43話 セツナ連合国へ
プロットが若干定まり切っていない第3章、始まります!
「暑いわ」
「暑いな」
「暑いです……」
王都ヨンドを出て二日。勢いのままマリアの指さした方角に向かって進む俺たちは、突き刺すような暑さにゲンナリしていた。
気分が盛り上がっていたとはいえ、行き先がどこかも確認せずに歩き出したのはまずかった。せめて次の町までどのくらいの距離なのか確認すべきだったな。一応俺のポーチの中にはあと三日分の食料と水が入っているが、この暑さだと水が足りなくなるかもしれない。
「ねえ、今あたしたちってどこに向かってるの?」
「えーと、方角的にはヨンド王国の南西なので……セツナ連合国方面ですかね?」
セツナ連合国。見習い冒険者研修で学んだ内容を思い出す。
今から約100年前、邪神到来による世界的な瘴気と魔物の大量発生に、当時バラバラだった獣人の小国たちが寄り集まってできたのがこの国だ。
当時それらの国をまとめ上げたのがトラ族の長、セツナだったそうで、圧倒的な武力とカリスマで他の大国と遜色ない連合国を形成したという。
地理的には死の大陸から最も離れた位置にあるが、力を重んずる文化が広くあるそうで、優秀な冒険者を多く輩出している。
と、このくらいだったはずだ。あとは砂漠の国とも教わったな。
……ん?ということはもしかして、俺たちは今から砂漠の国に何の準備もなく入り込もうとしているのか?
「……引き返すべきか?」
「おおーい、あんちゃんたち!」
身の安全を考えて引き返しを検討していると、後ろから迫る誰かに声をかけられた。
振り返ると、馬車に乗ったイヌ族の青年が近づいてきていた。
「いったいどうして徒歩でこんなところ歩いてるんだ?みたところ冒険者みたいだけど、よかったら乗ってくかい?」
「いいの!?ありがとう、お言葉に甘えるわ!」
親切な青年に礼を言い、馬車に乗せてもらう。青年は商人らしく、荷車には商品らしき木箱が詰められていた。
「狭くてごめんな。半日もあれば自治区につくから我慢してくれ」
「いやいや、助かる。ありがとうな」
「どういたしまして!」
イヌ族の青年のしっぽが揺れる。外見もそうだが、なんとなく雰囲気がハルカに似ているな。イヌ族はみんなこんな感じなのかもしれない。
イヌ族の青年の名前はアサマというらしい。王都ヨンドからの帰りだそうで、見立て通り商人をやっているそうだ。
「目的地もわからず歩いてた?あはは、おかしな人たちだなあ!」
「あはは、ちょっと盛り上がっちゃってまして、勢いで……」
あまりこの暑い地域を徒歩で移動する人はいないらしく、理由を聞かれたので答えたが、案の定笑われてしまった。
「それにしてもショウ、あんたの防具はぼろぼろだな。買い換えないのかい?」
「ああ、機会があれば買い換えたいんだが、金がな」
アサマが俺の方をちらりと見て言う。そう、俺の防具は先日の戦いでぼろぼろになっているのだ。酸の霧に突っ込んだので無理もないのだが。
そして今の俺は金があまりない。これまでの依頼での報酬金はリイドの墓を作ることで随分使ってしまった。今すぐ生活に困るほどではないが、防具を買い替えるほどの余裕はない。
「お金かあ。そういえば、ショウたちは百年祭に参加しにきたんじゃないのかい?」
「百年祭?なんだか素敵な響きね。それはなあに?」
アサマの質問にマリアが食いついた。祭りがあるのか?
