第267話 戦い方
前回の確認で、離れた場所にある根同士が同時に反応することまでは分かった。
残っているのは、それが同じ種類の植物同士で何かを伝え合っているのか、本当に一つの巨大な生物なのかという違いだった。
八層へ入った俺は、これまで以上に大型の鳥型を広く飛ばした。地上では甲殻類や魚型の反応を頼りに根の少ない場所を選び、狼型と蜥蜴人を連れて奥へ進んでいく。
目的は本体を探すことより、まず根がどこへ集まっているのかを確かめることだった。
「やっぱり、こっちだな」
何度進路を変えても、結果は同じだった。
外側では腕ほどの太さだった根が、奥へ進むにつれて俺の胴体より太くなり、さらに先では大木の幹ほどのものまで混ざり始める。それぞれが別方向から伸びてきているのに、向かう先だけは少しずつ同じ方向へ寄っていた。
地表だけを見れば、途中で泥や水の下へ消えてしまうため繋がりは追えない。それでも地上の寄生個体が避ける場所を拾い、根が再び姿を現す位置を重ねていけば、大まかな流れは見えてくる。
細いものほど外側に多く、奥へ進むほど太い根へ変わっていく。その向きまで合わせれば、木の枝先から幹へ向かって辿っているようにしか見えなかった。
「もう少し奥まで確かめたいな」
俺自身が無理に踏み込む必要はない。
大型の鳥型を何羽かさらに奥へ向かわせる前に、見つけてほしいものだけ大まかに伝える。今まで見た根より明らかに大きいものか、根が集中している場所を見つけたら、その上から離れずにいてくれればいい。
鳥型がそれぞれ別方向へ飛んでいく間、俺は地上側の確認を続けた。
八層の湿地は木々が多く、遠くまでまっすぐ見通せる場所はほとんどない。それでも、寄生個体を左右へ広げていくと、かなり離れた場所でも根の密集域にぶつかることが分かった。
正面だけではなく、広い範囲を囲うように根が集まっている。
「中心があるな」
ここまで来ると、偶然同じ植物が集まって生えているとは考えにくい。
もう一つだけ確かめることにした。
俺はかなり離れた二方向に寄生個体を残し、それぞれ太い根の近くで待機させる。そのうえで手近にあった別の根へ蜥蜴人を近づけた。
「軽くでいい。切って」
断骨刀が振り下ろされ、根の表面を深く裂いた。
反応はすぐに出た。
傷つけた根の周囲で泥が動いたのとほぼ同時に、遠くへ残していた寄生個体からも強い警戒が返ってくる。片方だけではなく、別方向にいる個体まで一斉に距離を取り始めたため、今までより広い範囲で同じ反応が起きているのは間違いなかった。
俺は根をそれ以上傷つけず、全員を下がらせた。
「これで十分か」
別々の場所に生えている植物なら、ここまで広く同時に反応する理由がない。根は奥へ向かうほど太くなり、伸びる方向も同じ場所へ集まっている。
一本の生物として考えた方が、全部辻褄が合った。
「全部、お前か」
目の前にある根を見下ろすと、数キロ先まで伸びているかもしれないその一部が、返事の代わりのようにゆっくり泥の下へ沈んでいった。その時、奥へ向かわせていた大型の鳥型の一羽から強い反応が返ってきた。
危険な相手に追われた時とは少し違う。強い興味と警戒が混ざったような反応で、何か目立つものを見つけた時に近かった。
「何かいたか?」
しばらく待っても、その鳥型は戻ってこない。
どの辺りにいるのかを確かめながら木々の隙間から遠くの空を探すと、一羽だけが同じ場所の上を大きく旋回し続けていた。
「あそこか」
その方向は、これまで確認した太い根が向かっている先とも重なっている。
別方向から飛ばしていた鳥型にも同じ辺りを探らせると、しばらくしてそちらからも似た反応が返ってきた。二羽は少し離れた位置を飛びながら、やがて同じ一帯の上空を繰り返し回り始める。
そこに何があるのかまでは、俺には分からない。
ただ、根が集まる方向と鳥型が見つけた場所が一致しているなら、十分だった。
「やっぱり中心はあっちか」
今いる場所から地上を進めば、その間ずっと根の密集地帯を抜けることになる。
切って進むこと自体はできると思うが、一度傷つければ広い範囲へ反応が伝わる。奥へ行くほど根も太く数も増えている以上、正面から全部を相手にするのは面倒だった。
「根を全部倒す必要はないんだよな」
倒したいのは、その先にいる一体だけだ。
俺は遠くで旋回を続ける鳥型を見上げ、それから周囲へ散っている寄生個体へ意識を向けた。甲殻類や魚型、水陸両用のトカゲ型を含め、今まで調べるために増やしてきた連中がかなり広い範囲に残っている。
根は離れた場所で何か起きても反応する。
俺の中で、いくつかの情報が繋がった。
「……なるほど」
寄生体が何かを感じ取ったのか、俺の中で少し騒がしくなる。
「いや、お前が思ってるのと同じかは知らないけど」
俺は背中に手を回して白鎧補装と背骨杖に問題がないことを確認し、それから蜥蜴人が持っている断骨刀へ目を向けた。巨大な刃は八層へ来てから根を切る時にも使っていたが、あれはこんな細い根を相手にするために作った武器ではない。
「ちょっと借りるぞ」
蜥蜴人から断骨刀を受け取る。
久しぶりに自分で持つと、ずっしりとした重さが両腕へ乗った。普通の人間が振り回すことを考えていない大きさだからこそ、俺が使う意味がある。
断骨刀を肩へ担ぎ、遠くで円を描き続ける鳥型をもう一度見た。
「戦い方は決まったな」
俺の中の寄生体が、今度ははっきりと喜んだ。




