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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第2章 聖女マリアとエルフの里
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24話 奇跡と町長


「じゃあ、やるわね」

「ああ、頼んだ」


 朝。マリアの部屋で子機の水晶を机に置く。俺にはわからないが、この水晶からは既に瘴気が発生しているのだろう。そういえば、そんなものが置いてあったあの店は大丈夫なんだろうか。俺が暮らしていたし、指輪から発生する瘴気のように俺に吸収されていたならいいんだが。


「お待ちください。ショウ殿は部屋の外に出ていただいた方がよろしいかと。一応は魔物であるショウ殿が浄化の光を浴びるのは危険です」

「あ!すっかり忘れてたわ。ショウ、この部屋から出ておいて。前に奇跡の訓練で魔物に浄化を使った時はかなり弱ってたから、あんたも多分あぶないわ。そんなに強力な奇跡を使うわけじゃないけど、一応ね」


 そうなのか。まあ当然と言えば当然の理屈か。生存に必須の物質を祓われるのだし、体にいいわけはないだろう。というか訓練で魔物に奇跡を使ったりするのか。と思ったがよく考えたらマリアが俺を魔物と見抜くためには魔物を見たことがないといけないので今更といえば今更だな。


「わかった。外で待ってるからな」


 部屋から出て扉の脇で待つ。すると少しして部屋の扉の隙間から光が漏れ、そして収まった。不思議なことに、第六感はその光に以前ほど強い危機感を感じなかった。さっきはああ言ったが、それほど危険ではないのだろうか。あるいはあまり強い奇跡は使わないと言っていたから、そのためかもしれない。

 ああでも、少し気分が悪いかもしれない。なんだろう。息苦しさというか、ぼんやりするというか。生活に支障があるようなものではないが、意識し始めると嫌な感じだ。第六感とは別に気持ちが悪い。


 と、ここで誰かの近づいてくる駆け足の足音が聞こえた。そちらを確認すると、小太りで口ひげを生やした、頭頂部が寒そうな男性が現れた。この町の町長だ。この町についてすぐにマリアと町長の挨拶があったのだが、その際に顔だけは確認していたので間違いない。興奮気味に部屋に近づいてくる。


「おはようございます、町長殿」

「ああ、すまないが、部屋に入らせてもらうよ!」

「え、ちょっと!」


 こちらを半ば無視するように部屋に入ろうとする町長。ただの不審者なら実力行使で取り押さえるが、この町の長で貴族となればそうはいかない。結局町長は部屋の扉を勢いよく開けて中に入ってしまった。


「おはようございますマリア様!本日も良いお日柄で大変結構ですな!わたくしもこの日差しに誘われ町の見回りと称した散歩に興じておりましたところたまたまこのお部屋から漏れる光を拝見いたしましてこうしてお礼申し上げに参じたわけにございます!いえいえ、お隠しにならずとも結構。このドーメル、すべて心得ております。あれは紛れもなくマリア様の奇跡により沸き起こりし女神の光。よもや浄化院の教会のないこの町の民たちを気にかけ、マリア様が奇跡を行使なされるとは。まさに女神の代行者、おみそれいたしました。とあればこのドーメル、この町を任される者としてその心意気に報いるほかありますまい。つきましては―――」

「ドーメル殿。いくら貴殿といえど、聖女たるマリア様のお部屋に事前に何の申し入れもなく入られるのはいかがかと存じます。それに宿の主人も突然押し入られて困っているでしょう」


 部屋に入って早々、ものすごい勢いでしゃべり倒す町長。その言葉をシスさんがド正論で遮った。身分の高い女性の部屋に無断で入るなどいくら権力者でも許されない。顔を売りたいのだとしても明らかに逆効果だ。


「あ、ああ、それはそうですな…。これはとんだご無礼を。しからばどうでしょう。今日も我が屋敷にてお詫びも兼ねたお食事でも……」

「お言葉は大変ありがたいのですが、我々は今日この後この町を発たなければならないのです。他の通過する町へも日程を通達しておりますので、予定を変更するわけにはいかないのです。なにとぞご容赦を」

「う、ううむ……そういう事でしたら引き留められませんな……まことに残念です。でしたら、出発に際してお手伝いできることがあれば―――」

「いえ、すでに出立の準備は整えてあります故、ご心配なさらず」


 バッサリだなシスさん。まあ先に失礼を働いたのはあっちだし、別に大丈夫だろう。

 その後もしぶとく粘った町長だったが、結局すべての申し出を断られて退散した。なぜそこまでして顔を、あるいは恩を売りたいのか知らないが、何か切羽詰まったものを感じた。

 後でシスさんから聞いた話だが、この町長の貴族位は貴族と聞いて通常イメージするものとは違う、国王に金銭を支払うことで町長という官職と共に得た地位であり、それを次の代に継がせるのにも金を払う必要があるのだそうだ。地球の中世ヨーロッパでも実際にあった法服貴族と呼ばれる制度である。

 政治に関わる地位を売買すると聞くと現代日本の感覚では犯罪に思えるだろうが、合法だ。理屈を説明すると長くなるので簡潔に言えば、政治の権利は本来全て王様のものなのだから、それを大金を払える有能な人材に少し貸してもいいだろうといった具合だ。

 そんなこんなで家を持たせるためには代替わりまでにまとまった金を用意しなければならないにもかかわらず、この町の主要産業である牧畜がここ数十年で衰退の一途をたどっておりこの町の、ひいては町長の一家の財政状況はあまりよろしくないらしく、このままでは次代に今の地位を引き継げるかどうか、といった状況らしい。なんでも牧畜産業の衰退は世界的なうえ原因不明のものらしく、家畜が思うように繁殖してくれないのだそうだ。

 財政難を乗り越えようと人脈確保に活路を見出そうとしたのだろうが、焦りすぎだろう。というかシスさんはよくそんな情報を知っているな、と思ったが、なんとすべて食事の席で町長自ら話した内容だそうだ。口が軽すぎる。よくやってこられたな、この町長。


 町長が退散した際、ついでに滞在のお礼の挨拶も済ませたらしく、ほどなくして出発の運びとなった。町長の扱い雑だなあ。仕方ないけど。

 この時、俺は町長のインパクトに圧倒され、子機の水晶をマリアから返してもらうのを忘れてしまっていた。

 ただ、このうっかりに感謝することになろうとは、そのうっかりに気付いてすらいないこの時の俺には知る由もないのだった。




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