19話 実験とウジウジ
「ここでいいか。ハルカ、離れててくれ」
町の外の草原で、俺は店から持ってきた属性球をもって構える。扱いを間違えて爆発したりすると危険なので、水属性の物から試す。これなら失敗してもびしょぬれで済むだろう。
……ん?なんだろう、視線を感じる。
「………………」
振り返ると、ハルカがこちらを見ていた。正確には、俺が持っている水属性の属性球……長い、水球でいいか。水球を見つめていた。それも何やらわくわくした様子で。正面からでもわかるほど激しく揺れるしっぽから感情が伝わってくる。
「なんだ?ハルカ。どうかしたか?」
「い、いえ!何も!さあ、とっとと投げちゃってください!」
気になるが、とりあえず放っておこう。魔力を込めると、水球が青い光を放ち始めた。魔力はどのくらい込めればいいのかわかっていなかったが、込めていくうちにこのくらいかな、というのが感覚でわかった。例えるなら自転車のタイヤに空気を入れていった時のような感覚だろうか。ともかく魔力は十分そうなので放り投げることにした。
「よっ!」
「アオーン!」
「はっ?」
俺が水球を投げたとたん、ハルカがそれを追って走り出した。実験ということで弱めの力で投げた水球はハルカに追いつかれ、空中でキャッチされた。と同時に破裂し、浴槽一杯分ほどの水を瞬時に発生させた。
「キャウ!」
突然現れた大量の水の直撃を受け、情けない声を上げてハルカがひっくり返る。
「お、おい!何してんだハルカ!大丈夫か!?」
慌てて駆け寄ると、びしょぬれになったハルカが起き上がった。幸い手でキャッチしたためか怪我などはなかったようだ。
「……はっ!私は何を?」
「俺のセリフだよ!」
はっとした顔のハルカに思わず突っ込む。まさか投げたボールを反射的に追いかけたとか?確かにハルカは犬耳に犬のしっぽを持っているが、そんなに犬らしい娘だったか?
「……まあともかく、水属性の属性玉の効果はわかったな。使い方も魔力を込めて投げればどこかにぶつかったときに破裂するようになっているみたいだし、問題ないだろ。ここからは他のを試すぞ」
「はい!」
「おとなしくしてろよ!」
「…………はい」
またしっぽが揺れだしたので諫めておいたが、大丈夫だろうか?戦闘中にまで飛び出されると危ないからやめてほしい。
持っている属性球をすべて試したところ、いくつかのことがわかった。
火、水、風、土の属性球は破裂の際それぞれの属性に対応したものを発生させた。土属性は砂が出たが。氷属性は着弾地点を凍らせた。見習い冒険者研修では動き回る対象を凍らせるのが難しいため氷属性の使い勝手はよくないと聞いたが、属性球に関して言えばそうでもなさそうだ。いやでも、普通なら動く相手に投げ当てるのは難しいか。俺も勇者の記憶の恩恵がなかったら到底使い物にならなかっただろう。
他には無属性は衝撃波を、光属性は強い光を発生させ、闇属性は発生地点付近を真っ暗にした。
光属性以外の効果範囲は目測で直径三メートルほどだった。火、氷、光属性あたりの属性球は買いだめしたいな。俺は今のところ遠距離での攻撃手段を投擲以外に持たないので、投げられるものに幅を持たせられればそれにこしたことはないだろう。ついでにポーチにこぶし大の石をいくつか拾ってしまっておいた。単純に投げるだけならこれでいいだろう。
「属性球の実験は終わりだな。旅に出るに先駆けて買っておきたいものもあるし、買い物に行こう」
「そうですね。私も矢とか買っておきたいですし。でもあれですね。あの指輪のおかげで食糧の心配をしなくていいっていうのは大きいですよね」
たしかに。食べ物はかさばるし、持ち運べる保存食なんてそう美味いものでもないだろう。つくづく便利な道具だ。望郷の指輪の子機はポーチに入れているが、これを出先の拠点においておけば気軽に店に帰れるしな。
