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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第1章 目覚める記憶
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12話 正体より信頼

 ……今、この娘は何を言った?魔物がなんだって?


「……なんだって?」

「だから、あんた魔物でしょ?なんで町中にいるのかって聞いてるの。人型の魔物自体は珍しくないけど、あんたみたいな人間そのものな魔物見たことないわ」

「俺が、魔物?何を言ってる?」

「とぼける気?それとも、自分でも気づいてないの?まあ普通の人間じゃ気が付けないでしょうし、あたしもよーく見ないとわからなかったけど、その赤い瞳と、その奥にくすぶる瘴気は隠しきれないわよ」


 この世界に来てから驚くことばかりだったし、もう並大抵のことでは驚かないと思っていたが、これは効いた。俺の体に起きた変化を忘れたことはなかったが、まさか人間ですらないと言われるとは。

ただの悪意ある嘘ならよかったのに。この娘から感じる脅威の大きさは、この娘の言っていることがそんな生ぬるいものではないことを示している。これは、どんな嘘より残酷で恐ろしい真実だ。

先ほどと比べて明らかに粗暴になった聖女マリアの話し方なんて、この時は気にもならなかった。


「ショウさんが、魔物……?そんなはずありません。だって、人間が魔物になるなら幽鬼のはず。幽鬼は言葉も考える力も失って周りを襲いだすんです。私はショウさんと一緒にいましたけど、ショウさんは普通の人となにも変わりませんでした。ショウさんが魔物だなんて、そんなはずありません!取り消してください!」

「ちょっと、騒ぐとシスが来ちゃうわよ?それに取り消せって言われてもね。あたしも訓練で弱い魔物に奇跡を使ったりするけど、魔物って、目の奥に瘴気が見えるのよ。この人…ショウだっけ?ショウの目にも同じものが見えるわ。なんで暴れださないのかはあたしにもわからないけど」

「でも、それだけで____!」

「多分、事実だ」

「……ショウさん?」


 声を荒げるハルカを止める。もちろん俺の出した結論はあくまで第六感から伝わる感覚を俺が自分で分析しただけのものなので確証はない。ただ、俺が人間であるか魔物であるかわからない以上、ひとまず俺が魔物だという仮定の下でも話を進めてしまいたかった。

 そもそも、俺が本当に魔物かどうかはこの際重要ではない。重要なのは、瘴気に関する専門家が俺を魔物だとそれなりの根拠をもって主張できる状況にあるということだ。


「仮に俺が魔物だとして、俺はどうなる?」

「……まあ、世間にばれたらろくなことにはならないでしょうね。よくて町を追い出されるか、監禁か。下手すれば殺されるか、研究のために解剖なんてことも考えられるわね」

「そうか。聖女マリア。あなたはどうする気だ?」

「マリアでいいわよ。堅苦しいのは飽き飽きなの。で、私だけど、別にどうもしないわ。今はね」

「今は?」

「そ。あたしの生活って、まあ大体想像つくと思うけど、ものすっっっっごく暇なの。だから、あんたの秘密を黙っておいてあげる代わりに、時々あんたにはあたしの暇つぶしに付き合ってもらうわ。まあ安心して。なるべく法に触れないようにしてあげるし、なにかあってもかばってあげるから。大したことじゃないでしょ?」


 なるべく、というあたりが全く安心できない。しかし、この条件を呑むほかにない。社会的地位が違いすぎる。この娘が周囲に俺のことを言えば、俺は人の世界で生きてはいけなくなるだろう。もっとこの世界を純粋に楽しんでいたかったが、俺という存在そのものがそれを許してくれそうになかった。


「まあ、わかった。ただ暇つぶしって具体的には何をしたいんだ?」

「まだ考え中なのよね。えーと、お買い物に、文通に、ピクニックに……あとそうね、町の外にも出てみたいわ!ああ、今から楽しみ!」


 ……ん?法に触れないようになんて言うものだから、てっきりもっと危険なことをするつもりだと思っていた。脅威の感覚とここまでの流れで危険な存在だと思っていたが、中身は案外普通の女の子なのかもしれない。


