50話 進出者たち
こいつ、本当に人間か?
絶えず迫りくる大槌。一撃もらえば即死か瀕死は避けられないような大振りのはずが、常識外のスピードのせいで大きな反撃に出られない。回避と同時に攻撃を仕掛けても、それを回避しながら次の攻撃を振ってくる。
『避けながら攻撃』。コンゴウさんの言った通り、こいつと俺の戦闘スタイルは全く同じ。
まるでいたちごっこだが、他の手を打つだけの暇も与えてくれない。
この数週間で身に着けた技がいくつかあるが、相手の攻撃の間隔が短すぎて使えない。
相手の土俵に無理やり立たされているような感覚。一方的な強みの押し付けに俺は対応することができない。
唯一の勝ち筋は、俺が魔物であるがゆえに体力勝負では分があるということだ。いずれ相手の……グレタの体力が付き、手がしびれ切ったところを狙うしかない。
……と、そんなことを考えて戦っていたが、いつまでたっても相手にそんな様子はない。ホノカさんの言ったことが本当なら、もう30分以上戦っているはずなのにだ。
……絶対人間じゃないな、こいつ。
こいつ人間じゃねえだろ。
どれだけ打ち込んでも当たる気がしねえ。それどころか反撃してきやがる。
俺様も回避は大得意だ。攻めるだけで勝てるのは格下の雑魚だけ。つええ相手とやるなら、避けて打つ。クソつええ相手とやるなら、避けながら打つ。これが基本だ。だから避けながら打ってる。
『避けながら攻撃』は俺様の十八番だ。金級冒険者の俺様とそれで真正面からやり合える、そんな奴が銅級だと?ギルドの連中は何してやがんだ。死の大陸に連れて来いよこいつを!
おまけにこいつ疲れ知らずだ。体力なら誰にも負けねえ自信があったってのに、その自信が揺らいじまいそうだぜ。
絶対人間じゃねえよ、こいつ。
◇
『想定外の激しさとなった百年祭予選!残り人数は30人を切りました!最後に舞台に立っているのは、果たして誰なのでしょうか!!』
残り30人か。周りの状況がわからないが、気にしてもいられない。
いい加減諦めてどっかいってくれないか?
まあいいさ。こうなったら徹底的にこいつと決着をつけて―――
殺気。背後と……正面奥から!
大槌男も察したらしい。大槌男は自分の正面、俺から見て後ろの殺気に対応するようだ。
……試し打ちといくか。アサマの本のおかげでようやく身に着いたアレを使おう。
靴に仕込んだ魔法陣に魔力を込める。魔道具の起動とは全く違う。力づくじゃなく沿わせるように。
足にぴったりと合わさった小さな半透明の壁が生まれる。あとは踏み込む。地面に踏み込むのとは違い、頑丈な壁は力をもろに、垂直に受け止めてくれる。
踏み込む一歩と、相手の眼前に踏み出す一歩。それで終わり。だからこの技の名前は――――
「二歩」
こちらを狙い投げナイフを構えていた男の眼前に踏み込み、そのまま剣を突き刺す。
何が起きたのかわからないといった表情の男が姿を消していった。
ほぼ同時に背後から爆発音のような音と地響きが届く。振り返ると、地面に複数のクレーターを作ったグレタが大槌を担いで振り返った。
戦いは終わらない。すでに邪魔する者の気配もない。
ここにいるのは俺とグレタのみだ。もう理屈も技もない。意地と意地がぶつかりあい、地形を変えながら戦いは続く。
もはや避けながら切るのですらない。俺たちは、お互いが次にどこに獲物を振るうかわかっていた。わかっていて、攻撃の来ない位置に体を動かす。そして読まれているとわかりながら次の攻撃を振るう。
俺は、戦いは手段で、目的にはなり得ないと思っていた。
ただ不思議だ。こいつと戦っていると、妙な心地よさを感じる。
パズルのピースが次々にはまっていくような、気の通じ合った相手と会話しているような……。不思議な感覚。ただ、もう少しこれを続けてもいいと思った。
しかし、そんな時間にも終わりが訪れる。