「だな。そうだ、実験がてら指輪を使ってみよう。ハルカ、子機を持っておいてくれ」
子機を渡す。球体の水晶である子機を見たハルカのしっぽ少し揺れたような気がしたが…大丈夫だろうか。
指輪に魔力を込めると指輪にはめられた宝石が輝き始める。さらに魔力を込め、限界近くまで魔力を込めると同時に、俺は店の地下、親機の水晶がある小部屋にいた。
「おお……!これぞ転移……これぞ魔法!よし、今度は子機に戻ろう!」
転移。現代日本の科学では実現不可能どころか説明すらできないような現象を自らの意思で起こすことができた。ついに本格的に魔法に触れたように感じて感動するな。
もう一度転移するため、再び指輪に魔力を込める。するとすぐ先ほどの草原……というかハルカの目の前にいた。
「おかえりなさい。早かったですね」
「すごいぞハルカ!一瞬で移動できた!転移だぞ転移!魔法だぞ魔法!」
「ちょ……既視感です……というか近いです」
興奮する俺にハルカが若干引いているが、人の事言えないからな。今度ボールでも投げてやろう。どんな反応をするか見物だ。
「でも、よく考えたら指輪はひとつしかないですよね。これだと一人しか戻れないんじゃないですか?」
ああ―…確かに。でも指輪を身に着けてる人間しか転移できないなら、服とかも転移できないはずだ。なら手でも触れていれば服と同じように一緒に転移されるんじゃなかろうか。まあ、試してみるか。ハルカに手を差し出す。
「?」
ハルカが俺の手にポンと乗せる。手は軽く握られており、犬にお手をした時のような構図になる。
「………………」
気を許して素が出るようになったということにしておこう。そうしよう。その状態のまま俺は指輪に魔力を込め、店に戻った。
小部屋には無事ハルカが付いてきていた。これ、小部屋の収納人数を超える人数で転移したらどうなるのだろうか。……一応気をつけよう。
「本当に一瞬で移動した……あの、これ本当にすごい魔道具ですよ。私も魔道具に詳しいわけじゃないですけど、転移の魔道具なんて聞いたこともありません。シュミリ…じゃなくてリオラさん、本当に女神様なのかもしれないですね」
転移を終えてハルカが言う。手紙の内容を伝えたとき、俺は一緒に自分が勇者の記憶らしきものを見ていること、リオラが女神を自称し、俺を勇者と呼んでいたことを告げている。その時もあまりリオラや俺の正体について気にした様子はなく、俺が旅に出ることを肯定してくれただけだった。
以前俺が魔物であるかもしれないとハルカに伝えたとき、根拠はないが大丈夫だと言っていた。だがより一層謎が深まった俺の正体についてはどう思っているのだろう。俺は気味悪がられていないだろうか。
……なんだか自分が嫌になる、ハルカは俺を信頼してくれているはずなのに、俺はその信頼を信じ切れていない。
今はとにかく自分の正体が知りたい。俺の正体がわかった時、ハルカが俺のことをどう認識するのかはっきりするだろう。この嫌な不安と自己嫌悪から早く抜け出したかった。
「どうかな。ただこの魔道具、他人には存在を明かさない方がいいだろうな。じゃあ、買い物に行こう。」
態度に現れない程度に不安を押し殺しつつ答える。そのまま店を出て買い物に行こうとすると、店の郵便受けに小さな封筒のようなものが入っていることに気が付いた。
「俺が住み始めてから郵便が届くのなんて初めてだな」
「というか、郵便受けなんてあったんですね」
封を開ける。中から出てきた紙にはこう書かれていた。
『銅級冒険者ショウ殿 指名依頼のお知らせです。速やかに当支部に起こし下さい。 冒険者ギルドワモス支部』