「聖女様が、外のお友達と一緒とはいえ、そんな自由に行動できるものなんでしょうか?」

「なんとかするわよ。あ、そうそう。あんたに用事がある時は手紙で知らせるから、住所を教えなさい」


 俺は今でもシュミリオの店に住んでいる。割と有名な場所らしいし、郵便でもそこに送るよう伝えれば届くだろう。俺はその旨を伝えた。


「シュミリオの店、ね。わかったわ。嘘だったりしたら承知しないわよ。じゃあ、急がないとシスが不審がるし、さっさと祝福をかけちゃいましょ。そっちの犬耳の娘だけでいいわよね?ショウがほんとに魔物なら、瘴気を遠ざけるのはかえって体に悪影響でしょうし」

「ああ、そうだろうな。ハルカにだけでいい」

「じゃ、急いで済ませるわ。ハルカ、そこに立って」

「はい、お願いします。祝福は三日分で……あの、マリアさん、さっきは怒鳴ったりしてごめんなさい」

「いいわよ、謝らなくて。あたしの言い方もわるかったしね。三日分ね。まかせてちょうだい」


 マリアは懐から豪華な装丁の手帳のようなものを取り出すと、一枚のページを開き集中し始めた。手帳のページから魔法陣が浮かび上がり、魔術……もとい奇跡が構築される。

 魔法陣から光が放たれる。視覚的には綺麗だが、脅威を感じる。やはり俺は奇跡を本能的に恐れているのだろう。マリアの話がさらに信ぴょう性を増す。

 放たれた光はハルカに吸い込まれていった。祝福の光には脅威を感じたが、祝福を受けたハルカからは脅威を感じないあたり、祝福を受けただけの人間は脅威たりえないということだろう。相変わらず脅威の判定の基準がわからない。


「終わったわ。じゃあ外に出ましょう。約束、忘れないでよね」





「なんだか、依頼前なのにドッと疲れたな」

「はい、まさかあんなことになるなんて……」


 あの後シスに挨拶をして浄化院を出た俺たちは、そのまま町の門をくぐって町の外に出た。町の外に出ることが今朝は楽しみで仕方なかったのに、今はショックでそれどころではない。依頼の村に着くまでには気持ちを整えないと。


「それよりハルカ、よかったのか?」

「よかった?何がですか?」

「マリアの言う通り、俺は魔物かもしれない。そんな俺と一緒に依頼なんて受けて、怖くないのか?」


 俺の問いかけにハルカは一瞬きょとんとしたあと、クスっと笑った。


「確かに、そうですね。自分でも不思議です。でもショウさんなら大丈夫ですよ。根拠はないですけど」


 根拠はないけど大丈夫、か。俺はその言葉を聞いて、ハルカが俺を信じてくれるのは本人が気が付いていないだけで、俺がダズを、ハルカの兄を助けたからではと思った。ただそれをハルカに聞くのはハルカの信頼を疑ってかかっているかのようで気が引けた。それよりも、ハルカに伝えるべき言葉がある。


「……ハルカ」

「はい?」

「ありがとう」

「……はい!」


 ハルカの尻尾が揺れている。


俺が魔物としてこの世界に降り立ったとすれば、俺は本当に一度死んでから生まれ変わっているのかもしれない。俺をこの世界に招いたというシュミリオが神か悪魔か知らないが、少なくとも今この時はシュミリオに感謝したいと感じた。

生まれ変われたら人との絆を。俺のこの願いは今でも変わっていない。冒険者になったのも、そこにあるロマンに惹かれたというだけではない。人助けを通じて人との絆を得たかったからだ。そう、兄貴がしていたように。

まだ俺の冒険者としての活動は始まったばかりで、自分が魔物かもしれないという思いがけないハンディキャップも抱えている。

それでも、目の前の屈託のない笑顔と信頼は、俺が守るべきものだと自信をもって言えた。たとえその手段が、突然得た誰かの力だったとしても。


「さあ、行きましょうショウさん!依頼をこなしてこその冒険者です!」

「そうだな、行こう!」


 決意を新たに、依頼の村であるカシ村へと向かう。ハルカの言う通り、今は冒険者として依頼をこなすだけだ。それが一人でも多くの人々を救うと信じて。

 晴れ渡る太陽が、俺たちを祝福してくれているようだった。


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