20話 指名依頼の依頼主
それぞれの話のサブタイトルに 〇〇話 とつけることにしました。
指名依頼。それは名の通り、依頼者が依頼を受ける冒険者を指名することのできる依頼形式だ。通常の依頼形式よりギルドに支払う手数料が割高になるため、指名依頼の対象になるのは基本的に名の知れた冒険者だけだ。俺は銅級になりたての冒険者でお世辞にも有名とは言えないはずだが…。
「いえ、ショウさんは今注目の新人冒険者としてこの支部の人間の間では有名人っス。英雄広場での魔物退治、カシ村でのオーク殲滅、どれも新人にはありえない快挙っス。あとは登録試験で自分に勝ったことも知られてるっスね。カシ村の件は他言無用のはずだったっスけど、どこかから情報が洩れてしまったらしいっス。その件は申し訳ないっス」
シャットが言う。今俺はハルカとともにシャットの執務室にいる。指名依頼の詳細を聞くためだ。呼び出しに応じてギルドを訪れた俺たちはそのまま執務室に案内されたのだ。受付でエマさんあたりに伝達してもらえばよくないか?
「というか私はここにいていいんでしょうか?指名はショウさんなんですよね?」
「今回の指名依頼はショウさんとハルカさん、両方の指名っス。お二人をここに呼んだのは、依頼主と依頼内容の関係上、依頼に関する情報を可能な限り人に知られたくなかったからっス」
「知られたくない依頼主と依頼内容?」
「その通りっス。今回の依頼の依頼主は浄化院。その内容は聖女の護衛っス。聖女様が隣国に住まいを移すことになったので、その護衛をお願いしたいとのことっス」
「聖女?それってまさかマリア…」
「やっぱり知り合いだったっスね。ご推察の通り、護衛対象となる聖女様はこの公都ワモスが抱える聖女の一人、聖女マリア様っス。こちらは既に依頼の詳細を受け取ってるっスけど、直接お二人に詳細を話す時間が欲しいので近日中に浄化院に来てほしい、とのことっス」
「わかった。…ちなみに、指名依頼って断れるんだっけか?」
依頼主がマリアである以上断る気なんてないが、規則にどう規定されていたか忘れてしまい、気になって尋ねた。
「原則断れないっス。冒険者ギルドの規則の一つっスね。冒険者は依頼のあっせんを始めとしたさまざまなサポートを受けられる代わりに、ギルドの一員としての活動に縛られる。指名依頼も、やむを得ず引き受けられない場合やギルドが不適切または不可能と判断した場合を除いて引き受けてもらうっス」
想像よりだいぶ細かく説明してくれた。始めから断るつもりがなかっただけに少し申し訳なくなる。
「そうか。気になっただけだから心配しないでくれ。打合せの日程についてはあちらの都合に合わせてくれればいいから、決まったら伝えてくれ。連絡は以上か?」
「いえ、乗り気のとこ申し訳ないっスけど、今のところ自分はこの依頼を断ろうと思ってるっス」
「えっ?なんでだ?何か問題でもあるのか?」
「問題ならあるっス。それはショウさん、あなたのことっス」
シャットの顔が険しいものに変わる。いつものどことなく気だるげな雰囲気は消え去り、金級冒険者としての、そして冒険者ギルドという一大組織の支部長としての貫禄が現れていた。
「単刀直入に言うっス。ショウさん、あなたには社会的信頼が足りていないっス。オーク数体を相手にする実力と、街を守るためにそれらに立ち向かった人格は認めるっスけど、それはあくまで自分が個人的に評価した場合。冒険者の支部を任される者として見た場合、ショウさんは信用ならない人物っス」
「……それは、俺の記憶が曖昧だからか?」
「まさにその通りっス。これが普通の指名依頼なら、指名した側の責任っスからわざわざ冒険者側の経歴なんて考えないっス。ただ今回の依頼主は浄化院っスからね。瘴気に直接対抗できる唯一の機関として世界中に影響力を持ち、冒険者ギルドにとって同じ理念を持つ盟友でもある浄化院。その重要人物である聖女の護衛を半端な人物に任せたとあれば自分の、ひいては冒険者ギルド全体の責任も問われるッス。もちろん指名した側の過失が大きいっスけど、それでも現実的に批判は免れないっスね」
