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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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第357話 洗練された連携

第357話 洗練された連携


 戸張が次に意識を戻した時、最初に見えたのは白いもの同士が潰し合っている光景だった。


 ホワイトスウォームが広間を埋める勢いで老狼と少女へ殺到し、その手前で次々に形を崩している。見えない糸へ引っかかった虫型は細かく切断され、狼型や寄生ゴブリンも近づくほど甲冑と外殻を削られていた。


 少女の頭上で巨大な花が開く。


 先ほど戸張の胴体を奪ったものと同じ構造だった。花弁が獲物を包むように閉じ、先端を一方向へ揃える。


 広間の中央へ集まっていた白い個体が進路から逃れようと散ったが、間に合わなかった。


 バチン、と音がして、床から天井までをまとめて削るような穴が生まれた。攻撃の途中にいた群体は姿を失い、その先の石壁には円形の窪みが穿たれている。


 砕けた石は転がらなかった。


 細かな粉となって広間へ舞い、青白い光を曇らせている。戸張が受けた一撃も、同じように身体を削り取ったのだろう。


 視線を下げようとして、首が思うように動かなかった。


 身体の左側には、まだ自分のものではない感覚が残っている。胸から腰へ伸びる白い糸が肉と骨の形を作り、その上を薄い皮膚が覆い始めていた。


 失われた左肺は既に動き、心臓の周囲も塞がっている。腕と脚は残っていたが、胴体との接続を作り直したばかりらしく、指先へ力を送るたびに感覚がずれた。


 口の中には濃い鉄の味と、赤いポーション特有の甘さが残っている。


 腰の保護ケースを見ると、留め具が開いていた。中に入れていた二本分の瓶が消え、割れた容器の破片だけが白い糸へ包まれて床へ置かれている。


「二本か……」


 一本では埋まらなかったらしい。


 寄生体が戸張の口へ流し込んだのか、傷口へ直接使ったのかまでは分からない。意識が途切れた後も再生は続き、赤いポーション二本と、白い群体の相当量を使って辛うじて身体を戻していた。


 その間にも広間の戦闘は続き、老狼が床を蹴った。


 強化外骨格に覆われた姿が視界から消え、少女へ近づいていた猿型の横腹へ現れる。頭を振っただけに見えたが、猿型は床から浮き、離れた壁へ背中から叩きつけられた。


 老狼の背中にある四本の蔓が、その後を追う。


 先端の小さな花が二つ開き、猿型へ向く。残る二つは少女の前へ入り込もうとしていた蜘蛛型と狼型へ向けられた。


 少女の巨大な花ほど広い範囲を狙えない代わりに、発射までの時間が短い。


 三度の音がほぼ重なり、猿型の右肩と胸が消えた。狼型は甲冑ごと前脚を失い、天井を移動していた蜘蛛型も腹部を穿たれて落下する。


 老狼は攻撃が終わる前に少女の横へ戻り、次に近づく個体へ身体を向けていた。


「隙を消してるのか」


 少女の攻撃は、花を作り、閉じ、方向を定めるまでに時間がかかる。


 その間を老狼が守る。突進で近づくものを弾き、小型の花で離れた個体を削り、広間へ張られた糸が残った進路を塞いでいた。


 どちらか片方なら攻撃の合間へ入り込める可能性はあるが、二体で並ばれると、その合間が見つからない。


 戸張が身体を起こそうと右腕で床を押すと、白い虫が肩と背中へ集まり、まだ不安定な上半身を支えた。意識を失っていた間も、白い群体は戸張の周囲へ何重にも壁を作っていたらしい。


 床には削り取られた個体の跡が残り、白い糸が何層にも重なっている。戸張の位置が変わるたび、それに合わせて壁の向きも変えられていた。


 庇ってくれていたのだろうが、老狼と少女は倒れた戸張へ近づいていなかった。


 直後なら白鎧も身体も半分失われていた。老狼の速度があれば首を噛み砕く程度は簡単だったはずで、少女も巨大な花を一度向ければ、それで終わっていた。


「止めを刺さなかった?」


 聞こえる距離にいるものの、二体から反応はなかった。


 老狼はホワイトスウォームを見ている。少女は顔のない頭を僅かに傾け、次の花を作っていた。


 戸張へ興味を失ったのか、回復を待っていたのか、それだけでは判断できない。


 戦闘不能と見なしただけかもしれず、倒れた相手へ手を出さない決まりがある可能性もある。ホワイトスウォームが押し寄せ続けたため、そちらを優先しただけとも考えられた。


 まだ生きているという事実だけを確かめ、戸張は左手を握った。皮膚の下で白い糸が指の形を整えるにつれて力が戻り、胸の内部には痛みよりも強い異物感が残っている。呼吸のたびに、作り直された左側だけが僅かに遅れた。


