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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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45話 砂漠越え(ズルあり)

百年祭が開催されるのはセツナ連合国の首都にあたる、中心都市クオンという都市である。

クオンという都市名は建国の母セツナの夫の名前らしい。そういえばセツナさんが女性だと初めて知ったな。


中心都市クオンはここから三つほど町を越えた場所にあり、その間はいずれも砂漠越えが必要らしい。

砂漠越え。当たり前だが、砂漠の中ではほとんど何の物資も手に入らない。食料はおろか、水すらないのだ。まともな準備もなしに突っ込めば、一日か二日で文字通り干物になる。

都市と都市の間がそれほど離れているわけではないが、何の目印もない砂漠では目的地に向かって歩けているのかもわからない。そして迷ったが最後、進むことも戻ることもできず死を待つのみとなる。磁石とかないのかと思ったがそれは何かと聞き返されてしまった。


これらの要素により、砂漠越えはベテランの商人や案内人がいなければ不可能な一大事だったそうだ。かつて獣人の国がバラバラだったのはそういった交通の不便さによるところもあったという。


では今はどうか?さすがに準備なしに突っ込めば危険なのは変わらないが、それでも大きな改善があった。なんと、都市の間を繋ぐ岩の壁を作ったのだ。

つまり、二枚の延々と延びる岩の板を都市と都市の間につなげ、その間を道路として使うことで迷うことをなくしたということだ。

これなら少なくとも砂漠で迷って詰むことはない。

そして通る道がわかっていればかかる時間もわかる。であれば物資も可不足なく用意できる。

おまけに夜には寒くなる砂漠の冷たい風を防ぐこともできる。いいことづくめだ。


砂漠に岩の壁を作るなんてどうやったのかと思えば、魔術によるものらしい。当時の魔術王国と、その国最高の土魔術使いの協力を得て数年かけて完成したものだそうで、すべての都市を繋げているわけではないが、それでも国内の交通の弁は格段によくなったという。




「……と、いうことで、迷う心配はないってことだ。そこで俺にいい考えがある」

「いい考え、ですか?」

「そうだ。迷うことがないとはいえ、ついこの間まで引きこもりだったマリアに砂漠を何日も歩かせたくない」

「お気遣いどうも。で、いい考えって?せいぜいラクダを借りるくらいしかこれ以上楽にしようがなくない?」


それぞれの都市の間は多少の差異はあれど大体徒歩で2,3日らしい。この世界にもラクダはいるらしく、それに乗ればもっと短く済むそうだ。


「そんな金はないんだな、これが」

「えっ、そんなにですか?」

「そんなにだ。まあ無理すれば借りれなくはないが、その場合次に収入を得るまでボロ宿生活だ」

「依頼を受けてとりあえずお金を稼ぐっていうのは……」

「それだと百年祭に間に合わないわ。開催まであと10日くらいだって話だし、急いで出発してギリギリよ?」


思いの他切羽詰まった状況に、二人の顔に焦りが浮かぶ。


「まあそんなわけで、俺の案を聞いてくれ。とりあえず行くべきところがあるから行くぞ」

「え、ええ。わかったわ」


このままではらちがあかないので、俺の案をさっさと実行することにした。





「……ちょっとショウ?」

「なんだ?」

「本当に案があるのよね!?」


視界に延々と延びる白い岩の壁。煌々と照る砂漠の日差しは、岩の壁でできた影を通ることである程度緩和できる。

そう、俺たちはあのまま砂漠越えを開始したのである。

しばらくは黙ってついてきていたマリアだったが、我慢できなくなったらしい。


「もちろんだ。一応ここらで確認を兼ねた実験をしておくか。ハルカ。これ持っててくれ」

「はい。あれ?これって……」


俺はハルカに見慣れてきた水晶……望郷の指輪の子機を渡す。


「じゃあ、2、30分で戻る!」

「え、きゃあ!」


俺はマリアの腕をつかんで望郷の指輪を使い、親機に転移した。




「……え?ここ、どこ?」

「俺たちの家、みたいな場所だ」

「なに、どういうこと?さっきまであたしたち砂漠の真ん中に……」

「落ち着け。ちょうどいい機会だ。これまで話せてなかったこと……俺の正体についても色々話しておきたい」

「……ええ。わかったわ。とりあえず、聞かせてちょうだい」


突然知らない場所に移動したことに大いに驚くマリアを落ち着かせ、俺は自分に関することや、旅に出た理由などを話した。さすがに別の世界出身であることは伝えず、自分の過去については記憶喪失ということにしているが実際は話してないだけでハルカを始めとした親しい人にはバレていることと伝えておいた。


