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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第2章 聖女マリアとエルフの里
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23話 夜のおしゃべり


「あーつかれた……話が長いのよあのおじさん」


 夜。俺とハルカはマリアの部屋に来ていた。聖女の部屋に冒険者の、それも男が入るなど普通は許されないことだが、シスさんが許可を出し、また同室にて監視の名目で立ち会う形にすることで通った。マリアはこの町の町長と夕食をとった後であり、何やら疲れている。


「マリア様。せめてもう少し声を落としてください。我々以外の者に聞かれれば事です」

「町長さんとご飯を食べるのってそんなに疲れるんですか?」


 シスさんはマリアをたしなめ、ハルカは純粋な疑問をぶつける。するとマリアはうんざりといった態度を隠さず答えた。


「あたしが聖女で、この旅の後は王族の嫁にされるって話はしたでしょ?あの町長もそれはわかってるから、顔を覚えてもらおうと必死なのよ。町長って軽い言い方してるけど、あれも立派な貴族よ?末端もいいとこだけど、この辺の領主から町の管理と徴税を任されているでしょうし。だから食事中ずっとおべっかの雨。にこにこしながら返事をするのって、見た目より疲れるからね」


 へえ。あの町長も貴族だったのか。ちょっと上等な服を着ているだけの普通のおじさんだと思ったが。


「な、なるほど。苦労されてるんですね」

「あたしの人生は猫かぶりで終わるのよ。いっそ、さっき抜け出してそのまま逃げちゃえばよかったわ」

「マリア様」

「わかってるわよ。冗談よ。怖い顔しないでよシス」


 まず他人には聞かせられないようなマリアの言葉にシスさんの注意が飛ぶ。ただその顔は、軽率な発言への怒りや苛立ち以外の感情を含んだようなやや複雑そうなものだった。


「そういえばショウ、あんたあたしがあげたやつ以外にも指輪をしてるけど、それってハルカにもらったの?」

「ちょ、なんでそこで私が出てくるんです!?」

「いや?これは別の知り合いにもらったものだ。まあなんだ、貴重なものらしい」


 こちらに向き直り聞いてくるマリアに、取り乱すハルカをスルーして答える。突然指輪の事を聞かれたので少し語尾が濁ってしまったが、まあ大丈夫か。ちなみに俺は普段は翻訳の指輪はポーチにしまっているので、マリアが言っているのは望郷の指輪のことだ。


「へえー、女の人?」

「え、うーん、そうだな……」


 まあ女神だし女か。人ではないだろうが。


「まあ女だな」

「なんでそこで詰まるのよ……。まあいいわ。それで?その人ってあんたの何?母親?兄妹?それとも…恋人?」


 少し興奮した様子で聞いてくるが、何かと言われると困るな。変に嘘をついてもバレそうだし……。とりあえずごまかすことにした。


「どれでもないが、そうだな。命の恩人ではあるな」

「へえー!なになに、その人とどんなことがあったの?」

「いけませんよマリア様。冒険者の過去を探るのはご法度です」

「えー、そうなの?……ちょっとぐらいよくない?」


 ごまかしたつもりがむしろ食いつかれてしまい困ったが、シスさんが助け舟を出してくれたので乗っかることにした。


「すまん。あんまり話せることはない」

「そう。悪かったわね。じゃあせめて、その指輪をしっかり見てみたいわ。いい?」

「ああ、それくらいならいいぞ」


 手から指輪を外してマリアに渡す。するとマリアは指輪を受け取ったとたん手を引っ込め、指輪を床に落とした。マリアの顔に恐怖が浮かぶ。


「ショウ!あんた、この指輪をしてなんともないの!?」

「な、なんだマリアいきなり。俺は基本的にいつもつけてるけどなんともないぞ」


 指輪を拾う。傷ついたり壊れたりはしていないようだ。


「だって、その指輪……呪われてるわよ」

「は?」





「なるほど……何者かとは思っていましたが、よもやショウ殿が魔物とは……」


 望郷の指輪は呪われた指輪だった。そもそも俺は呪われた装備という言葉の意味を知らなかったが、この世界では瘴気に汚染された装備の事をそう呼ぶらしく、持っているだけで装備した者を瘴気の浸食に晒す危険なものとして認知されているそうだ。

