

ここをいい機会と取る見方もあるか。


「ありがとうダズ。明日の試合、見ててくれよな」

「おう、どんな結果になるにせよ、俺は最後まで見届けるぜ」


明日の試合への意気込みを固める。

試合のその時だけは、ハルカを倒すべき敵として迎え撃とう。


「それにしても驚きましたよ。ショウさんはともかく、ハルカさんは以前までごく普通の冒険者だったのに、こんなに大きな大会の決勝戦に残るなんて」

「それは俺も思った。なあショウ、ハルカのやつはそんなに強くなったのか?」


エマさんとダズの疑問に、俺も今更ながら首をひねる。

最期に一緒に戦ったのは死の森だったか。マリアを助ける戦いでは一瞬しか見ていなかったし。

おそらくラシィさんとの修行の成果が大きいのだろうが、今現在のハルカの実力は正直よくわからない。


「……正直俺にもわからない。明日の試合の中で確かめるしかないな」

「へえ、なら、勝つのがショウとは限らねえな?」


その通りだ。

全力で戦うかどうかじゃない。

全力で戦うしかないだろう。ハルカは強い。


「……負けたく、ないな」


相棒との一騎打ち。俺は勝利を自分に誓った。





そして翌日。

予選と同じ控室に案内された俺は、席に座り時が来るのを待っていた。


聞こえてくる足音。

誰が来たのか、考えるまでもない。



「ショウさん」

「ああ」



「全力で行きます」

「ああ」



「殺す気で行きますよ」

「ああ」



「だから、ショウさんも殺す気で来て下さい」

「……ああ」



静かな、しかし決意のこもった重い声。

ごまかしはきかないだろう。


ただ、俺も負けたくない。



『さあ、準備はよろしいですか?』


「「はい」」


『転送後5つ数え、試合開始の合図を出します。それまでの戦闘行動はお控えください。また試合の決着はどちらかの死亡、気絶、または降参によるものとします。それでは、ご武運を』


一瞬、意識が薄れるような感覚を覚える。


次の瞬間、俺たちは草原の真ん中に立っていた。

背の低い草が足元を覆っている。遮蔽物も何もない、屋外のど真ん中といった場所だ。


『それでは、百年祭決勝第一回戦第一試合!ショウ選手対ハルカ選手の試合を開始します!』


アナウンスが響く。


俺は剣を、ハルカは弓を構える。


『参ります!5!』


ハルカと俺の距離は……50メートルくらいか。


『4!』


最初の一手を考える。


『3!』


魔力を練り、足に力を籠める。


『2!』


眼前の敵に集中する。


『1!』


躊躇うな。


『試合開始!』


勝つのは、俺だ!




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