13話 カシ村の違和感
依頼主のいるカシ村に着いた。
エマさんからの情報によると、カシ村は今どき珍しいほど排他的な村で、周囲の共同体の中でも悪い意味で目立った存在だったそうだ。なんでも以前、浄化院の人が瘴気の影響があるから村の浄化をさせてほしいと言ったところ、浄化させてやるから物資をよこせとのたまったらしい。そこで金と言わないのは周囲との交流がない以上必要ないからか。
控えめにいっておかしな村だが、その村がわざわざ冒険者ギルドに依頼を出したということここ最近一部で話題になっていたそうだ。そんな村で派遣された冒険者が帰ってこず音沙汰もないとなれば、シャットが村ぐるみで何か企んでいるかもと疑うのも当然といえる。
それに村に近づいて気が付いたが、村に脅威となる存在の気配を感じる。距離の問題かまだ正確な位置や数はわからないが、やはりこの村には何かあるようだ。ひょっとしたら、既に村はゴブリンによって滅ぼされ占拠されているのかもしれない。いずれにせよ、まずはより詳しい情報を得る必要があった。
「村に怪しい気配がある。何かあるぞ、油断するなよ」
「はい、確かにあの村はおかしいです。人の匂いがあんまりしませんし、なにより強いゴブリンと……血の匂いがします」
匂い?鼻に自信があるとは言っていたが、そんなに細かい情報までわかるのか。ゴブリンと血の匂いが強い、か。だとすると村ぐるみの罠よりはゴブリンによる村の壊滅の可能性が濃厚になってきた。
「目立たない位置から近づこう。村がゴブリンによって壊滅させられている可能性がある。もしそうなら生存者を可能な限り探して救出、そのまま脱出だ。敵が倒せそうなら倒してから捜索に移ってもいいだろう。他になにかあるか?」
「もし敵が倒せないような数で、見つかったらどうします?」
「そうだな、これを渡しておこう」
俺はポーチから灰色の小さな球を取り出した。店にあった品で、準備に付き合ってくれたダズに聞いたところ魔力を込めて投げる煙玉だそうだ。
「これは煙玉ですよね。なぜ私に?」
「俺は魔力を操れない。だからもともとハルカに使ってもらうつもりで持ってきたんだ」
「私のためにわざわざ…ありがとうございます。見つかったらこれを投げて逃げるってことですね?」
「そうだ。なによりも自分たちの生存を優先しよう。もし生存者がいたらハルカが連れて逃げてくれ。その場合は俺が時間を稼ぐから」
俺たちに与えられた課題はあくまで調査。シャットが先発の冒険者の救助を依頼内容に組み込まなかったのは、その生存が絶望的で、それに気を取られた俺たちが自らの命を危険にさらす可能性を考慮したためだろう。
その気遣いはありがたい。ただ俺は救える人間をみすみす放っておくことはしたくない。
「一人は危なくないですか?たしかにショウさんは強いですけど、実戦は初めてなんですよね?」
「心配しなくていい。秘策があるんだ。ともかく見つかったら煙玉。これだけは頼んだぞ」
「わかりました。じゃあ行きましょう!」
打ち合わせは終わった。村の裏手に回り込み、近づく。村の様子を見れるほどに近づいたら、様子を確認する。
村はひどい有様だった。村の建物や周囲の柵はところどころ壊され、そこら中が血まみれになっている。そしてその村には数体のゴブリンどもがうろついていた。あるものは食料をむさぼり、あるものは鍛冶場らしき場所で武器や防具を漁っている。魔物は食べなくても生きていけるはずだが、食べたくなるんだな。俺も普通に食欲があるし、食べなくても生きていけることと食べないことは別なのだろう。