「なるほどね。いろいろと納得したわ。あの時あたしを助けてくれたのはその指輪のおかげだったのね」

「そうだな。これには結構助けられてる」

「でしょうね。でも、なんでそれなら宿の心配してたの?」

「え?」

「だって適当な場所に子機を隠しておいて、この親機に戻ってくれば宿に泊まる必要ないじゃない」

「………………忘れてた」

「あんたって、時々変なところで抜けてるわよね……」


あきれ顔のマリアを連れ、俺は子機に転移した。





「ええ……私はてっきり大事なものだからそういう使い方をしたくないのかと……」

「あ、いや、それも少しはあるぞ?」

「嘘ね」

「うぐ……」


ちょっとした災難はあったが、ひとまず進み方は決まった。日焼け止めのおかげで日差しもそれほど気にならない。

岩の壁の間は余裕をもってか、一般的な馬車3台分ほどの間がある。さっき気がついてはいたが、岩の壁は白く塗られているようだ。そのおかげで岩そのものもそれほど熱くなってはいないらしく、影を通れるくらい近づいても直射日光を防げる分いくらか涼しい。




転移によるズルだが、基本的に夜寝るとき以外は使わないことにした。

昼間に何度も使っていたら誰かに見られる可能性があるからだ。人通りが多いどころか、出発してから人を見たのはすれ違う馬車を一度見たくらいだが、念のためだ。


だが夜をしっかり休めるだけでもかなり楽だ。

店に戻れば水も風呂もベッドもある。旅に出るときに食べ物は処分してしまったので食糧はないが。

店から出ることは無しとした。俺は赤い目が、ハルカは犬耳と尻尾が、マリアは金髪と蒼い目が目立つ。変に公都ワモスにいた痕跡を残せば、俺たちの居場所について不自然な点があることが知られるかもしれない。マリアの存在が知られるのは論外だし、転移について知られるのも相当まずい。


これらはすべてマリアの提案だ。マリアの存在は特にもともとマリアの住んでいた公都ワモスではバレやすいだろうしそこはわかるのだが、転移についてばれるのがどれほどまずいことなのか今一つわからないでいた。確かにすごい技術だし、人目に付かない方がいいとは思っていたが、好きなところに転移できるわけではないし、これくらいの魔道具ならあるところにはありそうなものだが。


そう言うとマリアに今日何度目かのあきれ顔をされた。

なんでも今この世界に転移の魔術を使える人物は一人しかいないそうだ。冒険者ギルド所属の女性で、白金級冒険者の一人らしい。死の大陸との行き来を現実的に可能にした功績で白金級を与えられたらしい。

世界で一人しか使えない技術を再現できる魔道具なんていくらの値が付くかわからない。国を相手に競りにでもかければ少なくとも一生生きていけるだけの金を得られるだろうとのことだった。


それにしても、白金級と聞くととんでもない戦闘力の化け物を想像していたのだが、少なくともその一人は戦闘より支援を主にしていると知り、少し驚くと同時に妙なリアルさを感じた。

まあそうだよな。一人で百人分戦えるより、戦える人間を何人でも送り込めるシステムを構築した方が長期的に見て優れているだろう。


そんな話をしながら、砂漠を先に進む俺たち。百年祭はもう間近に迫っていた。





夜。ハルカが風呂に行っている間、マリアと話をする。


「そういえばさ、ずっと気になってたことがあるんだけど」

「なんだ?」

「あんたとハルカってさ、夫婦だったりしないの?」


あまり考えていなかったことについて、マリアに問われる。まあたしかに、男女二人がコンビで仕事をしていたら何かしらの関係を想像されても仕方ないか。


「しないな。少なくとも、今のところは」

「へえ~、今のところはね?」


俺の返答にマリアがニヤニヤしている。

そりゃあ、まんざらでもないさ。ハルカは素直で真面目で、俺を何度も助けてくれた恩人でもある。しかもかわいい。


ただ、俺は魔物だ。魔物は老いない。そして子供も成すことができない。

俺がどう思っていようが、俺が彼女を幸せにすることは難しいだろう。諦めのこもった笑いがこぼれる。

ただもし、もしも俺がこの旅で魔物から人間になれる手段を見つけられたなら、その時はきっと……。






風呂場。浴槽に貼られたお湯が、犬耳の少女の尻尾でかき混ぜられる。ヒト族の数倍優れた耳はピンとはり、聞こえてしまった会話が何度も頭の中で反響していた。



(今のところは、今のところは、今のところは…………!)



のぼせてしまったらしい少女の顔は、彼女が今頭に浮かべている青年が見れば心配するであろうほど、真っ赤に染まっているのだった。


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