40話 一心
今回もルビを使っています。おかしくなっていたら後で修正します。
男の槍が迫る。しばらくいたぶるつもりか。いい性格してるな。
槍の穂先が俺の体に突き刺さる瞬間――――
「おおおおっ!!」
黒い影が視界を覆った。次に目に移ったのは……燃える斧。
「何っ!ぐうっ!」
男が槍で斧を受け止める。だがかろうじて受け止めただけの斧は男のすぐ近くにまで迫り、発する炎で男の皮膚を焦がしていた。
「がああああ!!てめえ!!死にぞこないがあ!!」
「誰かに執着するなら、他への注意は散漫か!舐めるな、賊めが!」
襲い掛かったのはシスさんだった。だが依然と違うのは、その左腕がどこにもないこと。
俺が来るまでの男との戦いで失ったのだろう、片腕での攻撃は魔物の身体能力を持つ男に届かず、さらに徐々に押し返されていた。
「人間風情が、この俺に、逆らうんじゃ、ねえ!!」
「でも、魔物にも弱点はあるわよね?」
「な……!?あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???」
男の体に光の玉が触れる。すると男は猛烈に苦しみだした。聖魔術だ。
視線を向けると、そこには手帳を開き、男に手をかざすマリアがいた。
「まだだ、まだだ、まだだ!」
男はシスさんの攻撃を押し返しながら尻尾で自らの懐をまさぐり、黒い液体の入った注射器らしきものを取り出すと、そのまま自らの脚にそれを突き刺し、黒い何かを注入した。
すると男は見る間に力を取り戻し、シスさんの攻撃を完全に押し返した。そのまま鍔迫り合いのような形で押し合う。
「おらあ!!調子に乗りやがって、ゴミどもが!!絶対にみなごろ」
「うるさい人ですね」
怒りに激昂する男の左胸に、矢が突き刺さる。誰が撃ったのか……考えるまでもない。
「て、てめえ…………」
「急所ですよ、観念してください」
ふらつく男が、しかしそのまま押し合っていたシスさんを弾き飛ばすと、矢を胸から引き抜いた。
「お前らゴミと一緒にするな!魔石が左胸にあるなんて誰が決めたんだバカが!」
男は怒りのままにハルカに視線を向ける。
「なあ、誰か忘れてないか?」
「――――てめえ!!」
男にやられた毒は抜け、刺された脚は治った。なるほど、俺もしっかり化け物だ。
男は起き上がり剣を構える俺に槍を突きだし、それは回避不能の攻撃となって俺に突き刺さった。
「は、は、は!そうさ、俺の攻撃は必中!お前に勝てる見込みなんて……」
「ああ、当たったよ、死なないけどな」
今のこいつの攻撃は必中。確かに当たったが……。
男の槍を突き出した左腕で受けた俺は、そのまま男の槍を左手でつかんだ。
「な、なんだ、なんだよそれ。お前、痛くねえのか?苦しくねえのか?」
「痛いに決まってるだろ」
「ば、バケモンが。そんな戦いかた、いかれてやがる」
「ああ、化け物だよ。心は弱いままなのに、肉体ばっかり強くなった。お前もそうだ」
剣を、男に向けて突く姿勢で構える。俺が見つけた、唯一の技。
「だからお前はここで死ぬ」
「嫌だあああああああああああ!!!!!」
「『一心』」
俺の第六感は、目に見えない脅威も感知する。
脅威の根源は、すなわちその脅威の急所。俺にだけわかる、見えない急所。
未知の敵の芯を、そして心を貫く。一撃で。
俺の渾身の突きが、男の右胸を貫いた。
「終わった……の?」
「……ああ」
マリアのつぶやきに答える。核である魔石を破壊され、男は動かなくなった。
その顔はまさに、男の言っていた「死ぬときの顔」をしていた。
「……やっぱり理解できないな。何が楽しかったんだ?」
「いいんですよ、理解できなくて」
もやもやとした気持ちをこぼす俺に、ハルカが声をかける。全くその通りだな。こんなこと、一生理解できなくてかまわない。
「シス!大丈夫!?」
「ご心配には及びません、少々疲れただけです」
片腕を失いながら男に食らいついていたシスさんがその場に座り込み、マリアが駆け寄る。