なるほど、当然の理屈だ。いくら注文した側に過失があったとはいえ、注文を受けた側が注文された商品に欠陥があることをわかっていながらそれを引き渡せば、引き渡した側の責任も問われるだろう。
「まあ、当然だな。なら俺はどうすればいい?」
「こちらはショウさんといういわば大きなリスクを抱えているっス。ならショウさん側にもリスクを負ってもらいたいっス。具体的には、記憶喪失だというのならその範囲でわかっているショウさんの経歴、および今後の展望も聞かせてほしいっス。もちろんここで聞いたことは自分の胸の内にひそめて置くっス、ギルドにとってあまりにも危険な場合を除くっスけど」
「……まあ、わかった」
この物言い。シャットは俺の記憶喪失が嘘か、まるで嘘ではないにしろなにかしらを隠すための方便として使っていると判断しているようだった。実際その判断は正しいのだが。
俺はこの世界に来てから起きたことをかいつまんで話した。シャットの言葉に対し、俺の第六感が反応しなかったからだ。おそらくシャットに俺を陥れる意図はなく、純粋に支部長としての責任を果たそうとしているだけなのだろう。
俺は気が付いたら店の地下室にいたこと、最初は言葉もわからなかったが勇者のものらしき記憶に触れてからいろいろなことが身についたこと、店にあった手紙の導きでエルフの里に行こうと思っていること。これからは自分の正体を知るために旅に出ようとしていることを話した。さすがにシュミリオの正体や俺が魔物だったり勇者だったりするかもしれないなんてことは話さなかった。どれも確証はないし、今話すべきではないように感じたからだ。俺が聞かれたのは経歴で正体じゃない、というのは屁理屈かもしれないが。ただ勇者のと思われる記憶に触れたとは伝えたので、俺の正体が勇者かもしれないという部分にはシャットが自力で気が付くだろう。
「勇者の記憶…なるほど。今の経歴と展望について、言っておきたいことと聞きたいことがあるっス」
「なんだ?」
「言っておきたいことは、まず旅に出るなら出る前に必ず伝えてほしいっス。自分の支部に在中する冒険者の内容を把握しておきたいっスから。次に聞きたいことっスけど、聖女の護衛に指名される理由が今の経歴からではわからないっス。まだ何かあるっスよね?」
するどいな。さすが支部長。ここで下手に嘘をついてばれたらいよいよ信用を失いかねないが、俺が魔物かもしれないことはあまりにも大きな問題だ。シャットの言う「冒険者ギルドにとってあまりにも危険な場合」に含まれてもおかしくない。どうしたものか。
「それは私たちが以前から知り合いだったからだと思います」
「ハルカさん?」
なんとここでハルカが声を上げた。シャットはやや訝しげだ。
「はい。マリアさんとは以前依頼前の祝福の時、たまたま他の浄化師の方がいなかったのでマリアさんに祝福をかけてもらったんですが、その時歳が近いこともあって仲良くなったんです。それでどうして護衛に選ばれるのかはわかりませんが、ショウさんの活躍が冒険者ギルドで有名なら、ギルドに出張している浄化師の方からその噂を聞いていてもおかしくないですよね?知り合いの冒険者が腕利きとわかれば、その人に護衛を頼みたくなるのも不思議ではないかと」
すごい。嘘はつかず、それでいて真実をすべて告げてはいない。話として不自然な部分もほぼない。たまたま浄化師がいなかったという唯一胡散臭い部分が真実なので、もし裏を取られても問題ないだろう。ハルカありがたや。シャットの顔から警戒が薄れていく。
「なるほど。ふむ。……じゃあショウさん、最後に一つだけ聞きたいっス」
「うん?」
「今、何を考えてるっスか?」
なんだそれ。質問の意図がわからん。なので素直に応えることにした。
「え、仲間っていいものだなあって考えてた」
シャットの顔が緩み、微笑が浮かぶ。なんなんだほんとに?
「ええ、まさしくその通りっス。大丈夫。この依頼、ショウさんに引き受けてもらうっス。本部にばれても、大きな問題がなければ小言をもらう程度で済むッスから」
なにやらわからんが、シャットの中でいろいろ整理がついたということだろうか。俺としてはありがたいので細かいことはいいか。
俺たちは無事依頼を引き受けられた安堵に胸をなでおろしながら執務室を後にした。




