第322話 騒乱の気配
戸張は六層の作業場で、小人たちが囲む金属板へ電動ドリルの刃を当てていた。
押しつければ早く削れる道具ではない。回転が落ちない程度の力で支え、刃先が噛んだら一度戻す。見本として穴を一つ開けてから渡すと、小人は両手で工具を抱え、戸張の指の位置を真似た。
「そこ持つと、手ごと回されるぞ」
通じたかは分からなかったが、横にいた小人が慌てて仲間の手を直した。
戸張が次の工具を取ろうとした時、脳の奥で急激な違和感が暴れ出した。
痛みではない。寄生体が、離れた何かへ強く反応している。場所も距離も分からないまま、危険だけが伝わってきた。
戸張が手を止めた横で、小人がドリルの引き金を引き、金属板の上で刃を滑らせた。周囲から甲高い声が上がったが、戸張はそちらを見なかった。
「……一体なんなんだ? こんな反応は初めてだな」
寄生体から返ってくるのは、切迫した感覚だけだった。
離れた場所に残した、ごく小さな一部。その近くにいる対象が危険に晒され、待機していたものが動き始めている。
顔も景色も見えない。それでも、外へ置いたままの一部は多くなかった。
「家族…違う、他のフロア……違うな、水門?……違う。まさか、あの外国人たちか」
戸張が口にすると、身体の内側で白い糸がざわついた。
肯定と呼べるほど明確ではない。ただ、向かおうとする感覚は弱まらなかった。
戸張は工具箱の蓋を閉じた。
「悪い。続きは後だ」
小人たちが一斉に顔を上げる。
作業場を出ながら山刀を腰へ差し、断骨刀を用意する。白い糸が腕から装備へ伸び、固定具の緩みを確かめていった。以前とは形が少し変わったが、向こうも間違えはしないだろう。
森の方角へ意識を向けると、寄生体を通じて繋がる個体たちが反応した。その動きは森だけに留まらず、砂漠と湿地へも連鎖していく。
戸張は集まり始めた反応の広がりに気づき、連れていく範囲を慌てて絞った。扉を通れ、人間を避けられ、こちらの意図で呼び戻せる個体に限る。
「動ける奴だけ、ありったけだな。アメリカ側の入口へ」
その意図が伝わると、全ての巣で白いものが動き始めた。




