48話 百年祭予選
今回は難産でした……
「はい、ギルドカードの確認が取れました。奥の部屋にお進みください。部屋に入ったら人数分の椅子が置いてあるので、どれかお好きなものに座ってお待ちくださいね」
大会本部で簡単な手続きを済ませると、予選参加者用の部屋に案内された。広めの体育館くらいの広さがある空間に感覚を開けて椅子が設置されており、大会参加者が収められている。
「こんなに参加者がいるんですね」
ハルカの言う通り、結構な数の参加者だ。300…いや400人くらいか?俺たちのように冒険者然とした者、これから戦うとは思えないきわどい恰好をしている者など様々だが、それ以上に既に存在感を放っている者が2人ほどいる。
「ハク様!頑張りましょう!」
「ハク様!先ほどの演説、感動しました!」
「ハク様!ぜひお手合わせを!」
「ハク様!」
「ハク様!」
多くの獣人の参加者に囲まれて困ったような笑みを浮かべるハクさん。特に明言はされてなかったが、やっぱり参加してたのか。
開会式の時とは違い、動きやすそうな服と最低限の防具を身に着けている。背中に背負う一対の剣が身軽そうな彼女に合っている。
「みな、わざわざの挨拶感謝するぞ!お互い、死力を尽くしてぶつかり合おう!」
無難に言葉を返し、適当な椅子に座るハクさん。自然と囲んでいた連中もその周りの椅子に座りだした。
一方。そんな人の集まるハクさんとは別の意味で目立っている者がいる。
「……………」
一番前の席の隅っこ。部屋の一番奥の席に黙りこくって座るそいつは、およそこの空間、いやこの世界に似つかわしくない恰好をしていた。
紺色の全身タイツのような身体に張り付く服……ライダースーツ?プ〇グスーツ?を身に着け、さらに肩、腰、脚などあらゆる部位にロボットのパーツのような白い機械がついている。
フルフェイスのヘルメットをかぶっており、顔の部分も奥が見えないミラーガラスになっているらしく表情が読めない。わかるのは体のライン的に女性であるということくらいだ。
明らかに異様な風貌のそいつの周りには誰も座っていないが、本人は全く気に留めていないらしく背筋を伸ばして座っている。
なんとなく俺たちはそいつの隣に腰かけた。
「隣、座るぞ」
無視。こちらを見ることすらせず微動だにしていない。
予想通りの反応なので気にはしない。
そのままハルカと取り留めもない話をしていると、会場にアナウンスの声が響いた。
『ご来場の皆さま、並びに参加者の皆さま、お待たせいたしました!これより、百年祭予選を開始します!申し遅れました、わたくしこの百年祭の総合司会を担当させていただきますホノカと申します!解説は中心都市クオンの冒険者ギルドで支部長を務めていらっしゃいます、コンゴウさんにお越しいただいております!』
開会式で司会者をやっていたお姉さんの声だ。
『コンゴウだ、今年は面白そうな連中が揃ってるから期待している。素人連中にも大会の見どころをきっちり伝えよう』
『よろしくお願いします!では参加者のみなさん、椅子には座りましたね?10秒後、魔道具を起動します。合図があるまで戦闘行動はお控えくださいね!』
その声が終わると同時に、部屋全体が光に包まれ、驚きの声がいくらか上がる。
ハルカがこちらを見てうなずく。俺が頷き返すと同時に、意識が一瞬薄れる感覚を覚えた。
「……やっぱりオーバーテクノロジーだよな、これ」
気が付くと、俺は草原の中にたたずんでいた。今のところ他の参加者は見当たらず、俺一人だ。もちろんハルカもいない。
少しの距離の場所に広めの池が見え、その反対側には森らしきものが見える。池側のさらに遠くには山のようなものも見え、この空間がどこまで広がっているのか想像もつかない。
疑似空間なんだろうが、それでもこれだけの規模のものを作れるものなのか?