空間が縮んでいる影響か、どこかから炎魔術の流れ弾が飛び込んでくる。
互いに距離を取る俺たち。
静かに、ゆっくりと構えをとる。名残惜しいが、きっとこれが最後の一撃となる。
最期の一撃。グレタはここにきて今日最大速の突進を選んだ。
空を切る音より先に、奴の攻撃が迫る。
俺も奴も避ける気はない。だが避けさせる気もない。
お互いが、最高の一撃を繰り出す。
「一心」
懐に踏み込み、前のめりな姿勢でこちらに最も近づいた奴の弱点、頭部に剣を突きだし―――――
身体が、ビタリと動きを止めた。
『しゅ―――――りょ―――――――!!!!!!』
俺とグレタが至近距離で見つめ合う。お互いの獲物はそれぞれの体に触れ、ひんやりと嫌な金属の冷たさを届けていた。
「「…………近えよ」」
◇
『お疲れさまでした―――!みなさん、決勝トーナメント進出者に盛大な拍手をお願いいたします!』
コロシアムの奥、予選参加者が集まっていた部屋と別の部屋に、俺たち8人は集められていた。部屋の壁にかかり、映像を映す大きな画面は、周囲からの俺たちの見え方を映しているようだ。
周囲を見渡す。すると――――いた。よかった。
「えへへ、やりましたね!」
近づいてきたハルカとハイタッチをする。
さすがだ、相棒。
他の出場者の様子も見る。ハクさん、ロボットパーツ装着女、グレタの他、大鎌を背負った男、忍者風の服装をしたキツネ族の女性、他の参加者から二回りは大きい図体の毛深い男が他の決勝進出者のようだ。
「おい、ショウ!!」
ドカドカという足音が近づいてきたかと思うと、俺の背中をバシッと叩いた。
そこそこ痛い。
「おめえ、やるじゃねえか!あんないい戦い今までなかったぜ!」
「おうグレタ。お前こそ、人間業じゃなかったぞあの動きは。」
「おめえがそれを言うのかよ!なあおい、決勝トーナメント、ぜってえ負けんなよ!俺との決着がまだなんだからな!!」
熱い男だ。だが不思議と嫌な気はしない。
こういう人を惹きつけるところが金級冒険者たる所以なのかもしれない。
『皆さんお疲れさまでした!終わって早速で恐縮ですが、決勝トーナメントの組み合わせを決めますので、順番に抽選をお願いいたします!』
会場にホノカさんの声が響く。ホノカさんのアナウンスの通り、部屋の中には中の見えない箱が用意され、二人のスタッフがその横で待機していた。
……最悪だ。あの箱から、何らかの悪意を感じる。
多分だが、イカサマを仕込まれているだろう。
ただ辛いことに、俺にはイカサマが仕込まれているであろうということまでしかわからず、誰がどんな仕掛けをしているのかは推測、いや憶測にしかならない。
『では、グレタ選手からお願いいたします!』
「お?俺様からか」
グレタが箱に近づき、手を突っ込んですぐに抜く。抜き出した手には数字の書かれたカードが握られていた。
「4だ!」
用意されたトーナメント表、左から4番目にグレタの名前が書きこまれる。
『さあどんどん行きましょう!次はハルカ選手!』
「あ、私ですね、行ってきます!」
ハルカがくじを引きにいく。その後も、抽選はつつがなく進んでゆき……
「……嘘だろ?」
「そんな……」
『はい、では決勝トーナメントの組み合わせが決定しましたね!』
これがイカサマによるものなのかそうでないのか、そんなことはわからない。
しかし……
『では第一試合、ショウ選手対ハルカ選手は一日の休憩をはさみ、明後日の午前に行います!両選手は必ず明日の朝に大会本部へお越しください!では、お疲れ様でした―――!!』
初戦から、ある意味一番戦いたくない相手との試合。本物の戦いではないとはいえ、全力で戦えるのか。
俺たち二人は不安を隠せず、お互い目を合わせたのだった……。
ショウの新技の解説はいずれあります。忘れているわけではないのでご安心を。