「百年祭はその名の通り、セツナ連合国の建国百周年を祝うお祭りさ。中身は毎年恒例の武術大会みたいだけど、今年はすごい賞品があるって噂だよ。あとはいつもと違う催しもあるとか」
「へえ~、なんだかワクワクしますね!ちょっと興味あります!」
「お祭り!ねえショウ、行きましょう?いいでしょ?」
「祭りか。たまにはそういうのもいいな」
マリアもハルカも興味津々のようだ。
この世界に来てからほとんどが働きづめで疲れてきたところだし、俺もたまには羽を伸ばしたいところだな。あと武術大会にも少し興味がある。マリアがいる以上あんまり目立つのも微妙なので出るかは別だが。
そんな話をしつつ時間は進み、俺たちは一つ目の町に到着した。
「ようこそ、イヌ族自治区三番街へ!大したものはないけどゆっくりしていってくれ」
入り口で身分証を提示して中に入る。俺とハルカはギルドカード、マリアはヨンド王国の市民権を示すカードを提示した。
町に入り、馬車を降りる。半日近く同じ姿勢でバキバキになった体を伸ばしている俺たちにアサマが声をかけた。
「無事についてよかったな!じゃあ、オイラはこれで!」
「ちょっと待ってくださいアサマさん、これだけお世話になったんですから、何かお礼をさせてください」
「お礼なんていいのに。そうだな、じゃあ今度オイラの店に遊びに来てくれよ!いや正確には父ちゃんの店だけどね」
そう言うとアサマは紙にさらさらと地図を描いて手渡して去っていった。
結局ほとんどお礼をしていないような気がするが。金はそれほどないが、できる限りの買い物をしよう。
◇
「どうします?いきなりアサマさんの店に行ってみますか?」
「それもいいけど、先にこの町を見て回らない?さっき気になるお店を見つけたの!」
「そうだな、じゃあ今日は自由行動で、明日アサマの店に行こう」
宿を取ってすぐ、旅が始まって最初に訪れた町に興奮気味のマリアの提案で自由行動をとることになった。気になった店というのは服に関する店らしいので俺は別行動とした。
そういえばギルドに移動した報告をしないと。ギルドを見つけることを一応の目的としつつ、町をうろつくことにした。
街並みはこれといって変わったところはないが、これまでのヒト族の王国と違い、獣人がとても多い。さらに言えば、道行く人の8割はイヌ族だ。
視界に尻尾がちらつく。うん、触ってみたい。
さらに気になったのは服装だ。なぜか道行く人のほとんどが薄着で、肌を大きく見せる服装が多い。暑いのは間違いないが、日差しの強いこの地域でそんな格好だと日光で火傷しそうだが平気なのだろうか?
不思議に思いながら町を歩いていると、ありえない光景を目にした。
「……トラック?」
そう、剣と魔法の世界にふさわしくないトラックのような車両が道の端にとめられており、近くの店から物資を運び入れていたのだ。
それも宅配便で使うようなトラックではなく、ニュースやその手のゲームでしか見たことのないような軍用トラックだ。ごつい車体に大きく黒いタイヤが威圧感を放っている。
「すげえな、あれが機械帝国のクルマってやつか?」
「なんだかおっかないな……あんなものが自分で動くんだろ?」
俺のようにトラックを見ていた人々がやや不安そうな様子で話しているのが聞こえる。
無理もない。似たものを知っている俺とは違い、この世界を生きていた人間が初めて車両を見たら、その衝撃は相当のものだろう。
しばらくしてトラックは去っていき、俺もその場を後にした。
元の世界を思い出して動揺したものの、ここは俺の知らない世界。そういうものかと受け入れることも重要だと思う。
しばらくしてギルドも見つかり報告を済ませた……のだが。
立ち去る前に受付のお姉さんに呼び止められた。
「ショウさんにお手紙が二通届いています」
「二通?誰からです?」
「ええと、ヨンド王国のシスという方と、ファリス王国のダズという方からですね」
「え、ダズ?」
シスさんからは問題ない。実はカルロ王子から言い渡されたマリア同行の条件の一つが定期的な手紙のやり取りで、それはシスさんを介して行われる予定だったからだ。
だがダズはなんだ?突然手紙を送ってくるなんて、何の用だろう。
……というか。
「あの、自分がここにいると知らないはずの友人からの手紙がここに届いているのはどういうことですかね?」
「さあ?配達人ギルドは謎の多い組織ですから」
「謎すぎやしませんか……」
配達人ギルドの謎の技術に戦慄しつつ、俺はその場を後にした。