 戦えるところまでは戻りつつあるが、万全には程遠い。その状態を待つつもりもないらしく、少女の花が再び閉じ始めた。


 攻撃の先には、戸張を守るため集まっていたホワイトスウォームがいる。狼型が一体、前脚を失いながらも少女へ向かい、寄生ゴブリンがその後ろへ続いていた。


「散れ」


 意思を受けた群体が一斉に左右へ分かれると、老狼も少女の正面を空けるために横へ跳んだ。巨大な花の先端が、戸張のいた場所より僅かに右へ向く。


 発射の直前、戸張は周囲の群体へ床へ伏せるよう伝えた。直後に音が鳴り、白い攻撃が広間を貫いて、逃げ遅れた虫型をまとめて消した。


 後方の壁には新しい円形の穴が増え、攻撃の進路だけ床の粉塵が吹き飛んでいる。戸張はその痕跡から、削られた幅が途中でほとんど変わっていないことを確かめた。


 花の先端から真っ直ぐ伸び、進むほど広がる攻撃でもない。狙いを定めてから発射までには間があり、花の向きを変える速度にも限界があるようだった。


 糸に固定されなければ避けられる。


 戸張は広間へ張られた煌めきを見た。普段はほとんど透明だが、粉塵が触れると僅かに白く光り、何本もの線となって浮かび上がる。


 最初の時より見やすい。


 ホワイトスウォームが何度も触れ、切られ、押し返されたことで、糸の位置もかなり把握できていた。


 老狼と少女の周囲ほど密度が高く、外側へ行くほど間隔が広い。戸張を固定した時には、既に白鎧へ何本も絡んでいたのだろう。


 止まって受けるべき攻撃ではなかった。


「上位互換っていうより、使い方が違うな」


 戸張側の寄生体は、身体の補助、装甲、個体の寄生、群体化へ能力を分けている。


 四体の白い人型は自分たちの形を捨て、老狼と少女へ機能を集めていた。少女が大出力を担い、その隙を老狼が埋める戦い方は、攻撃と防御だけを考えればこちらより遥かに洗練されている。


 ただ、四体分を二体へ集めたからといって、何もかも無制限に使えるはずもなかった。


 戸張は立ち上がった。


 左脚が僅かに沈み、身体が傾く。白い糸を腰と膝へ追加して支えると、二歩目からは普段に近い姿勢へ戻った。


 その動きを見た老狼が、初めてホワイトスウォーム以外へ顔を向けた。少女も頭上の花をほどき、白い髪を空中へ広げる。


 顔のない少女は表情を作れず、老狼も牙を見せなければ低く唸ることさえしない。それでも、先ほどまでとは空気が変わり、老狼が少女を庇う位置へ出た。


「やっぱり、起きるのを待ってたのか?」


 返事はない。


 戸張は断骨刀を拾おうとして、途中で手を止めた。


 大きすぎる武器は、糸へ触れる範囲も増える。老狼の速度を相手に振り回せば、こちらから捕まえてくれと言っているようなものだった。


 短柄の戦斧を選び、右手へ持つ。


 背骨杖はまだ動く。魔力も残っており、赤いポーションを二本使ったとはいえ、透明なものと予備の赤は確保してある。


 ただ、同じ攻撃をもう一度受ければ、次も再生できるとは限らない。


 ホワイトスウォームへ正面から押し寄せるのを止めるよう伝えると、広間を埋めていた白い個体が距離を取り、老狼と少女を囲む形へ散っていった。


 圧殺を狙った最初の戦い方は、完全に失敗している。次は数をぶつけるのではなく、二体の連携と糸の使い方を崩さなければならなかった。


 戸張は粉塵の中へ浮かぶ糸の位置を確かめ、戦斧を構えた。


「今度はちゃんと見てから行くぞ」


 老狼の背中で、四つの花がゆっくりと開いた。


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