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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第2章 聖女マリアとエルフの里
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39話 覚醒種

今回、ルビ振りに挑戦しています。投稿後おかしな部分があれば修正します。

剣を真上に振り上げ、振り下ろす。ただし振り下ろしは真っすぐではない。弧を描き相手の胴体に横から迫る切りつけだ。

男は振り下ろしを防ぐため横向きにして頭部を守っていた槍をとっさに縦にして胴体を守り、俺の初撃を防いだ。

俺はそのまま剣を振りぬき、男を吹き飛ばす。体への直接の斬撃を防ぐので精一杯だった男はほぼ抵抗なく吹き飛んだ。


「おっ…!ごっ…!」


今度は足を止めない。そのままさらに突っ込み、壁に衝突した男に剣を突き刺しにかかる。

危機を察知したらしい男が手をこちらにかざすと、何か霧のようなものが吹きだした。


脅威を伝える第六感に従い追撃を止め、様子を見ると、霧に触れた床がブスブスと音を立てて溶けている。酸……いや、毒か?魔術の類であることはわかるが、正確な分析はできない。


男は霧に触れてもなんともないらしく、打ち付けた体を労わるように起き上がった。


「いてえ……いてえ。なんだこいつ、なんでこんなやつに」


まずいな。あの霧がある限り近づけない。何か対策を考えないと。


「俺は特別、特別なんだ……こんなところで死ぬわけがねえ」


ぶつぶつとつぶやきながら全身から霧を出し続ける男をよそに、俺は床を殴りつける。砕けた床の破片からこぶし大のものを拾う。

距離は……20メートル。余裕だな。手加減なしで破片を投げる。


「はっ!?おぐっ!」


こちらから意識を逸らしていた男の顔に直撃し、男の鼻から血が噴き出ると同時に霧が止まる。チャンスだ。

まだ残った霧を警戒して目を閉じて突っ込む。

第六感がある限り、俺は視覚に頼らなくても戦える。多少皮膚が焼けるが気にしない。


「来るな!来るな!ああああ!」


男は半ばがむしゃらに槍を突いてくる。速さはあるが、それだけだ。避けつつ相手の懐に飛び込み。胸倉をつかんで投げ飛ばす。すでに皮膚のいくらかがただれている。あまり長くこの霧の中にいたくない。


「うわああああ!」

「いちいちうるさい」


霧から飛び出した男に連続で切りつける。速さより重さを重視した連撃を男は槍でガードし続ける。

振り下ろし、薙ぎ払い、突く。この一か月弱で幾度となく繰り返した剣術の基礎。それぞれの攻撃が一つになり、徐々に男を追い詰める。


そもそもこの男、反射神経や身体能力は俺とほぼ互角だが、武器の扱いはほぼ素人のそれだ。さらに言うなら、槍のリーチとこの男の霧の魔術は相性がいいはずだが、この男はそれを活用できていない。実戦経験の少なさが如実に表れている。


必死に攻撃を防ぐ男に生傷が増えていき、動きが鈍くなっていく。

ついに攻撃を防ぎきれなくなってきた男の右腕を、持っている槍ごと切り飛ばす。傷だらけの腕が、遠くでべしゃりと転がった。

男に剣を突き付ける。


「終わりだ。諦めろ」

「ぐ、お、お、お…………」


男が切り飛ばされた腕のあった移置、その傷口を押さえている。魔物に失血死があるのか知らないが、本能だろう。

男が苦痛に満ちた顔で口を開く。


「お、お前、なんで人間なんかに肩入れすんだよ。お前も、人間に恨みがあるんだろ?『覚醒種(アウェイクド)』の奴はみんなそうだ。お前もそうだろ?」

「……なんの話だ?」


突然の話についていけない。人間に恨み?『覚醒種』?知らない情報を前提とした語り口に疑問しかない。

そんな俺の様子を見て、男の顔がいやらしい笑みに変わる。この期におよんでまだ何かあるのか?


