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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第2章 聖女マリアとエルフの里
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41話 言葉は剣より重く

時間的に余裕がなく、本文の見返しが甘いかもしれませんがご了承ください。

「ショウさん、私、旅に出るって決めたときワクワクしてたんですよ。きっとこれまで考えたことも無いような場所に行ったりするんだろうなあって」

「はあ」

「でも、これはちょっと予想外でしたね」


王都が魔物の大群に襲われた翌日。俺たちは王城の前に来ていた。

世界史の資料集やファンタジー作品でしか見たことのないような石造りの巨大な城。全体的に質素な外観で、美しさより耐久性や管理のしやすさといった実用面に力を入れた城づくりだと感じた。比較対象がないのであくまで印象だが。


「緊張します……あの、やっぱり明日にしませんか?きっとカルロ王子も昨日の今日で忙しいでしょうし……」

「すいません、カルロ王子に出向くよう言われてきた者ですが」

「聞いてない……」


多分ここで先延ばしにしてもキリがないのでさっさと門前の兵士に声をかける。


「ふむ。赤い瞳の男に、イヌ族の少女……話は聞いております。こちらへ」


正門からは入れてもらえないようだ。横に備え付けてある人一人分の小さな扉から中に入る。

兵士に案内されるまま進むと、一つの部屋に通された。内装は外観の印象通りそれほど豪華ではないが、よく掃除されているのであろうと感じる清潔感があった。


「こちらでお待ちください」


兵士が出て行って数分。ガシャガシャという足音が近づき、部屋の扉を開けた。


「やあ、ショウ殿、ハルカ殿。わざわざ来てくれてありがとう」

「いえ。しかし今日は昨日についての詳しい話を聞かせてほしいとのことでしたが……なぜ王子自ら?」


現れたのはカルロ王子だった。そばには二人の騎士が控え、警戒の目を光らせていた。


「それについては後で話そう。ひとまず、昨日の一件について聞かせてほしい」

「ええ、お話ししましょう」


俺は王子に昨日の戦いに至るまでの経緯、そして男との戦いの一部始終を、望郷の指輪や俺の正体についてなどを除いて話した。




「ふむ……おおよそマリア嬢やシス殿の話と変わらないな。正直に言えば、君という人間にも興味が尽きないが。それほどの力を持ちながら、なぜ今まで無名だったのか。何か事情があるんだろう?」

「ええ、まあ……」

「安心してくれ。君を疑ったりはしていない。首謀者の男の目撃情報は王都中で聞いている。それを倒した君を疑うようなことはしないさ。それに、もし後ろめたいことがあるなら今ここにきているはずがないしね」


それはどうだろう。後ろめたいことがあっても、身の潔白を証明するためにあえて出頭する可能性はあると思うが。

まあともかく、疑われていないならそれでいいだろう。


「あ、あの。それで結局、どうして王子様がいらしたんですか?」


ずっとカチコチに固まっていたハルカが、ようやくこの空間に慣れてきたのか口を開いた。


「今まさにその話をするつもりだったんだ。昨日の一件で、この王都には小さくない被害が出た。これはこの国の単純な弱体化以上の意味を持つ。国内の反乱の可能性や諸外国の介入といった恐れを生み出した。そして父上……王は、私に一定の裁量を与えてくださった。そしてその一つは軍と騎士団の管理だ」


カルロ王子がこちらの目を見て続ける。


「単刀直入に言おう。我がヨンド王家に仕えるつもりはないかい?もちろんこちらから申し出た以上、それなりの地位は保証するし、それに見合った報酬も出す。この国には、単体で戦力となるような存在が少ない。君たちのような人材が必要なんだ」


なるほど、勧誘のためか。ここで王子自ら出向くことで本気度を示そうとしているのだろう。それだけ俺たちの実力を買ってくれているのか、見知らぬ冒険者でも雇いたいほど人材不足なのかはわからないが。

とはいえ、俺の答えは決まっている。


「大変ありがたいご提案ですが、我々は根無し草が性に合っているので」

「即答か、残念だ。ハルカ殿だけでもどうかな?」

「私も、遠慮します。ごめんなさい」

「そうか……」


本当に残念そうな、しかし驚いた様子のない王子が宙を見上げた。


「いや、なんとなく断られる気はしていた。気にしないでほしい。では最後の話に移ろう」

「え、まだ何かあるんです?」


ハルカがやや失礼ともとれる反応をしてしまった。どうやらかなり疲れが出ているようだ。


「なに、そう警戒しないでもいい。最後の話というのは、今回の働きへの報酬の話だ」

「報酬?」


今回の俺たちの戦いは誰かからの依頼によるものではない。報酬をもらうような筋合いはないように思える。


「君たちが自分たちの都合で戦っていたとしても、君たちの活躍によって王都の被害が最小限に抑えられ、マリア嬢という国の重要人物が救われた。これで褒美の一つもなく帰したとなれば、我々が恥をかく。ぜひ何かしらの礼をさせてほしい」


褒美、か。唯一ほしいものがあるが、もらえるかは怪しいな。だが提案しないという選択肢はない。


「では、一年の時間をいただけませんか」

「一年?なんの一年だい?」


突然の俺の発言に、王子が意図をつかめず困惑する。

頼むから冷静に交渉させてくれと願いつつ、言葉を続ける。


「マリアの一年です」

「ショウさん!?」

「……何だって?」


王子の困惑の表情に、警戒の色が混じる。突然上がった自分の婚約者の名前に不穏なものを感じているのだろう。

ハルカも驚きの声を挙げる。だがもう止まれない。ここで止まればマリアは一生このまま籠の鳥だ。


「我々の旅に、彼女を同行させてください。その期間が一年です」

「……本気で言っているのかい?」

「はい。本気です」


その国のトップになろうという人物の婚約者を、一年危険な旅に連れ出させろという要求。普通に考えれば常識知らずもいいところだ。失礼とかいう次元を超えている。


「ふう。まさかそう来るとはね……。とにかく、その話をするなら本人がいないと始まらないだろう。マリア嬢をお呼びしよう」





昨日の一件でのショックを受けているであろうマリアを心配してか、またしても王子自らマリアを迎えに行った。

隣に座るハルカが俺に耳打ちする。


(ショウさん、ごめんなさい。私、今回は力になれそうにないです。ちょっと気分が悪くなってきました…‥)

(わかった。無理しなくていい。何の相談も無しにこんな話にしてごめんな)

(いえ、私もこの話が通るならそれがいいと思います。もちろん、マリアさんの意思次第ですけど)

(そうだな。まあ、なるようになるだろ)


完全ノープランで切り出した交渉。俺もハルカも権力者相手の交渉の経験などない。ハルカに至っては緊張で具合が悪くなってきているようだ。

部屋のドアが開かれる。


「ショウ……さん」


王子の前で、俺への態度を決めかねるマリア。不安に満ちたその表情の裏に、どのような考えが渦巻いているのかは想像しきれない。


頼れるのは自分のみ。剣より重い言葉のやり取りが始まろうとしていた。




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