『はーい!ホノカです!みなさん無事参加できたようですね!みなさんの様子はこちらで常に監視しているので、規約違反の行動はなさらないようお願いします!それから最後に確認を。この空間では痛みやその他の感覚はありますが、死んでも現実には影響ないのでそこはご心配なく!』
空から声が聞こえる。ひとまず戦いに関して遠慮はいらなさそうだ。
『では開始します!今回の参加者は412名!最後の8人に残るのは一体誰なのか!それでは……開始!』
ホノカさんの声が消える。開始とは言われたが近くに敵もいないし、ひとまず歩くか。
念のため抜いた剣を持ちつつ、池に向かって歩く。森は敵が潜んでいそうで怖い。
『早速脱落者が出ました!開始一分足らずですが、既に戦いは始まっているようです!』
『それぞれの開始地点は完全に無作為になっている。索敵能力の有無は、特に敵の多い序盤には重要になるだろうな』
ホノカさんたちのアナウンスが聞こえている。どうやら観戦者向けの実況解説は参加者にも聞こえるようだ。もう脱落者が出たのか。
10分ほど歩き池に到着すると、敵意を感じた。発生源は……池の中。
剣を持ったまま池に近づき、水を飲むような動作をする。こうすればおそらく……。
「隙あり!!」
水中から半裸の男が飛び出してきた。ギザギザとした刃の双剣で襲い掛かってくる。
「ふっ!」
事前にわかっていれば怖くはない。低い位置にあった剣をそのまま振り上げ、相手を下から切り裂いた。
真っ二つになった男が驚愕の表情で血しぶきをあげながら水に落ち、少し浮かんでから空間に溶けるように消えていった。
……うぷ。
実際に死なないのはわかっていても、人間を殺すのはやっぱりきつい。依頼で殺していた魔物は獣の外見だったし、どこか非現実的なものを感じていたので平気だったんだが……。
いや、ある意味いい機会かもしれない。危険の多いこの世界で、正当防衛をためらってはいけない場面に遭遇することもあるはずだ。今この大会である程度それを克服しよう。
人殺しの感触に気分を悪くする俺に、声が聞こえてくる。
『おお!今のはよく反応できましたね!』
『襲い掛かった方もかなりうまく気配を消していたようだったがな。反応したボロボロ防具男がさらに上手だったようだ』
お。俺のことを話しているらしい。
……ボロボロ防具はほっとけ。
『さて、これで脱落者が50名となりました。これより戦闘エリアを縮小します!』
縮小?何も聞いてないぞ、そんな話。
『皆さんが気づかない程度の速度で徐々に空間が縮まっていくので、ざっくり言うなら敵に遭遇しやすくなります。時間ばっかりかかってもアレなので!』
もうオーバーテクノロジーには驚かなくなってきた。
とりあえず、敵に遭遇しやすくなったならもう少し場所を移したほうがいいかもしれない。池の周りは木や岩などの身を隠せる場所がほとんどないため、無駄に敵に見つかる可能性がある。第六感で不意打ちには合わないと思うが、念を入れるに越したことはない。
池からさらに開始地点の平原とは反対方向、開始地点から見えた山の方角に移動する。どこかしら有利な場所を確保しておきたい。
移動し始めて数分。岩場のような場所に出た。ごつごつとした岩がそこら中にむき出しになっており、ある程度身を隠せそうだ。
ただそんな岩場のひときわ高い場所に、一人で佇む人物がいた。燃えるような赤髪が特徴的で、背中には大槌を背負う大柄な男だ。
わざわざ目立つ位置に突っ立つその男に見つからないよう、岩の陰を進む。戦うにせよ戦わないにせよ、情報的優位を生かしたいのだ。
岩が崩れたりして音を立てないよう、足元に気を付けつつ慎重に歩く。
慎重に……慎重に。
顔。
俺が沿って歩いていた岩の陰から、見知らぬおっさんが現れた。互いの顔の距離はほぼゼロ。
「「うおおっ!?」」
お互いがお互いの存在に気付いていなかった俺たちは全く同様に驚いた。
だがそこからの攻防は一瞬で、武器を抜こうとした男の顔面にそのまま拳を叩き込んで男はノックアウト。気絶も敗北扱いになるらしく、男はスッと消えていった。
「びっくりさせるなよ……」
「だな」
頭上から声がかかる。当然というか、岩の上にいた男にはバレたらしい。
岩場からするりと降りてきた男は、背中の大槌を両手に携え、獰猛そうな笑みを浮かべてこちらを見る。
これは……一筋縄ではいかなそうだ。
「さあ、やろうぜ!!」