「お前、もしかして……記憶がないだろ?」

「記憶?」

「人間として生きてきた時の記憶だ。なんだよ、お前それすら知らねえのか。なら……これも知らねえな?」


会話を唐突に打ち切り、男が再び霧を吹きだす。先ほどより更に濃い霧が猛烈な勢いで範囲を広げる。

やはり要領を得ない話だが、何らかの解釈が男の中であったらしい。

俺はとどめを刺さなかったことを後悔しながら後ろに下がる。


吹き出す霧の中からカラン、と何かが転がる音が聞こえると、すぐに霧が止まった。


「はぐれの『通常種(ノーマル)』が俺を怒らせたこと、後悔させてやるよ」


バルコニーに吹く風で霧が晴れていく。

割けた口、ぬるりと伸びた尻尾、うろこに覆われた体。

人と蜥蜴をまぜたような魔物がそこにいた。



「お前の死に顔を見せろ。……《執着》」



男の目がさらに赤く光ると、全身に悪寒が走った。なにか、致命的な何かをされたような、それでいて全身を何かがはい回るような感覚を覚えた。


「何をした」

「死ね」


もはや会話に応じる気のなさそうな男が腕をこちらに向け、バランスボール大で紫色な液体の球を撃ちだす。おそらくさっきの酸の液体版だ。気体でも普通にダメージを受けるなら、液体のものを受ければタダではすまない。

だが弾速は遅い。一般人が投げるボール程度の速度だ。

念のため大きめに迂回して避け……!?


かわしたはずの球は俺めがけて軌道を変えた。後ろから迫るそれを避けるが、やはり追ってくる。


「ひゃ、ひゃ、ひゃ!死ね!死ね!」


さらに追い打ちで男が2発目、3発目と球を放つ。

これ以上は避けきれない。先にこいつを仕留めないと!

踏み出す俺の前に新たな球が迫る。かわすしかない。


「――――っつ!」


迂回するようにかわした俺の移動先に既に次の球が置くように撃ちだされていた。俺は球と球の隙間に滑り込み――――


「ああ、楽しみだ。お前のはどんな死に顔かな?」


男の声がする。

俺の視界は既に、隙間に撃ち込まれた球で埋め突くされていた。





「教えてやるよ、なにが起きたか」


全身がしびれ、倒れ伏す俺に男がゆっくりと歩み寄る。自分の勝利を確信した、そしてそれを誇示したくて仕方ないという顔で。

男の腕はいつの間にかもとに戻り、その手には拾ってきた槍が握られていた。


「俺たちは要するに人型の魔物だ。だから体の基本構造は魔物とかわらねえ。魔石さえ無事ならちょっとやそっとじゃくたばらねえし、傷だって小さなものならすぐ直る。もっとも――――」


男の槍が動けない俺の肩を突き刺す。感覚がなくなり、動けなくなった体だが、痛みだけはなぜか感じ取れた。


「ぐっ……」

「痛みは消せねえ。それに腕が飛ぶだの、そういう大きな欠損までは再生できねえ」


槍を引き抜いた男が自らの元に戻った右腕を見せる。


「だが俺は蜥蜴の覚醒種。蜥蜴の特性を持った俺だからすぐに再生できた。ああ、覚醒種がなにかも知らねえのか」


「覚醒種はな、魔族……人型の魔物の中でも特別だ。他の生物の特徴と、前世の記憶、そしてそれぞれに特有の能力。この三つを持って生まれてくる。人も、それ以外の生物も、魔物も超えた、生物として覚醒した存在。だから覚醒種。お前みたいな普通の魔物の範疇に収まる通常種とは格が違うんだよ」


「お前が負けたのは俺の能力《執着》を受けたからだ。俺は《執着》した相手のすべてを見れるのさ。俺にはお前が何をできるかも、何を考えてるかもぜーんぶわかる」


「おまけにな、この能力を受けた相手には絶対に攻撃が当たるようになる。どう避けても同じだ。物理的に当たる可能性があればその攻撃は必ずお前にあたる。だから俺の麻痺毒をお前は避けきれなかったってわけだ」


男が楽しそうに種明かしをする。隙だらけだ。だが俺にはこの油断を利用して状況を覆す手段がない。

……どうする。このまま体の毒が消えるまで待ってくれるとは思えない。


「なんでわざわざお前を麻痺毒で仕留めたと思う?」


男が槍を再び刺す。首や頭ではなく脚に。

殺すためではなく、いたぶるための攻撃。


「いっ……つ」

「ああ、楽しみだ。お前は死ぬとき、どんな顔をするんだろうな?」


男は再び槍を引き抜く。そしてその槍が、再び俺の体に突き刺された――――




できれば明日も投稿したいと思います。中途半端に終わってしまったので。

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