しかしここで、いくつかの不自然な点に気が付いた。まず、村人の遺体が見当たらない点。そしてゴブリンごときに家などの建物を壊せるのかという点、最後にそもそも、数体のゴブリンに村が全滅させられ、派遣された冒険者が行方不明にさせられるようなことがあるのかという点だ。
出発前にエマさんからきいた情報を思い出す。ゴブリンは7、8歳程度の子供と同じくらいの背丈に、醜悪な緑色の肌が特徴的な魔物だ。目は言うまでもなく赤い。知能も小さい子供程度で、見るからに勝てそうにない相手に喧嘩を売らない程度の知能はあるそうだ。
それだけだと弱そうな印象を受けるが、たいていのゴブリンは木や石で造った粗悪なこん棒や槍、ナイフで武装しており、拾えればより強力な武器を持っていることもあるという。子供程度の体格とはいえ武器を持っている以上攻撃を受ければ怪我をするし、集団に囲まれれば容易に命を落とす。魔物特有の生命力の強さもあって油断ならない魔物だそうだ。
ほかにも人里近くに発生しやすいとか、繁殖しないはずなのに群れていることが多いとか細かい特徴はあるらしいが今は関係ないので放っておく。
まとめると、強くはないが油断もできない魔物がゴブリンだ。村人も近くにゴブリンの巣ができたとあればギルドに依頼を出すほかになかったのだろう。そしてそんな脅威があるとなれば、最低限防備を固めるのが当然だ。この村の規模を見るに、今この村をうろついている数体のゴブリンに全滅させられるようなことがあるようには思えなかった。
百歩譲って全滅したとしよう。そのあとの冒険者までやられることがあるだろうか?逃げても行き場のない村人たちと違い、冒険者たちには逃げるという選択肢がある。基礎的な身体能力が子供程度のゴブリンから逃げるのはそれほど困難ではないように思える。
建物を壊せるかという点についてもゴブリンの身体能力的に難しいだろうし、できたとしても壊す意味がないだろう。死体についても同様だ。処分できないし、しようとしないだろう。まあ、ゴブリンの行動すべてに理由があるとは限らないが…。
「あの数ならやれそうだ。ゴブリンを始末しよう」
「はい。援護しますね」
俺は拳を、ハルカは弓を構える。魔物は体内の核、すなわち魔石を破壊しないかぎり多少の傷では死なない。そのため今回は大きめのナイフを持参した。ついでに手には革製の手甲を着けている。手の甲に当たる位置に金属が張り付けてある。格闘で動けなくし、ナイフで魔石を破壊する。今の俺がとれる戦闘スタイルの限界だ。
……正直面倒だ。早く何かしら他の武器の扱いを習得しないといけないな。
俺は足音を可能な限り立てないよう、慎重にゴブリンたちに近寄る。ゴブリンの数は7体。まずは食料を漁っていたやつからだ。
開けたつくりの村で背後から誰にも見つからずに、というのは不可能だ。俺はある程度近づくと全力で地面を蹴り、狙ったゴブリンの横顔に全力の拳を叩き込んだ。ぐしゃり、と嫌な感触がする。ゴブリンの頭はつぶれ、更に首からちぎれて飛んでいった。首を失い、吹き飛んだ胴体が先に地面に落ちる。
この上なくグロテスクな光景のはずなのに、以前と同じく動揺はなかった。やはりあの夢のおかげか、あるいは俺が魔物だからだろうか。そういえば、俺が魔物なら心臓はないはずだし、あとで胸に手でも当ててみるか。
どうでもいい思考を追い出して次に移る。囲まれないように気を付ける必要すらなく、全力で近づいて全力で殴る。これをさらに6回繰り返して終わった。魔物の魔石は一部の例外を除き左胸、通常の動物でいう心臓の位置にあるそうで、魔石を潰していないので起き上がってくるかと思ったが、さすがに頭を完全に吹き飛ばされれば死ぬようだ。俺も気を付けよう。
我ながら今更にも程がある注意を改めながら、俺はハルカと合流した。
ラストの文章がおかしくなっていたので修正しました。