 それを身に着け続けて平気な理由として考えられるのが俺が魔物であるということだけであり、呪われた指輪とその所有者である俺の安全性を説明するため、そのことをシスさんに話すしかなかった。それを聞かされたシスさんが俺を排除しかねないという別の問題が生じたことに気が付いた時には焦ったが、意外にもシスさんは俺の話を冷静に聞き入れてくれた。


「……だますような真似をして申し訳ありませんでした」

「いえ、むしろこれで納得がいきました。他人の弱みを握る機会などないはずのマリア様がどうやってショウ殿を脅したのか、ずっと不思議に思っていたのです」

「しかしそれはそれとして、聖女の護衛に魔物というのは……」

「ショウ殿とお会いする前ならそう思ったでしょうが、今の私にとってはそう大きな問題ではありませんよ。呪われた指輪も、ショウ殿が着けている間は問題ないのでしょう?マリア様」

「ええ。それは間違いないわ。よく見ると、指輪に触れている部分からショウの体に瘴気が吸い込まれているみたい」


 瘴気が吸い込まれている。魔物は瘴気を断たれた状態で長期間過ごすと徐々に弱っていくと研修で習った。他の魔物も瘴気を吸収しているのかはわからないが。俺が指輪をしていて平気であることと俺が魔物であることとは無関係ではないだろう。

 普通の町では浄化院による浄化が定期的に行われ、魔物が発生・長期間生息できず、また人体にとって安全な環境を保つことになっている。ということは俺は、この指輪を長期間身に着けてないと衰弱し、下手すると死ぬのか?女神リオラは俺がこの指輪を見つけなかったらどうするつもりだったのだろう。まさか、そこまで考えてなかったとか……。

 まあそれはいいとして、問題は他にもある。だが俺より先にハルカが口を開いた。


「あの、シスさん。呪われた装備って、持っていても大丈夫なんでしょうか。ええと、危険どうこうじゃなくって、それを持っているだけで犯罪になったりとか、そういうことは……」

「それは心配ないはずですが、呪われた装備が他人に害を及ぼした場合は持ち主の責任になるでしょうね」


 うん?魔物の素材については浄化されていないものは使用や食用ができないはずなのに、呪われた装備についてはずいぶん規制が甘いな。


「呪われた装備になるには長期間高濃度の瘴気に晒されるか、超高濃度の瘴気に晒される必要があります。そんなものはめったに手に入りませんし、手に入ったとしても使おうとする者などいませんからね。大した規制もなく放置されているのでしょう」


 なるほど。問題がないわけじゃないが、後回しにされているんだな。


「ねえ、ショウ。この指輪、恩人に貰ったって言ったわよね。他に呪われてそうな品ってない?もしあればあたしが浄化しちゃうけど」


 マリアの申し出に甘え、店から持ち出したもののうちいくつかの品を確認してもらうことにした。俺が部屋に常に身に着けている望郷の指輪はともかく、それ以外の品も呪われていたら周囲に悪影響を及ぼすだろう。マリアの部屋の木製の机にザっと並べると、マリアは真っ先に望郷の指輪の子機の水晶を指さした。


「これもだめね。指輪に比べればはるかにマシだけど、それでも一般人がずっと持っていれば害があるレベルよ」

「本当か。じゃあ、浄化を頼む」

「それなんだけど、やっぱり明日でもいい?今は夜だし、奇跡の光が目立って面倒なことになりかねないわ」


 なるほどそうか。特に断る理由もないので聞き入れることにした。


「そうか、わかった。じゃあ明日頼む」


 水晶を回収してマリアと別れ、護衛の長い初日が終わった。宿のベッドは店のものとそう変わらなかったが、枕の高さが合わないのが少し気になった。


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