「お借りしたポーチのポーションで、シスさんだけは助けられたんです。他の方は心臓を貫かれていたみたいで……残念ながら……」
「……そうか、ありがとう。あの女の子は無事か?」
「はい。隅に隠れているように言いましたから大丈夫です」
「ならよかった。さっきは助かったよ、ハルカ」
「いいんですよ、当然のことをしただけです」
「マリア嬢!!ご無事ですか!!」
バルコニーに、騎士らしき甲冑姿の集団を連れた人物が現れた。他の騎士に比べて華美な鎧を身にまとったその人物は、こちらを視界に入れると警戒をあらわにした。
「赤目の男……貴様が首謀者か!!マリア嬢から離れろ!!」
「えっ?」
何やら盛大な誤解をされているようだ。両手剣や斧槍で武装した騎士たちが、俺とハルカを取り囲む。
「お、お待ちください!それは誤解です!彼らは敵ではありません!」
「マリア嬢。しかし、町では赤目の男がばらまいた石から魔物が出現したと……」
「この方は違います!むしろ、私たちをその首謀者から救ってくれたのです!首謀者の男ならあそこに……え?」
マリアが言葉の途中で怪訝な声をあげる。視線の方向を見ると、確かに倒したはずの男の遺体が消えていた。
「あそこに、とは?」
「と、とにかく!彼らは違います。私が保証します!」
「私も保証しましょう、カルロ王子。彼らは以前マリア様の護衛依頼で知り合った冒険者、ショウ殿とハルカ殿です。どうかお収めください」
「……ふむ。どうだ?」
「大丈夫です。闇魔術の痕跡はありません。精神干渉の魔術の心配はいらないでしょう」
マリアとシスさんの様子に対し、王子と呼ばれた人物がそばの騎士の一人に確認を取る。武闘派な鎧を着こんでいるが、あの騎士は魔術師か。
「お前たち、武器を収めろ。失礼した、ショウ殿、ハルカ殿。私はカルロ・ヨンド。このヨンド王国の王子として国政の一端を担っている者だ」
「い、いえ!私はハルカ。銅級冒険者です!冒険者として日々頑張っている者です!」
「初めまして、ヨンド王子。ショウと申します」
想像よりずいぶんフレンドリーに王子が声をかけてくる。ハルカが緊張のあまり余計なことまで言っている気がするが気にしない。
「早速ですまないのだが、首謀者の男というのはどこにいったかわかるかね?」
「それが……さっき自分が倒したはずだったのですが、遺体がなぜか消えてしまったようです」
俺の返答に、王子は一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに言葉を続けた。
「……ふむ。今は他に優先すべきことがあるか。ショウ殿、ハルカ殿、ここで何があったか後で話を聞かせてほしい。近く王城へ来てくれ。マリア嬢とシス殿はひとまず王城へお連れします故、我々と共にお越しください」
「ええ。ショウさん、ハルカさん、またお会いしましょう」
王子はマリアをとシスさんを連れその場を去ろうとした。
「あ、あの、私はどうすれば……」
「あら、ごめんなさい。カルロ王子、彼女は私の身の回りの世話をしてくれていた娘です。連れていっても構いませんか?」
「もちろん。さあ参りましょう」
マリアに庇われていた少女がおそるおそる現れ、マリアに連れられていった。
「いったん町の様子を見て、問題なさそうなら宿を探すか。王城には明日にでも行こう」
「はい。……それにしても、あの男の遺体が消えてしまったことが気になります」
「……今は気にしても仕方ない。詳しくは明日王子と話しながら考えよう」
勝つには勝ったが、すっきりとしない終わり。
俺たちは胸につっかかりを残したままその場を後にしたのだった。
◇
「ちくしょう、ちくしょう、いてえ、いてえ……」
「油断大敵」
王都ヨンドの、路地の裏。外の騒ぎもあり、人の往来が無いその場所で二人の人物が身を隠していた。
「一度帰還。我らの故郷」
「あいつ、あいつ。覚えたからな。絶対に、許さねえ」
「……前途多難」
二人の姿は地面に現れた陰に飲み込まれるようにして消え、そこには静寂だけが残ったのだった。




